1-51.「3年後のためのプロローグ」
ここに来るのは2度目だな。
視界は良好。
目の前には3名の女性がおり、この8年前にもあった天使だ。
容姿に変化はない。
自殺して人生を再開するなんて、特殊な体験はもう一生できないだろう。
まあ、一生は終わってるけど。
「来たか」
初めて聞く声だ。
厳かな男声につられて視線を回すが声の主は見当たらない。
低く大きかったので、発声者は巨体なのかな?
巨大な巨体ってね。
「不敬よ」
「神からの言葉です」
「黙って、無心で聞きなさい」
目の前の天使のうち3名に注意されたので、頭を切り替え、空っぽにする。
心の中を読まれたのかな。
「完全に死んだ、その魂をこの世の人間に戻す。残機は死に、不死は消えた。
その命は、粗末にせぬ事だ」
「ーーはい。分かりました」
上位者であろう、神。
前世でのドラクルーア神の言葉から察するに、こらはジークハイル神の言葉だろう。
俺の魂を戻すって言ってたし。
「では、説明を始めますね」
「転生後の説明からです」
「はい。貴方は本来の体であるジークエンス・リートに戻ります。その時に注意点と変更点がありますね」
ジークハイル神に続きの言葉は無く、天使達の説明に移った。
なんでもジークエンスに戻ったら、何か変わっているらしい。
「貴方の前世の体は死にました。病室でしたので遺体もすぐに焼かれます」
「それによって、ジークエンスが持っていた魔法の『氷結魔術』『召喚魔法』『残機の仕様』のうち、残機の仕様は変更されました」
「即ち、もう前世の体に戻る事は不能となった。という事です」
3方向から分かれて、天使は言ってくる。
もう生き返れないし、前世には戻れない。
と、まあ。天使の言う通りに病室なら死体の発見は早いだろう。
焼くまでに色々あると思うけど。
半分を食べやすく切ったリンゴ(梨?)を、食べながら俺を待つつもりだったらしい前世の妹の理沙も、部屋にいなかったけど病院にいたのかな。
俺自身が即決した事だが、悔やんでももうしょうがないし、悔やむのはしょうがない。
でも重い話だな、今は忘れよう。
「更に、貴方には魔法が増えていますね」
「『神通力の宿命通』。貴方の国の、魔法の定義は『生まれつき持つ、神にあてられた力』のこと」
「例外ですね。残機の仕様に特殊性は無くなりましたけど、ラッキーですよ」
「貴方の、ただ死ななかっただけで魔法を得るなんて有る事じゃありません」
「そんな貴方です。この発現には特殊性がありますね」
天使達は一言ずつ、くるくると発言の順番を変える。
俺を囲んだ3方からなので、面白くてユニークな感覚だ。
少し聞きづらいけども。
内容は俺に増えた新魔法。
でも神通力って、それってアシュレイ姉の『神通力の他心通』と似たような魔法なのか?
「神通力はなんなんだ? 姉もその神通力の魔法を使えるんだが」
「魔法の種類よ」
「6つあるうちの貴方は1種類を新たに手にしたの」
「ーーそうなのか。ありがとう」
俺の質問に答えた天使達は、説明を続ける。
「貴方の1番重視していたのは戻る早さでしたね。それを教えます」
優先順位1番は早く戻る事だったが、バレてたのか。
戻れる事が確定したようだし、確かに知りたい情報だ。
「貴方が残機の魔法で前世に逃れ、再度転生するまでに1日もかかっていないはずです」
「ですので転生はちょうど3年後になります」
「少年期の青春で、安易に転生してはならないと知れましたね」
「ーーいや、なんで3年もかかるんだ? 俺は、今直ぐ戻して欲しいんだ!」
3年も動けないなんて考えていなかった。
戦線復帰を期待したし、状況が変わっていたなら治療でも遠征でも、魔力を回すだけでもなんでもやったのに。
そんなに時間がかかるという事に、心当たりは無い。
「あら、分かりませんでしたか?」
「神と人間の時間差ですよ」
「貴方だって、ジークエンスになったのは3歳からでしたよ。特権は無いですし」
0歳から意識を持つには超特別な特権がいるのだが、それはなくて。3年後から覚醒するのは、神と人間の時間差。
ってことなのか?
『特権』の言葉を主張するように言ったからそう思った。
でも、だからこそ。ならばこそ。
ここで騒いでてもそれだけ、俺が戻るのが遅くなるだけなんだろう。
「少しでも早く戻してほしい」
「それは人間の問題ですからね。でも貴方の気持ちは分かりますよ」
「では、私たちから」
「「「 あなたに祝福を 」」」
3名の天使に祝福されて、この空間にはサヨナラだ。
1秒でも早く戻って。
あの時が好転してることを願って。
でも願うだけじゃない。
俺の行動を起こし成すだけの力があり、力ずくの選択肢がある。
転生したら、覚えていろ