1-48.「洛陽、落ちる時」
何の攻撃だったか分からないが、すぐ隣にいたセシリア母様の傷を見て、とまる。
肩の下から、中央まで斬られており、酷い。
元々血が止まらず、アシュレイ姉が対処していたのに更に出血があり、もう救われる可能性はほとんどない。
アシュレイ姉はそれでも傷を止めようとし、俺とローザは吐き気を耐えていた。
早く、誰か来いよ。
だが即死じゃない。
俺たちの母様はまだ生きている。
口をパクパクと動かす母様に耳を近づける。
「ありがとう。みんなにも、そう伝えてちょうだい」
掠れてほとんど声になっていないが、母の言葉に泣けてくる。
その言葉から、もう死ぬ気はできていると思えるが、涙を流す俺に笑顔をつくり笑いかけてくれる。
必死の状況での「ありがとう」は、すぐに言葉になった本心。
それを伝えてほしいと言ったのは、家族を想う優しさ。
俺の母はそういう人だ。
姉を見て口を動かす母様を見て、俺は傷を塞ぐ役割りを代わり、姉様に母の言葉を聞いて貰う。
姉様も涙を流す。
俺も、傷を応急処置と回復をするが、1人2人ではこれはもう無理だ。
止血は終えたが血が足りないし内臓は切れたままで、上手く息ができていない。
姉に頭を抱えられ、顔を近づけて母の言葉を一緒に聞く。
話す言葉数は少なくなっていて、もう頭は回っていないのかもしれない。
俺たちに合わせてローザも身を屈める。
俺たちに合わせたのだろうが、無理だ。
聞かせる気はない。
「ありがとう……」
「あり、がとう」と言葉が切れるようで、ゆっくりで掠れ声だったが、2人の子供。
その姉と弟に感謝の言葉を伝えてくれた。
俺も姉も泣いている。
涙が溢れてくる。
2人で母の傷を塞いで魔術をかけ、延命を試みながら、手を握る。
もう喋らなくなった母様の目を閉じようとする姉様の手が震えている。
俺は手を重ね、目を閉じて口を閉じた。
まだ、母は生きている。
生きる事に集中して下さい。
◇
一連は誰にも邪魔されなかった。
許せないが、なんなんだよ。
扉の近くのダエーワを見て、階段の上の2人を見る。
1人は暗い暗い色の服に外套。右手が大きな機械の男だ。
もう1人は顔が見えないが、外套の上からでもわかる体つきや華奢な見た目から、女。
城ではみない奴らだ。
なら、アイツらは悪魔ダエーワが言っていた仲間だろう。
そもそも城の人間なら、母を助けるために何か行動を起こしている。
そこに立たれると邪魔だな。
「死にたくないなら退くがいい」
男はそう放つと、右手の機械を左手で支えて、姿勢を落として前に構える。
腕の途中から生えているように見える大きな機械。それから何の魔法なのか、超速の攻撃が来る。
指の関節一つ分ほどの小さな攻撃。
だが速すぎる攻撃は大きさが無くても強力だ。十ほどの攻撃に氷結魔法の、氷の壁の防御で対応する。
が、俺の氷をすり抜ける。
十あった攻撃は全て俺の当たり、霧散。
まだ助かる可能性があるセシリア母様と、それを支えるアシュレイ姉様と、そこにいるだけのローザ。
非戦闘要員に攻撃が当たらず良かったし、 戦えるやつが戦えばいいのだ。
「来い、白羽の剣」
アシュレイ姉は全力の治療でそれ以外に気を回せない。
水魔術から氷結魔法で作った氷の腕を伸ばしてアシュレイ姉の白羽の剣を取り、自らの白羽の剣も取る。
アイツの使った魔法もまたダークマターなのだろう。
厄介で仕方がないが、男に向き直る。
ダークマターは全員、氷結された空気にも反応しなかった。
温度さえも魔法なら吸収するのかな?
追い詰められ過ぎた気がするし、いつまであの超速の攻撃を止めれるか分からないが、時間をかけて戦ってやる。
皆の前に立ち、2本の剣を構えて立つ。
が、突如体が大きく揺れる。
上下の感覚がおかしくなるほど、大きく揺れた。
そして氷の壁のあった扉の近くとは違う、壁際の柱が立つ場所に俺達は立っていた。
「う、うぁ?」
それに気づくとすぐ頭がクラクラしたけど、その感覚があるのは俺だけで、3人には異常があまりみられない。
そして、俺の手には剣がなかった。
正面の階段の上にいた2人の敵は、目の前にいる。
いつの間に降りたのか。
男の攻撃の構えから、攻撃が放たれる。
白羽の剣を呼ぶには間に合わない。
十の攻撃を捌く為には素手で対処するほかない。
俺は飛んでくる攻撃を摘み、外に放る。
実体があるように感じるが、当たると消えていく魔法のようでもあり、潰すと金属製の硬さがあった。
7つを摘み、2つは当たって、1つは埒外の方向へ。
だが今回は時間をおかずに次が来る。
同じように超速の攻撃を捌くが難しい。
階段の上からの攻撃は一瞬だったのに、同じ高さで対面するとこうも長く攻撃が続くのか。
俺だけにしか攻撃は来ていないとはいえ、その全てに対処出来ていないのだから、俺には無理が過ぎた。
連続して飛弾する攻撃を浴び、飛ばされる。
◇
速くても物は軽い攻撃だ。
打ち上げられたように少し浮き、背後のみんなの元に転がった。
体をうつ伏せにしてから起き上がろうとするが、立ち上がれない。
力が入らないのだ。
仕方なしに頭と目を動かせてみれば、治療に専念させた母は変わらないが、姉は俺に気づいている。
手は止めていないが、悲しそうな目で俺を見ている。涙も流している。
ローザはというと、腰を抜かして座り込んでいた。
治療している母から間合い一つ離れている場所にいたローザは、
そこに崩れ落ちたようで、それまで耐えていたものが漏れていて、床を湿らせ、失禁していた。
俺はもう何ができるか。
無理をして手に力を入れたが、もう立てずに今度は仰向けになる。
手は折り畳まれているように難しい角度になって痺れさせ、どうにか無理をし続けようとしているが、体は限界をずっと続けていた。
無理だったみたいだ。
敵は俺を仕留めて、まとめて3人もそうするのだろう。
俺の母様と姉様を守りたかったのに。
ーーーー思考はここで切れる。
※まだまだ終わりませんよ。




