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1-44.「洛陽(3)」

※この話はアシュレイ姉の視点です。

 ジークエンス(主人公)視点ではありません。

※今回は少し長めです。

 眼前には敵。

 暗い背景に溶ける黒い礼服を纏った男の、名前をダエーワ・キラ・オリンポス。

 オリンポス公爵家の当主。

 成人間近の長男であるモナーク兄様に会いに来た、許嫁であり第1王妃になるイルシックス王国のベルベット王女。

 その王女に同行した公爵は、なぜだ何故だか、敵対している。


 標的と宣言したアシュレイ・リートの、魔法の対抗策を用意してまで。



「我が国はお前を信用していたと言うのか、いや、騙された」



 ジークハイル王国は、は魔人騒動が原因であらゆる外交が絶たれた歴史がある。

 その後、元々の国力と父である国王の政策により、できた第1王子モナーク・リートと王女ベルベット・イルシックスの婚約予定。


 両国にとっても、勿論モナーク兄にとっても重要な人物のはずのベルベット王女に同行するまでに、イルシックス王国から信用されているはずの人間が、何故こんな事をしたのか。


 私とお母様を何故、標的にしたのか。

 それだけは全く分からない。





 何も出来ないまま時は過ぎ、今は母様から血は流れていない。

 公爵は背中を引き裂いた時に止血でもしたのか、それとも絶えず回復をしているのか分からないが、少し落ち着いて考察ができている。


 やはり、一手目を大きく間違ている。

 あそこは敵の動きを封じるより、まずは母様と公爵を分けるべきだった。

 具体的な手段なら、多数の魔力攻撃に炎などの魔法の壁や、物理で押し出したりができた。


 だけど、長く考察をして私は対策がされている事を私は分かってしまった。

 こんな初歩の魔法戦闘は防がれるはずだ。

 何も知らない分からない一手目じゃないのだから。

 なら、私がするべきは対話での安全確保だ。



「お母様は返してもらおう。残念だが、お前がその方を殺すと言うのなら、私はここで自死する」

「それでも構わないが」

「それだけではない。お前が必要と言った私の血は全て、この場で燃やし尽くして死ぬ。それが嫌なら話を聞きなさい」

「……」



 黙り込み俯く公爵。

 視線も思考も私から外したのなら成功だ。

 今も、歯を食いしばり声すらあげられずに呻いている母を助ける為に魔法を使う。


 大量に出現させた炎の玉で、先の

『大量の魔法攻撃で黒い塊を対象。1つでもすり抜けた炎の玉の魔法を公爵とお母様の間で炎の壁に変え、分断させる』

 これを実行する。


 炎の玉は大きさは手の指一関節ほどで、数は百。

 これだけの数は黒い塊の表面積では対応できないはずだ。

 顔を上げ、私の攻撃に気付いたようだが、もう遅い!



 私の放った火の玉は、表面が薄く伸びて長く広くなった黒い塊に吸い寄せられる。

 1つでもすり抜ければよかったし、可能だと思っていた。でも無理だった。

 他に、他の手は何か無いのか?



「慣れない言葉遣いはやめたらいい。

 不慣れな威圧の言葉など、悪魔ダエーワには微笑ましい」

「なッ……!?」

「君は、我が主人が神になる為の1つの道だ。細かに言えば神通力。

 敬意を払い行うべきだったのか、どうか。

 多量の血で十分ノルマだったが、生贄として捕獲もできる」



 全ての攻撃が黒い塊1つに防がれた。

 そんな私の驚きをよそに、公爵は自らを悪魔ダエーワだと名乗り、主人は神になるだとか私を捕獲するだとかめちゃくちゃだ。

 母の足元の塊は、すぐに平面から元の球体に近い岩のような形に戻り、先と同じ余裕の表情をとる。



「お前は悪魔なのか? オリンポス公爵は悪魔だったのか?」

「君が自死するならば答るが」



 そう言う悪魔ダエーワは、私に母様を切りつけたナイフを投げる。

 彼は私を、この状況を軽視している。

 だが、その油断なんてあったって何かできる気がしない。

 だが残念だが、今の私では突破口は見えない。

 平時なら、もっと良い案が浮かぶだろうに。

 今は私の命を賭ける事が、最善な気がするのだ。



「条件に、お母様の傷を癒して生かす事を誓いなさい。そうすれば抵抗せずに捕虜にでもなります」

「捕虜ではなく生贄になれ」

「分かった。違えたならば血は全て燃やす」



 私の脅しに無反応になったのは、私の実践の実力は対応可能だと決めたからか、

 それとも約束は違えないと信じているからなのか。

 お母様の安全のおまけになった『オリンポス公爵は悪魔だったのか?』の答えを待つ。


 違えたなら、大声をだして正当に不審な理由なしに騒いで荒立てる。

 時間を稼いで、誰か他の人間を待つのだ。

 動ける人間ならもう誰でもいいから。お願い。



「オリンポス公爵は人間から産まれた人間のはずだ。10年程前にこの国に来た時も、それ以降数度この国に訪れた時もまだ人間だ。

 だが、今日の為に出発した後同じ名前の悪魔ダエーワ。私に成り代わられる」


「人間の肉体など、中古で十分。使い捨てが妥当。

 私はこの後の展開次第では、この体を殺してジークハイルとイルシックスの戦争だって起こせる。

 余計な画作は立てないなら、国民も領土も兄弟も、なくなりはしない」



 無駄な足掻きかもしれない事が、自殺行為に変わった。

 母を救えても、この悪魔は戦争のついでに私も狙いに来るだろうから、破滅行為だ。



「そのナイフで首を切れ。

目覚めた先でそれなりの対応がある。

『生贄として死ぬまでは、楽しい日々を過ごせる』との事だ」




 最後に2人の顔を見遣る。


 ローザは、しっかりと怯えている。

 ドレスをギュッと押さえ、立ったまま固まり何も出来ずに私たちを見てビクビクしている。

 ちなみに床は汚していない。

 あのまま眠れていれば、こんな傍観者にはなれなかったはずだしね。

 悪い事をしちゃったな。


 お母様は、私が自ら首を切って捕虜になり、自分を生かそうとしている娘に何か伝えたいのだろう。

 表情は苦痛だったのに、何か懇願する表情に変わっていた。

 お母様は優しい人だから。私の為に死なないで欲しいと思っているんだろうな。

 だけど時間は、少し危機的だ。

 それでも、首を切った人間を生かす方法があるように言ったのだ。

 お母様は助かるはずですから。


 私は床に膝をつき、そのままナイフを拾う。

 力の入らない右手でも、そのまま内側に回せば、女の首なんてそのまま血を吹き出して切れるんだろうな。

 あーあ。私は最後なんだな。

 もっといい策はあっただろうに。

 私はもっと、強いはずなのに。

 悲しくて涙が流れるよ。



「貴様がぁああーーー!!!」



 そこに、いつも聞いているはずの。

 だが初めて聞いた弟の本気の怒号。ジークエンスの声が聞こえた。


 ジークは、氷結魔法で作り出したで氷で放ち続ける。

 あぁ、それは全部あの黒い何かに吸収されてしまうの。

 もう一度氷結魔法を発動して、刀を生成。



「『抜刀術の三、近接一点突破 鏡ミ紅』」



 私が教えた極彩色抜刀術を発動して、敵に攻撃を当てた。

 私が自殺まで考えさせられた相手に、不意打ちでも攻撃を当てるなんて。



「姉様は母様を避難させ、治療をお願いします!」



 そう叫び、ジークは水魔法と氷結魔法を使って敵を壁まで押しつけて離した。

 今ならまだなんとか出来る。

 ありがとうね、ジーク。

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