1-41.「贈り物は新しい魔術(2)」
煮詰まった。有り体な発想しか浮かばない。
そして、かなりの時間が経っている。
そんな俺をよそに、アシュレイ姉は俺たちの頭の中の、無意識の意見でも参考にしてるのか、どんどんと手元の紙に書き込んでいく。
それに、少し前から妹のリズは俺の膝の上で寝息を立てている。
最近は昼寝もしなくなった妹だったが、暗くて慣れない部屋に書籍の匂いは、確かに眠くなるよね。
魔法を使用するのは得意だけど、それを作るのは専門外。
アシュレイ姉の方が得意だったりする。
「殿下。もう少しでお夕食の時間です」
「あぁ、そこまで時間が経っていたのか。時間感覚が狂うな。準備したら行く事にする」
近づいてきたローザに反応した俺は、結界を一部解除して彼女と対話する。
もうすぐ夕食。だそうだ。
相変わらず我が姉は、紙に思い思いの考えを書き込んでいて会話に気づかないし。
妹は俺の膝で眠り続けていて、昼寝からまだ覚めない。
俺はというと、昼のモナーク兄との戦いの影響からか、今まで冴えている。
過敏な反応をしている事を自覚していて、結界の外の人のが近付いて来る気配に気付くなんて異常に近い。
というくらいには、冴えている。
「姉様はまだ考察中か。おい、起きろリズ。もう夕食だぞ。起きろリズリー」
姉様はまだ考えている。
という事で先に妹を起こしておく。
リズリーは『リズ・リード』の響きからとったあだ名だ。
「おにぃ……さま?」
「ああ。起きたか」
「はぃ……」
俺に頭を撫でられて起きた妹は、またうずくまる。
別に起きてくれるなら良いんだけど、もう一度寝られては困る。
うずくまる妹の顔を上げさせ、覗き込むようにして「起きたか」と問えば、目が覚めたのかいつものリズに戻った。
「もう夕食なのね」
「はい。姉様は、新しい魔術は完成ですか?」
「えぇ、もう少しね。ジークが夕食後に手伝ってくれたら完成しそう」
「私は手伝いますよ」
「わ、私もやります!」
気が付いた姉にと夕食後も手伝うと約束する。
姉はおそらく他心通の魔法を使うので、俺は頭を回してるだけで良いと思う。
自分の兄の贈り物を作る役に立つのは、嬉しいし、断わりはしない。
◇
3人揃って食卓の部屋に行くと、俺たち以外の兄2人と、ベルベット王女がいた。
それぞれの席に座って、母と父を待つ。
「ベルベット殿下。今日はガーベラ殿下は来られなかったのですか?」
「そうですね。あの子は城にいますよ。今日は私とオリンポス公爵だけですよ」
「……そ、そうですか」
モナーク兄と話していたベルベット王女の話が途切れたタイミングで、ずっと気になっていた事を聞いてみた。
以前は一緒に来ていたので気になったのだが、城にお留守番だそうだ。
そこに母達と父がやってきて、食事が運ばれる。
そしてその食事にベルベット王女は驚いた風だった。
恐らく、一食の種類が多くて驚いたのだろう。
子供の頃に比べて、明らかに種類が豊富になってるからな。
夕食はつつがなく、食べ終えた。
◇
食後のお茶の時間。
ベルベット王女は家とは勝手が違うのか慣れない雰囲気だった。
だけどそこからも、モナーク兄との仲は良さそうだと分かる。
それが分かるのは俺だけじゃないようで、母達も兄妹達も父も、気付いているようだった。
「美味しかった」と父から告げられ、俺たちは部屋に戻る。
俺もリズもアシュレイ姉の魔法の研究の部屋に行く予定なのだが、直接向かうわけではない。
一度自室に戻って、その後に姉の魔法部屋に行くのだ。
それと、ベルベット王女には客用の部屋で寝泊まりする。
部屋に戻ってもやる事は少ない。
俺が部屋に戻るまでメイドやら執事が帰れないので、一応部屋に戻っただけだ。
それを確認し終え、お付きのメイドのローザとサーシャ。と婆やを連れて、姉の魔法の研究部屋に向かう。
兄に贈る魔術の完成の為に、俺は頭を回そうか。