2-14.「王より、昨夜の事件の真相」
「「おはようございます。殿下」」
「おはようございます。ジークエンス殿下」
「2人ともおはよう。婆やも」
ベッドの両脇のメイド×2と少し離れた位置にいる婆やに朝の挨拶をする。
昨日の夜は、初めてで少し特殊な体験。
『城下に降りて義妹救出』をしていたので、いつもよりぐっすりと眠れた気がする。
「殿下。食後終わりに部屋を尋ねるようにと、陛下から言われております」
「あぁ、分かった」
更に入室した、他のメイドや執事達に衣服を着替えさせながら、婆やから大事な話を聞いた。
王からの話って言ったら、多分昨日のアレだ。
俺が城下に降りるキッカケになった一つの手紙。
アレはセレスティア家から送られ、父が俺に渡すように言ったらしい手紙。
中身の内容が内容なので絶対気に留めただろうし、それを俺に促すように渡した理由も知りたいところだ。
◇
この3年で城にいた兄達は、2人とも他の領地に行ったらしいのでいない。
食卓には、セシリア母とステイシア母にアシュレイ姉と妹のリズと俺。
父はもう済ましているので、男は俺1人だけだ。
食後。
昨日普通に人を殺した気もするけど、食事は変わらず喉を通ったな〜。
「あの、お兄様。今日お兄様と一緒にやりたい事がありますの」
「ん? それはなんだリズ」
「はい。実はーーお兄様と、城を降りてみたいですの」
今は食後のお茶の時間で、みんなで話をする時間だ。
俺の隣の妹のリズが、俺に話しかける。
食卓の座る場所は父がいない日は割と自由で、今日の俺は父の席の横で食事をとり、その横でリズが食事をとった。
確か、俺と一緒に城下に降りたいって言ってたな。
俺の足が治ったら行く約束もしてた。
俺はこっそり降りちゃったけど、リズは初めてなんだっけ。
「分かった、一緒に行こうか。でも私は陛下に呼ばれているから、その後でな」
「はい! ありがとうございますお兄様!」
俺の了解に笑顔で、リズは元気よく答える。
笑顔で感謝されると嬉しいよね。
その笑顔も可愛いし。
「ガーベラ王女が来たらお兄様と2人きりでいられないから、今日しかないの」
「リズの為なら時間も作るけど、『歩けるようになったら』と約束もしたからな」
「はい! 歩けるようにもなりましたし。」
相変わらずリズの元気は良いよ。
今度は手振りを付けて表現してくれて、やっぱり彼女は、静かなこの兄妹の中で一番元気がいい。
「リズはいつも元気がいいわね」
「そうですよね」
そう言ったのはアシュレイ姉だったが、2人の母もその表情から絶対似たような事を思ってるよ。
他の女性3名は、俺たちをみて微笑ましそうに笑ってたから。
◇
「ジークエンスです」
「入れ」
妹と約束も作ったので、先に用意されていた父との予定を消化しにやって来た。
いや、そんな適当な気持ちで来た訳じゃないじゃない。
『自分の娘の命の危機を俺に任せた理由』とか、『そもそも初めて知った庶子の事』とか真面目に聞きたい事があるのだ。
扉を開いて、部屋に入る。
中では王が椅子に座って俺を出迎えてくれた。
王は部屋にいた騎士を退室させて、王と俺と1人残った王の騎士の3人だけになった。
「昨日の手紙だが、アレは私がジークエンスに渡すよう指示したものだ。内容も知っている」
「そうですか。その理由は、私に救出に行かせたかったからですか?」
「そうだ」
この問答で少し予想していた答えだ。
そして父は「そうだ」の後から話を続けてく。
「『セレスティア家から手紙が届くから、それは宛名のジークエンスに任せてみて』と、神殿での祈りの際に天使がそう提示した」
「天使ですか……」
天使といえば、名前のイメージと違って構ってくれるいい天使達。ってイメージの3人の天使を思い出す。
と言うか、俺を知っていて気にかけるのは彼女らしか知らない。
まだ俺に構ってくれるんだ。
「天使は、人より神に近い。内容を見てお前に任せる事にした。そしてそれを成せるかどうかも、お前の評価の一つにした」
「チェリンは救いましたが、私と彼女。そしてマグヌスは兄弟なのですか?」
天使の言葉を聞いたとか普通に驚きだが、チェリンとマグヌス。
俺と彼らは兄弟かもしれない。
その事をしっかりと聞いておかないと。
「マグヌスはお前の一年後に生まれた、お前の弟だ。チェリンはリズの3年後に生まれた妹だ。 モナークには教えたが、お前も分かったのだな」
「はい。そしてもう一つ『庶子』の扱いについて知りたいです」
後で調べれば良いんだけろうけど、古い古い決まりより今の王がソレをどう考えるかを知りたい。
多くの事は王権でなんとか出来るのが王だし。
「マグヌスはエルモパール商会の後継で、2人は生活できるはずだ」
「王位は、どうなるのですか?」
「剥奪はしていないが意味は無い。潜在的に存在するが封印している。 マグヌスとチェリンの2人の本来の王位は無視され、互いのこれからに障害は残らないはずだ」
端折った説明から説明を求めると、踏み込んだ答えが返ってきた。
マグヌスとチェリンの2人の王位は封印されていて、でも大きな商会の後継なんだしお互いに障害にならないだろう。
と、まあ。これは父の優しさだろう。
「そしてあの魔人だが、よくやった。頭の出来は中途半端だがよく捕獲した」
「ありがとうございます。では『私の評価一つ』の話を聞かせて頂いて宜しいですか?」
「ジークエンス。お前が領地を治めるに十分かの目安だ。『アテン・ザ・ミステル』は重要な地の一つでもあるからな」
「ん、そうですか……?」
俺的には、俺が義理の妹を助けるのと、将来領地を治める事の関係が分からない。
「分からないのか? お前が家族の為に動けるかをみたのだ。 結婚式を挙げてから領地へ向かうお前が、イルシックスの王女とその血を守れるかを考えた」
「勿論ですよ。家族を救うのは当たり前ですから」
「そう思っているなら、合格だ」
お互いに特に話す事も無くなったので、俺は王の部屋を退室する。
父からは、俺の許嫁のガーベラ王女をイルシックス王国の血を優先してる感を感じなくもない。
王国間での結婚だし、察せれる事だけど。
でも俺は、そうは考えない。
結婚するなら血筋じゃなくて、俺は彼女を愛してあげるべきだしそうするだろうし。
息子夫婦と当人達の感覚は別れるもんだよね。
まあ、後一年あるし気が早いか。
それにガーベラって名前は幼名だし。