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1-42.「洛陽」

※この話はジークエンス視点ではありません。

 アシュレイ姉の視点です。

「あら? 眠っていたのかしら。

 モナーク兄様に贈る魔術の製作中でしたのに」



 隣には、一緒に考えてもらったジークこと弟のジークエンスと

 そのジークの事が好きで一緒に付いてきた妹のリズが突っ伏したまま眠っている。


 それだけでなく、結界の外で立っているはずのメイド、執事、騎士と兵士達も崩れ落ちて眠っている。



「何で、皆も一緒に眠っているの?」



 もう夕食からかなりの時間が経ち、外の夜の暗さも確認できる。


 メイドの1人2人が私たちと一緒に寝てしまうのはあるかもしれない。

 でも私とジークとリズの婆やも、護衛を兼ねている執事も眠っている。

 更に、メイド達とは違い夜から夜中ずっと起きて警備をしているはずの兵士も眠っているなんて。


 これは、おかしいわ。

 この城に何か起こっているのよ。


 隣で一緒に寝ていたジークとリズを起こすが反応がない。

 ただスヤスヤといつもは見れない弟と妹の幸せそうな寝顔が見れるだけ。



「でも、もし何かあったとしたら、2人は誘えないわね」



 2人の事は考え直し結界の外に出る。

 そして1人。少しだけうつろうつろとしている少女のメイド。

 確かジークの専属の、スペンサー家のローザ。

 彼女以外はぐっすり眠っている。



「ねえ、起きてちょうだい。起きなさいローザ」

「……アシュレイ殿下?」

「よかったわ。あなたが起きてくれて」



 こくりこくりと頭が動く彼女に、光の魔術で無理に起こす。

 自分以外の周りの人間がみんな眠っているのだ。

 夜じゃなくても怖いだろうに、周りは真っ暗闇だから尚更怖い。


 それでも、こんな時間に起きてしまっているからなのか、私は少し催している。

 軽くみんなが眠ってしまった理由を見つけに行く前に、トイレに行っておきたい。

 そしてローザには付いてきてもらう。



「私に付いて来なさい。あなただけが寝ていなかったから、連れて行くわ」



 誰も付かずに移動なんて経験した事がないが、それよりも、夜の暗闇の中。廊下を1人で歩く方が怖い。

 何に怯えているのかは分からないけど。


 周りを見渡して「?」なメイドを連れて、部屋を出る。

 灯りは先の閃光ではなく、目に優しい広がる光。の魔術だ。





 部屋を出て、まずはトイレの前まで来た。

 夜ではこれが普通なのか、喋り声も聞こえない。



「あなたはも行く? どう?」

「い、いいえ。私も戻ったら休みますので」

「そう」



 トイレから出て、メイドにトイレに行くように促してみるが、入らない。

 結局、私達は早く動かないといけないので、早くと捜索に移る。





 ……見つけた。

 この状況で私たち以外で動ける人物を、見つけた。



「殿下、ご覧ください」

「お母様?」

「はい。護衛も付けずにとは、やはり城の人間は何かあったのでしょうね」



 夜でも、何も変わらない様子の実母に疑問を覚えてその後をついて回る。

 母であるセシリア王妃は、城の中を徘徊して最終的に城の玄関ホールで止まった。


 バレてはいないのだろうと、そのまま見張りを続ける。



「何をしているのですか?」

「お母様……」



 玄関で急に止まって、私の気配に気づいた母様は問いかける。

 私には、母から隠れ続ける意味もないので姿を見せる事にする。



 正面の大きな階段を降り、母の元に行く。

 ローザと共にいた私を見て、母は驚いている。

 それに気がついた。



「どうかしましたか?」

「いいえ、少し珍しいと思っただけよ」

「それは、確かに」

「ふふ」

「ふふふ」



 少しの笑いが起こり、それに合わせて少し楽しくなる。

 でもそんな事より、母にも聞かなければいけない事が……



「お母様はどうしてここへ?」

「……私、眠れない日があると、よくここに来ているのです」

「そ、そうなのですか?」

「ええ。陛下……リート様からは誰か護衛を付けろと言われているのですけどね」

「その通りですよ」



 護衛も付けずに1人で夜を歩くなんて、危ないのは当たり前。

 母の心に嘘がないのも、私の魔法である『神通力の他心通』で分かった。

 そもそもが母は子供に嘘をつく人間じゃないのだけど、緊急時な気がしましたから。


 ここは玄関ホールでも、直接外の扉とも繋がっている場所。

 そこにいる兵士も崩れ落ちるように眠っており、母様はそれに違和感は覚えないの?

 その事に疑問し、再度魔法を発動させようとしたその時。



「何故、起きている人間がここまで多いのか。分からない」



 母の後ろの、ちょうど兵士が寝ていた場所に突如、礼服の男が現れた。





 再度発動していた魔法を、何処からともなく現れたこの男に変更する。

 この男の記憶の過去形の場所から、人物の特定を図る。


 この男は今日、朝から貴族の女性に付き従い、ここまでやってきた。

 この女性は……ベルベット王女殿下?


 ならこの男はオリンポス公爵なのか。

 だがそこまでの断片で記憶は途切れ、耳を頭を刺激する音が鳴るような。

 これは……そう。

 目の前の公爵の頭に、違うものの記憶が詰まっているから。それも超高密度だ。


 少し頭が痛い。

 初めての体験で違和感と危機感が働く。

 まずは、この男からお母様を遠ざけなければならない。

 母との距離は男と同じ距離の幅があり、母に寄って来ていただく。



「いけない。3人いるのなら、3人に対応した形を」

「何を言っているか、どうしてここにいるか、オリンポス公爵」



 私の声に母もローザも公爵も驚くが、公爵本人は納得して装いを正す。

 2人はこの男が頭のおかしな兵士とでも思っていたのだろう。


 公爵は、右手に何処から出したのかナイフを取り出し、左手の掌を前に出し宣言する。



「気付いていないだろうが、その違和感は全て私が犯人だ。 城の人間全てを昏睡させ、あなただけに起きて頂く。

 必要なのはアシュレイ殿下。そして頂けるならセシリア妃殿下。2人の多量の血」



 危機を感じる。

 発する言葉もそうだが、さっきからずっと神通力の他心通の魔法では記憶も思考も読めない。

 なんだろう。私に対策、対応したの?


 公爵の左の掌に、黒色の丸い塊が出現。

 彼が顔を上げ目を見開けば、その塊は動き出し軽く衝撃を受けた。


 体を引っ張られているの?


 耐えている私と、私の背にいるローザ。傍によって貰ったお母様。

 手を繋いで体を寄せ合い、あの魔法から耐える。

 恐らくは、あの魔法で寄せられた者をあのナイフで突き刺し負傷させるのだろう。


 だが彼は動揺しない。

 その場所から1歩も動かずに、左手を横に広げる。

 すると彼の左手は黒くて丸い何かによって、無くなる。

 そして引っ張られる方向が右上に変わり、私たちの手からお母様が離れる。

 お母様は浮き、右上につられる。



「なッ!?」

「これはワープゲートと呼ばれた力だ。簡単に言えば簡易な転移術だ」



 彼の左手が黒くて丸い場所から引き抜かれ、空中から彼の手前に落とされる。

 人が2人分ほどの高さから不意に落とされ、それだけでも負傷はある。

 お母様は、足は折りたたむように座る形になり、それを支えるように両手で体を支える。

 その背中に、公爵ののナイフが突き刺さる。



「お母様ぁーー!!」



 無意識のうちに抑えていた声量を最大限に発揮して叫ぶ。

 だが急変するこの状況に私は何もできなかった。

 お母様の背中にはナイフが突き刺さり、首元に近い位置に刺されたそれを下にまで引き下ろす。



「ぁ、あぁああーー!!」



 私の行動が遅かった。

 お母様に当たらない様に、足に超速の水魔法を撃ち込む。

 だが足を狙った魔法の攻撃は、左手から地面に置かれた黒い塊に吸い寄せられる。


 手が打てない。

 1番の速度があるはずの攻撃を不意打ち気味で放ったのに、それは防がれた。

 何か手はあるの?

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