1-3.「食卓」
「それでは殿下、いつもより少し早いですが朝食に行きましょうか」
黒髪のおばちゃんも、いつのまにかメイド姿に着替えていた。
部屋の扉が開けられ、部屋を出て廊下を歩く。
廊下には赤を基調に、色々模様が描かれた絨毯が敷かれている。
大きな鍵穴の柄や、剣の柄などたくさん描かれている。
壁には、額にはめられた絵が飾られている。
3歳児の俺でも、ジャンプしたら届きそうなところに飾られていて、絵も見えらようになっている。
どの絵にも額の中に文字が書かれている。おそらくタイトルなんだろうけど、読めない。
前世の文字なら分かる気がしたけど、残念ながらこの文字は読めなかった。
このたくさんの絵の中の1つに、
『たくさんの屋台とそれを売り買いする人々。
その中央にある噴水と、そこで笑い合っている人々。
その後ろにそびえる立派なお城。』
を描いた絵があった。
この絵の通りなら、俺はいい世界に転生できただろう。
また今度、大きくなったらここを見てみたいな。
「殿下、お手を」
おばちゃんに手を取られて階段を下りる。
手をとってもらって一段ずつなら、階段もこけずに下りれる。
下に数段下がった所に踊り場があり、そこからまた10数段ほど段差を下りる。
階段を下りきり、廊下を少し歩き、執事が扉の両脇にいる部屋の前で止まった。
◇
俺が目の前に来ると扉が開かれた。
部屋の中には、長い机とたくさんの椅子があり、ドレスを着た女の子が1人、先に座っている。
この部屋にいた執事が誘導して、椅子を引いて俺を座らせる。さっきの女の子の斜め前にだ。
この椅子はちゃんと俺に合う高さになっていて俺専用だってことが分かる。
「おはよう、ジーク。今日は早起きなのね」
「はい。おはようございます」
優しい声で話しかけて来た女の子に俺は返事を返すが、この子のことを何も知らないので会話を続けられない。
ん? いや、そもそも3歳児がそれ以上のことを喋るのはおかしい気がする。
この加減は中々難しそうなので、とりあえず1年くらいは返事と挨拶だけで通した方がいいかな。
それと、俺は『ジーク』という名前みたいだ。
そして、俺を名前で呼ぶところと雰囲気から、このドレス姿の女の子はおそらく俺の姉なんだろう。
というか姉に女の子って失礼か。
お姉様だ。お姉さま。
俺とお姉さまが喋っている間に閉められていた扉をそれを2人の執事が開き、2人の男の子が入って来た。
「はあ、お腹空いた〜」
「私もお腹が空いた。でも今日は、母上も遅れないだろうから、いつもより早く食べれると思うよ」
「それは嬉しいなぁ」
2人の男の子も俺と同じように執事に椅子を引かせて、俺の隣に座った。
この2人はおそらく兄だろう。