2-3.「眠るにはまだ早い」
身体は動かないし魔法も使えない。
両方とも理由は、俺が自分の体を3年間も使わなかったからだろう。
人は魔法を使う時は、魔力を体の中で循環させるものだ。
俺の感覚だと、1日も時間は経っていないがこの体は3年間も動かしていなかった。
だからさっき。実際には3年前と同じ感覚では魔力は扱いきれないのか。
「そして、寝続けていたこの体に負荷がかかるか」
少しの痛みがある。
別に、嫌な臭いがする訳でもないので、体は綺麗に洗われているのだろうが、寝たきりだった体の体力は大きく落ちていた。
少しの魔力を通すだけでも、この体には大きな負荷だ。
大して身体が動かないのに、体の中を動かそうとしているのだ。
「大丈夫……ですか? 殿下。」
「ああ。」
魔法が使えるか試してた俺の異変に、ローザが気がついた。
そして、顔を赤くさせたまま聞いてくる。
「お前は眠らないのか?」
「え、いえ。眠ります」
「なら早く寝ろ。私も寝る」
今はなにも出来ないので、もう寝る事にした。そして明日の朝から動き出そう。
ローザは俺の身を正し、掛け布団も正す。
ちなみに布団といっても、前世と比較して上等品だ。
そして、なんだかローザの態度には少し違和感だな。
「殿下、失礼します」
そして壁の外から声が聞こえた。
◇
入って来たのは騎士候補のメルティだ。
ちゃんと3年分……、女性らしく成長している。
「過激な事はやめておいた方がいいですよ」
「メ、メルティさん……!」
「今日の夜間のお世話役は私のはずです。あなたも明日の為に早く寝た方がいいですよ」
「分かっています」
メルティのローザに対する態度は恐らく、顔を俺に近づけ過ぎているからだろう。
動けない俺に、ローザが無理矢理迫っていると見えたのか。
もうベッドも整え終えて、確かに近づいたままの理由はないが。
そして顔を離したローザは軽く荷物をまとめ、部屋から出て行った。
今度はメルティと2人きりだ。
「お前はメイドになったのか? 騎士候補だったろう」
「今日は殿下が目醒められた日ですから。殿下の騎士である私が護衛します」
「騎士?」
「すいません。まだ殿下の騎士候補です」
俺が眠っている間に騎士になったのかと思ったら、まだ俺の騎士候補なのか。
そういえば彼女以外に専属騎士の候補はいなかったな。
「あの殿下、少しお話しいいでしょうか?」
「あぁ」
やる事がないので眠る気でいたが、ついさっき起きたばかりなので眠れない。
少し様子が変だったローザではなく、真面目なメルティを話し相手にする。
「私は……。あの日から後悔していました」
「?」
「あの夜、私も同行していれば殿下方を守れたかもしれないのに。と」
急に話が重いな。
多分、あの夜のことだろう。
別に気にしなくていい話だし、相手はするけどさ。
「あの時だな。あの部屋では何か起きたか?」
「いえ、何も起きませんでした。」
「よかったよ」
「で、ですが私は……ッ!」
忠誠心の高いことだ。
俺が重症を負っている時に、無傷で戦闘圏外にいた事に悔いが残ってるのか。
それとも、自分に怒りがあるのか。
そう思ってくれるのは少し嬉しいな。
「よく、私の大事な妹の命を守った」
「殿下……。」
「同じ床で寝ていた兵士には、私は妹の命は守らせなかった。誇りにしておけ」
あの時は、俺が見回っている間に敵が部屋に戻っていても不思議じゃなかった。
そんな中で、一番に守るべきの妹のリズを守らせる戦力にしたんだ。
メルティなんて、剣の実力俺以下で床で寝ていた老騎士の方が少し強いほどだ。
「眠っている妹の安全確保は当然のことだ。それの護衛として選ばれて守り通したのだから、しっかり誇るべきだろう?」
「でも、殿下は……」
「それでも俺が、他に戦力が欲しいと思っていたなら、そこらの騎士を立たせて連れて行った。お前に妹の命を預けるのは変わらなかったよ」
「う……」
まだ納得していないようだ。
3年間悩み続けたろう話だろうけど、納得しないな。
「私は生きているんだ。次に私が命の危機になったなら体を張ればいい。
だが、俺の代わりに攻撃を受けて死ぬなんてしてくれるなよ?」
俺の代わりに攻撃を受けて死にたかったのか? それとも、体を張って肉の壁になりたかったのか?
自分が女だと分かってほしいな。
女騎士が体を張って自らの主人を守るのはグッとくるが、自分の騎士にはそれは求めない。
「俺が生きている事に喜んでいればいい」
「あり、ありがとうございます殿下。私の些細な話に答えて下さって」
「主人の妹の護衛を些事と思うなよ? 主人からの命令を守りきった事も忘れるな。そして主人が生きている事を忘れるな」
「はい!」
事実を良い話風にまとめて、伝えてみた。
まあ彼女は、主人である俺が生死不明だったから不安だったんだろうな。
今度からはずっと側に置いておくか。
そういえばメルティは、婆やと一緒になって俺を止めてたっけ。
止められなくて、それで罪悪感があったのかな?
「もう寝よう。お前はどうするんだ?」
「私は護衛でもありますので。」
話を切り替えた俺にメルティは答える。
眠気はないのだが、目を閉じていたらいつか眠れるだろう。
少し晴れやかな顔になったメルティは、目を閉じて中々眠らない俺が静かに眠るのを待った。




