2-4.「3年間の情報更新」
あの後はぐっすり眠れた。
俺に自覚はなかったが、ずっと動かした事がなかったこの体は疲れたのだろう。
「「おはようございます殿下」」
「あぁ、おはよう」
寝起きの俺に、ベッド脇のローザのサーシャが朝の挨拶をする。
寝過ぎで頭痛がある訳でもなく、良い朝が来た。
相変わらず、俺の全く動けない体は急に動き出したりする事はない。
2人と軽く話しをしながら、着替えさせられる。
「2人で大丈夫なのか?」
「はい。ですがあまり動かないで下さいよ」
「年々慣れてきましたからね」
かけられていた毛布をどかして、俺の寝間着を脱がしていく。
そもそも服は脱がせやすいようになっているようで、背中を浮かす必要がない横ボタンになっている。
下は特殊なものではない。
だが2つともモフモフしてて通気性を悪くないと感じる。
それと、起きた後聞いた事だが
ズボンの下の処理は、使い捨てのオムツだそうだ。
下半身の感覚でしか分からないが紙オムツじゃない。
いつもの下着より柔らかい毛糸のパンツ感だ。恐らく材質は違うだろうけど。
こんな事を3年も続けていたのか。
流石メイド。
だが、そんな事を2人の女の子にやってもらわないといけない恥ずかしさが問題だ。
着替えだけならいいけど、流石に排泄の手伝いは恥ずかしいだろうっての。
◇
今から、食事を終えた父と話をする。
着替えたと言っても、服装はさっきとほとんど変わらない快適さ重視の病人用だ。
とても王と一対一で話す衣装じゃないが、父からセッティングしてきたので、気にしない事にする。
ベッドの脇にいるサーシャは、俺に説明をする。
「陛下は直々に、殿下にこの3年間の事を説明なさります」
「なにも、書面で送ってくれれば読んだんだがな」
「直接話されたい事があるのでしょう」
「殿下。お越しになられました」
サーシャから説明を聞いていると、ローザが口を挟む。
どうやら来たようだ。
◇
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
屈強で見た目から強そうな騎士を連れた王。俺の父が入って来た。
あの騎士は、近衛騎士で幼い頃からの仲なんだっけ。
少し前、数度打ち合ったがかなり強かったのを覚えている。
名前はブラッドリー・ファイン。
騎士爵の最高位の、伯爵の爵位を持つ騎士だ。
そのブラッドリーは窓側の、俺のベッドの右側に立っている。
「私がお前に、直接3年間の話を聞かせよう。そのまま聞いておけ」
メイドの2人に支えられながら、俺は父の言葉を聞く。
「お前の奮戦により、セシリアとアシュレイの命は助かった。
だがセシリアとお前の怪我は酷く、お前に至っては全治した後も眠り続けたままだった」
「……」
「そしてあの直後、報復の為の遠征部隊が組まれた。
モナークも、ハイルハルトと共に訓練して部隊に参加した。
我が国の魔法師団長と選抜騎士と、選りすぐりの戦士数10名で西の国にある魔界に攻め込んだ。
そこでの戦果は上等のものだった。
少ない犠牲で敵を倒し、モナークやハイルハルト達は帰還した。
召喚獣が機能したと聞いている」
召喚獣って、俺も召喚魔法をもっと使えるようになってれば!
と言うか、あんなに強い悪魔を倒したなんて凄いな。
「あの国の城の中は、その全てが魔人だった。遠征軍が倒したのはその中の数人だけだ。城の大きさと一階の人の多さから100人を超える魔人がいるだろう」
城の中が全部魔人って、メイドも執事も貴族も主人もみんな肌が黒いと言うことか。
改めて、これまでの記憶と身近には黒い肌の人間がいない。
白かベージュ。
褐色すら、俺は見たことがない。
「だが、その中にお前が見た3体はいなかったな。恐らくあれは奴らの斥候部隊。
お前達を無力化する力がある、戦闘能力のある3体だったのだろう。
そしてもうあの国は壊滅状態だ」
まあ、実際殺しにきてたし。
その力がないと意味ないしな。
それと、報復はなされたのか。
復讐リベンジの機会はなくなってしまったな。
父はそこであの日の話を終わらせた。
「結界は、あの日より強固な物とした。
そしてもしもの為に、お前達の王権で王宮内の緊急装置を使用可能にした」
「緊急装置ですか?」
「王宮内での緊急事態に、戦闘に必要な武器を用意する為の装置だ。また、アシュレイにでも聞いておけ」
護衛や専属メイドでも、人がいるところでは話せないのか、今教えてくれそうにない。
またアシュレイ姉に教えてもらおう。
「そして、イルシックス王国との関係だが、オリンポス公爵に記憶は残っていた事で国交は途絶えずに済んだ。
モナークの結婚は1年伸びたが、今は旧都で一緒に暮らしている筈だ。
そしてお前の婚約もそのままだ」
「ガーベラ王女ですね」
「『ガーベラ』という名は儀式に使う幼名だそうだ。今の名前は本人から聞くといい」
「分かりました。ありがとうございます」
俺が寝ている間に父は王として、王の仕事をやっていたのか。
やりたくないな。前世の知識も相まって大国の王なんてやりたくない。
そして旧都ってのは、解体された旧エルレント公爵家の事だ。
王家に反乱を起こそうとしたが、王権の前に破れた一族として歴史に残っていた。
その時代は成り上がりも多く、その中で唯一味方に裏切られない国としてジークハイル王国は大きくなったという。
騙し討ちしようとしたら返り討ちにされた感じだ。
更にさらに、俺の許嫁の話だ。
ネタバレなしで嬉しい配慮だ。お父さん。
ガーベラって幼名なんだね。姉のベルベット殿下と同腹のはずの2人で、幼名の有る無しが違うのか。
それにしても、3年前も起きない男とよく婚約解消しなかったなと思う。
一生起きないかもしれないのに、それを知らなかったのか?
なら彼女はまだ、この国に来ていない。って事なのか?




