2-7.「新魔法の効果」
アシュレイ姉とリズリーから、俺が眠っていた3年間で本来やるはずだった予定を聞いた。
「やはり私のやるべき事は、少ないですね」
「いいじゃない。私たちで作った魔法が認められたのよ? 貴方に時間を与えれば強くなり、有用な魔法も創り出すと」
「お兄様よりも私の方が、予定が少ないです」
「リズは女の子だからな」
紙には色々と書かれているが、予定はかなり少ない。
絞ったやつだけじゃないか? って程に。
この資料の中身をまとめると、
・社交界にデビュー。
・自身の将来の領地である「アテン ザ ミステル」を見回ること。
及び領内の、国内最大の迷宮に入る事。
・イルシックス王国とそこのガーベラ王女への訪問。
・帝王学と国の実情を知る事。
・そして城下に降りること。
社交界は、軽く交流してダンスを眺める程度。
ダンスは踊れるが、決まった相手がいるので踊らない。
一応、帝王学は受けてたけどもう一度学び直せって事らしい。
『王には王権があるんだから、国の運営は難しくないだろう』なんて考えている俺に王は向いていないのだろうが。
更に重要な項目が『城下に降りる事』だ。
空路が無いこの世界なので、何処へ行くにしてもまずは城から降りないといけない。
1人で歩けるようになったらまずは、城から降りないとな。
そして、将来の領地と領内の国内最大の迷宮の観察。
この国の都市の一つで通称『迷宮都市』。
迷宮で湧く魔物を倒し、戦利品や依頼などで生計を立てる探索者の街。
ジークハイル王国でも大きな都市だが、文化が他とは大きく違い、
魔物の肉が住人達の主食だったり、対魔物での戦闘能力が高い人達が多かったりと
王都では、そんな話をよく聞く街だ。
そして、イルシックス王国への訪問。
許嫁である王女とも再開する。
と、3年分の予定のはずなのに必須行事は少なめだ。
アシュレイ姉の言う『私たちの作った魔法が認められた』だが、
『暇なジークエンスは剣技と魔法を続けるだろう? それに、今まで通りアシュレイ姉と一緒に魔法も作ってるだろう?』
って事だ。俺もそんな事だと思ってる。
俺はこの内容を、3年間時が経ったバージョンでやる必要があるのだそうだ。
勿論、これ以外の小さなイベントもある。
けどこの体は才能があるので、何をやるにしても上達も習得もスピードが早い。
3年分の少ないスケジュールも、早いこと消化出来るだろう。
「私と一緒に、お兄様も頑張りましょう!」
「ああ。そうするか」
「私、お兄様と一緒がよくてまだ城から降りた事がないんです」
「そう……だったのか? なら私が1人で歩けるようになったら行こうか」
「はい!」
俺とリズは3歳差で、俺は3年眠っていたから一緒に初体験が出来る。
でももう11歳なんだから、そろそろ兄離れしておいて欲しかったなぁって。
彼女も将来は結婚するだろうし。
だけど、うちの姉妹は許嫁はいなかった。
また、できたかどうか聞いてみるか。
◇
あれからまた数日。
今では2人の支えなしの(もしもの為の杖有りで)歩けるようになり、現在は食卓で朝食をとっている。
前は2人の兄がいて賑やかだったが、今は2人の母とアシュレイ姉とリズリー。そして俺だけで少し静かだ。
父はいつも通りいない。
「あ、そうだジーク。貴方ガーベラ王女が名前を変えた事を知っているかしら?」
「ええ。陛下から伺いましたよ」
「その王女が、ジークハイル王国に来ているみたいよ」
「もう少しで到着すると言っていたわね」
「それは知りませんでした」
体感では数日振りのこの時間を楽しみながら、アシュレイ姉とセシリア母と話しをする。
城の女性は暇なのか、新しい情報を結構持ってたりする。
「お兄様に会いにですね。ガーベラ王女はお兄様が眠っている事を知っていますし」
「そうなのか?」
「はい! そして来年には2人とも成人ですから、それに合わせて来られたのですね」
「あー、私ももう成人年齢だったか」
俺ももうすぐで成人すると、すっかり忘れていた。
彼女は俺との結婚やらに合わせて、目を醒ました俺に会いに来たのか。
「ジークは、新しい魔法を使ってみてどんな魔法だった?」
「ああ『神通力の宿命通』ですか? 姉様の魔法と名前が似ていましたけど、どんな魔法なのかよく分かりませんでした」
「そう? ならまた一緒に研究ね」
俺の新魔法である『神通力の宿命通』に母2人も興味津々だったのではぐらかしておいた。
魔法の発動はできた。のだが、その魔法の概要が俺の前世を見るって魔法だったのだ。
その中で複数の前世を見て、
俺的前世の世界観と異世界的世界観は、
異世界6割:現実世界3割:その他1割って感じだ。
男にも女にもなった経験があるようで、細かい世界観の差異とか知れて面白いけど、言うと絶対変だと思われるので、メイド執事達がいる前では話さなかった。
また今度姉と妹の2人には、結界の中で話してみよう。
ただ、この力はただ知る能力。
なので、お湯をかけても水をかけても変わりません。
「美味しかったわ」
話も一通り終わり、セシリア母のこの言葉で朝食は解散だ。
◇
その日は杖が不要になるまでのリハビリと、帝王学やらの情報と、近況報告3年分を情報として詰めていたら夜になった。
「殿下、サーシャさんから、この手紙を渡すよう言われまして」
「この時間にか?」
「はい。もうすぐ就寝時間ですが、早く読むようにと」
「貸してみろ」
ナイフで手紙の封を切ったメイドのローザが中の紙を俺に渡す。
その内容はーー
「『お前の義理の妹を誘拐した。』だと? おい、さっさとリズがいるか確認させろ」
「は、はい!」
「『いや待て『大ごとにすれば殺す』?
私達で見に行くぞ」
ふざけた手紙だ。
俺は全文に目を通すと、手紙を机に放り投げて扉を開けて、リズの部屋に向かった。