2-16.「リズと一緒に王都観光(2)」
◇
「着いたようですね」
馬車に揺られること10分もかからず、最初の目的地に着いたようだ。
ちゃんと俺たち王侯貴族とその家族用の高級な仕様な馬車なようで、全然揺れは感じなかった。
馬車を降りて周りを見渡してみると、やはりそこは上級貴族達の居住区で、そこに住む貴族たちが利用しやすいよう高級そうな店がいくつか見える。
まぁ、貴族なら外出せずに家に店の人間呼ぶ方が多いかも知れないけど。
そして気になる事に、人が少ない。
昼間の王都の街だってのに人で賑わっていないのは、俺たちの為に規制でもかけたのかな?
「お初にお目にかかります、ジークエンス殿下、リズ殿下。私はエルモパール商会及びセルキア子爵家のメイカル・セルキアと申します。今日は、案内を勤めさせて頂きます」
「そうか」
馬車が近くに止まった店のその前には、10人以上が頭を下げて一番前のメイカル・セルキアが名乗った。
黒髪の長髪だがしっかりと男性だと分かる体躯のメイカルは、俺たちを店の中へ招待する。
◇
「ここでは幅広い服を用意しております。
殿下方が普段、見る事のない物も用意してあります」
店は洋服店だった。
メインターゲットが上級貴族で、気紛れで入る店ではないからか店の外装だけでは判断がつかなかった。
老舗だろうし、客も固定客だらけだろうからその必要性がないのかもしれない。
「おに、お兄様! このお店凄いです」
「よかったじゃないか。リズが気に入った服はまた見せてくれ」
「はい!」
元気よしなリズは、専属メイドのアリスと女性店員を連れて近場から見て回っている。
リズは普通の女の子だよ。な。
リズが指示した服を店員が確保するのだが、変わった服も多い。
奇抜なデザインという訳でじゃなくて、メインターゲットが買わなそうなメイド服やらエプロンやら作業着。若者が好みそうなドレスコードに反した服などが置いてある。
メイドがこの店を使うのか?
「おいメイカル、あの服は誰が買うんだ?
この店の客は貴族だけじゃなのか?」
「いえ殿下、メイド服を統一なさりたい貴族家も大変多くありますので、数種類のメイド用の服を取り揃えています。
そしてこの店には、探索者のお客様も多くいらっしゃいますので、彼らから人気が高い商品も揃えております」
「そうか」
リズはその物珍しさから男用の服も買う気なようで、店の広さ的に少し時間がかかりそうだ。
そして実際、全ての服を見て回るまでに30分以上かかった。
「なあリズ、こんなに回るなら城に呼んだ方が良かったんじゃないか?」
「いいえ、お兄様。見て回るのが楽しいのですよ」
って、分かってはいたけどこんな会話も起きるが、本当に楽しそうに服を選ぶ妹の姿は可愛かった。
待ってた価値もあるもんだ。
購入した量が余りにも多く、そのまま城に送ってくれるようだ。
実際に店頭でお金を使ってみたかったらしいリズは、城で纏めて決済すると聞いて落ち込んでいた。
店を出た俺たちを見送る為にと、店員が店の前に整列するとメイカルは自分の後ろから男女1人ずつを前に出した。
「この店の店主と副店主です。御利用の際は彼らを頼り下さい」
「そうしよう」
そしてメイカル含む俺たちは馬車へ乗り込み、次の店に進んだ。
後方では店員達が俺たちを見送っていた。
◇
「先の店よりは物珍しい品は少ないと思いますが。素晴らしい品が見つかるかと思います」
「宝石店、か」
1分も馬車は進まなかったし、さっきの店から徒歩圏内。
次の店こと、宝石店に着いた。
良い店の近くには良い店があるってさ。
次の店に向かう前にリズから、服は沢山買ったから他の服はまた次の機会でいい。
との事なので、早速予定変更で宝石を買いに来た。
勿論、ここもリズの希望の店だ。
「見て下さいお兄様。真っ白で、透明で凄く綺麗ではないですか?」
「確かにな。私は兄様方のように宝石好き。ではなかったが、私もいくつか持ってもいいかもしれんな」
そう懐かしみながら、いくつかの宝石を吟味する。
でも綺麗だけど、物がよく判らないんだよな。
その隣で、自然と顔を近づけて宝石を見るリズは白く透明な物を見てる。
「一緒の物を選ぼうか。この白い石はどうだ?」
「そうしましょう! お兄様とお揃いがいいです!」
「分かった、そうしよう。ーーおい、これの名前は何だ?」
俺は、俺たち2人に邪魔しまいと離れていたメイカルを呼びつける。
「コレは……ダイヤの宝石ですね。人気の高い宝石でして、無色透明な見た目でかなりの硬さもあります」
「ダイヤ? まぁ、この状態の鉱石を一つと、加工して指輪とネックレスにしてくれ。
ーーリズもそれで良いか?」
「は、はい! お兄様!」
拳骨サイズのデカい塊があったので私的に使う用に1つと、リズとお揃いの装飾品を購入した。
そして、サラッと紹介された店主とどんな物にするかを決める。
リズも今度こそはと、用意した財布の金具開ける。がま口だ。
「加工に時間がかかりますので、出来上がり次第城に運ばせて頂きます」
「いつ頃までに出来るんだ?」
「10日以内には、お届けできると思います。ですので殿下、代金はその時と……」
「分かっています。分かっています。」
パチンっ。と金具を閉めたリズは、若干拗ねてるよな。
何か、後払いが効かない物なら現金払いでの買い物はできそうなので、ローザとアリスに伝えておくか。
◇
さっきから近場をグルグルとしてる感じがする。
馬車に乗ってまた、1分もせずに次の店に着いた。
「ん、ここはエルモパール商会の本店か?」
「その通りです殿下、エルモパール商会の本舗は元々魔道具を扱っておりまして、事業を拡大した今でもここでは魔道具を扱っております」
魔道具かー。それは気になるな〜って違う。
商会のメイカルが案内したからには、さっきの店両方がこの商会の傘下。子会社なんだろう。
けど、異母弟のマグヌスがここの後継(父の言葉より)で、俺たちは初対面じゃない。
昨日顔を合わせちゃってる。
「では、中へお入り下さい」
何か仮面とかで変装するべきだったか?
いや、じゃなくて。
そのマグヌスとチェリンの母親は、俺の義母だけど王妃じゃない。
俺なら面会拒否しそうな関係性で、王族の俺たちと庶子とその母なんて、会わせるものじゃないよね!
「初めましてジークエンス殿下、リズ殿下。この商会の主人であるクラウディア・エルモパールでございます。
こちらは私の後継であるマグヌスと、その妹のチェリン。長い付き合いになる事でしょうし、どうぞ名前だけでも覚えてあげて下さい」
室内で待っていた義理の母クラウディアと、昨日ぶりの再会になったマグヌスとチェリン。
マグヌスは、俺の顔を見て明らかに驚いている。関係ないが昨日より若干体脂肪が落ちているようだ。
チェリンも、兄のマグヌスと同じく驚き口が自然と開いていた。これも関係ないのだが、部屋の店員と同じくメイド服を着ていた。
「あ、ぁ、あぁ、はい」
そして俺も驚きを隠しきれていなかった。これは関係ないのだが、前の店からリズが俺の右手を握り続けていた。
握る前には頬も赤らめていて、これはブラコンだった。