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1-50.「デッドエンドでは終わらない」

「『お前は死んでいないぞジークエンス。そも、擬似的な不死だ』」



 なんだ? 

 俺の夢想に声が割り込んでくる。

 当然のように、その声の発音元を探す為に視覚に頼る。


 さっきまでは、まるで夢の感覚だった。

 あ一人称の夢が、トンデモでも夢だと思えないように目を開ける事はしなかったな。

 だが、ただ前世の記憶を取り戻して感傷に浸っている状況に他人が入って来たとなると途端に不安になって情報を求める。


 目を開くと、そこは知らない天井だった。

 俺としては、生きているのだからジークエンスの部屋のベッドで眠っている事を望んだのだがな。



「あなたは死んで、『残機』を使ったのよ」



 さっきとは違う声が聞こえる。

 具体的に言えば、さっきは男声で今のは女声だ。

 目と顔を動かし、やけに乾いていて痛い目をしばたかせながら、喋る。



「簡単に死ぬんだな。ーーん?」

「いや、ジークエンスはかなり生き長らえたわよ」

「サガラは呆気ない方だったけど」

「目を閉じて黙っていなさい」



 視界を広げても、声の主は見当たらない。

 そして体験して気づく事に、

 発声するだけで喉に潤いがない事と、明らかにジークエンスの声じゃない事も分かる。

そして、この体に力が入らない。

 そして水分がなく乾いた目と口が限界になり、それを閉じる。



「『ジークハイル神から聞いたが、この世界で死なずに生きていた人間。

お前は10年以上も前に一度死んだ前世の身体に、自身の魔法の力で生き戻った』そうだ」

「そう、か」

「そうだ。そしてドラクルーア神様の言葉である」



 今はジークエンスではなく、前世の相良 燐なのか。

 なるほどなるほど。そしてさっきの『残機を使った』の意味も分かった。

 新しい神様の名前を出されても、分からないけど。

 でも、それって今は前世で生きていた国に。広くてもその世界にいるって事だよな?



「『だがジークハイル神は、お前をジークエンス・リートに戻す準備があると言った。

 1人の人間の生き死にに神が自ら関わる事は無い。死因は何なのか』どうなんだ?」

「相良 燐の死因は交通事故で、ジークエンスの死因……は、分からないから悪魔との交戦だ」

「なるほど。『中途半端で特殊な不死性は、その事故。悪魔と交戦は人間には珍しい。だが、ジークエンスは死んでいない』そうだ」

「え? ジークエンスじゃなくて、前世の死因を聞いてたのか?」



 「その通りだ」と返すから驚いたが、呆気なく一瞬で死んだ事を気になったのか。

 悪魔とその仲間と戦った後だし、死亡確認なんて本人は取れないし、劇的な戦闘をして負けたから、死んでてそっちの事を言ってるのかと思ってた。


 そしてその少し前の言葉。

 俺をジークエンスに戻せるって話だ。

 10年経った前世の肉体はどうなのか、全体図を見たかったけど、ガリガリで筋肉もなくて弱々しい人間なんだろう。

 それは少し興味があったなぁ。



「戻せるなら、今すぐにジークエンスに戻して下さい」

「『ジークハイル神もそれを望んでいた。それを無視して残ってもいいが同意ならいい。死んで戻れ。あの世界に』」



 突如、動かなかった俺の右手が動いてナイフを掴む。

 今まで全然力が入らなかった手が勝手に動いて、そこにあると知っていたみたいにナイフを手に取った。

 眼球を最大に動かすと、花瓶に入った花とリンゴ(or梨)が目に入り、食べる為に用意したフルーツナイフと分かった。

 そして病室のような雰囲気。

 そして、このフルーツを誰が切り分けたのか……。

 眼球は乾き、目が痛い。


 だが、こんなので人が死ぬのか?

 10年以上も身体を動かしていないだろうと疑惑があるが、こんなのでギリギリとやったって肌の表面にしか傷つかない。少し痛いくらい決まってる。

 ジークエンスなら凶器にすらならないだろう。

 だが、そのフルーツナイフは突如鋭利な刃のようになった。



「魔力を金属製の刃物に纏わせば、簡単に凶器になるの」

「この世界でも、神様の操る力は地上の力とは別の次元」

「他人の体で、無い魔力を使用した」



 無い魔力で魔法を使ったとか無限に魔法が使えるじゃん! 神様って凄いな〜。と女声に同意して答え、思いつつ気を逸らすけど。

 やはり心臓に迫る刃物に目がいく。


 刺さった。

 激痛だ。ほとんど入っていなかった力も急に入って、急に別人になったみたいだ。

 ナイフを覆う魔力の色は、青白く見えたがもう何色か分からないと曖昧。


 息を吐く。息を切らそうとするが、その度に乾いた喉が痛い。

 苦痛で目を閉じた。

 神様なら、もっと痛くない方法でジークエンスにして欲しかったな。



「『躊躇なしに言ったが確認をする。お前はこのまま生きていれば前世の人生を、約10年経ったが再開できた。

 その果実を食べる女性。ここに通っているお前の妹と供に、懐かしの世界で人生を再開できたぞ』」

「……いや。理沙には悪いけど、俺は早く母様と姉様たちを助けたいんだ。理沙には悪いけど、あの世界を選んだんだ。

 それと、理沙はまだ兄離れできていなかったのか。もう、可愛く思える」

「『言ってやればいい』」

「でも、会うと戻れなくなりそうだから」



 今会ってしまったら、違う道。

 可愛い妹ととの人生再開を選んでしまうかもしれない。

 少しでも心が揺らがないようにする為に、俺はやっと思い出した記憶の、中の妹とは合わない。

 あの時は命を救えてよかったと思ってたみたいだけど、今は謝る言葉ばかり。


 この世界の大切な人より、向こうの大切な人の方が多かった。

 この世界の父も母も、妹の理沙もごめん。

 神様。この世界の家族を幸せにして欲しい。して下さい。

 願いを、叶えてやって下さい。



「『3人だ。願いを叶えよう』」



 リアルな神様の。言葉に安心する。

 俺を待ってくれていたこの世界の妹の理沙。ありがとう。そしてごめん。

 神様に口約束を貰ったから、何か願い事を叶えて貰え。




ーーーー思考はここで途切れる。

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