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1-38.「モナーク対ハイルハルトの試合」

 勝利した。勝利はした。せっかく勝ったのだが遺恨は残る。

 開幕一瞬、王宮剣術だけで勝つと決意を早々に撤回して、姉のを真似た抜刀術を使った。

だけど、アレを使っていなかったらあそこで終わっていたんだから、まだモヤモヤとしている。

 勝てたのに、素直に喜べない感じだ。



「どうしたんだ、ジーク。私に勝てて嬉しくないのか? それとも思っていたよりも弱くなっていたか?」

「いえ。少し、今の戦いを思い返していたところでした」



 斬り付けられたが、モナーク兄の体からは血は一滴も流れていない。

 人肌を斬らない、傷付けない性質の無傷剣による効果だ。

 だがアシュレイ姉の時のように、地面に打ち身したようなので怪我をしているかと言われれば、少しだけ怪我をしている。



「完敗か。いや、流石だな」

「ありがとうございます。兄さま」



 戻って来た俺たちに、皆から称賛の言葉が送られる。

 俺にくっ付いてきたリズと、最初の技を抜刀術と見極めたアシュレイ姉。口角を上げるハルト兄と他。と、勝った俺に思い思いの言葉も贈られる。



「リズ。くっ付くなら少し後にしてくれ」

「ぁ……ごめんなさい……」

「もういいよ、汗も拭き終わった」



 魔術で湿っ気を消し、メイドのローザから渡されるタオルでさっぱりと顔を拭く。

 シュンと一旦俺から離れたリズも、俺が完了して椅子に座り終わった事を伝えると、また顔が明るくなった。

 『ったく、懐くなら姉さまに懐けば面倒がないだろうに』と、リズの将来を心配しながら、椅子の上で次の試合を待った。



 モナーク兄とハルト兄は、俺が目覚めた時から一緒に剣をやっていた。

 その言動から剣技が好きで、モナーク兄の言葉と実際の実力から、かなりの力があった。

 魔法で打ち身の傷を軽く癒し、会話を交わす2人。

 ハルト兄は、最後かもしれない試合で、どんな戦いをするのだろうか。

 ……あれ? ん? アシュレイ姉と顔を見合わせようとすると、せっせと結界を展開しようとしている。

 そして、ここだけではなくモナーク兄とハルト兄を大きく二重の結界で囲み、城にも……。

 本気のバトルでもする気なのかな?

 最初に違和感を感じたあの剣は、やはり無傷剣じゃないのか?



「兄様、久しぶりに名乗って戦いませんか?」

「あ、アレか。いつの間にかやらなくなっていたが懐かしい」



 2人は椅子から立ち上がり、それぞれ、俺の時と同じくらいの間合いを取りながら、お互い笑い、名乗る。





「結界は二重に張った。城にも皆の所にも別で結界を張り終えた」

「ありがとうございます、兄様。では、


『輝きの聖剣。今代の使い手、にしてジークハイル王国第2王子、ハイルハルト・リート」


「軍神の右腕のスペアの剣を振るいし流派。ジークハイル王国第1王子、モナーク・リート」



 やはり、兄妹総出で結界を張っており、俺をも騙していた魔術が解けて、ハルト兄の腰の無傷剣が兄の聖剣に変わる。

 聖剣は少し曲がりがあり、直剣ではなく丸みを帯びている。

 口上を名乗った時は顔が熱くなったがそれはそれでカッコいい。


 モナーク兄の腰の剣も無傷剣から真剣に変わっており、それにやっと気づいた周りの騎士たちは狼狽える。

 俺や周りの騎士たちに気づかれれば止められるかと思ったのか。

 まぁ、一度は止めるけども。

 でも楽しそうで面白そうだから応援してるよ。


 結界は色味が殆ど無く不可視に近い。だが結界は壁のように硬いのだ。

 開始の合図をしようとしていた老騎士も結界の壁に阻まれて前に進めず、代わりにハルト兄が左手に魔術で指先に水を作り、



「では、始めます」



 上に生成した水を投げ、地面にそれが着いた瞬間、お互い前に馳ける。

 聖剣は鞘の装飾も凄いが、そこから抜かれた時の輝きは、流石は輝きの聖剣。

 聖剣と呼ばれるだけの力が無ければ宝剣と呼べるくらいには豪奢だ。


 聖剣が抜かれる速さは凄いものだ。

 滑車でも付いているのかと思っていたが、それらしい物が鞘に見える。

 抜く時は、抜き口に付いた滑車で滑らせて剣を抜くのか。

 その聖剣は、振られた瞬間に輝きを強め、超白光しながらモナーク兄に振るわれる。


 モナーク兄の剣と言えば、魔力が通しやすい剣なのだろうと思う。

 『軍神の右腕』を発動するにやすい剣。

 これも流石なのか、どうなのか、聖剣の放つ光を斬っているように見える。

 輝き広がる光を切り落とし、直後霧散する。

 わざわざ光を斬った後に、振るわれた聖剣に対応する剣。

 一度目を制したのはモナーク兄で、追撃を加えるのだが、ハルト兄は回転して下がりながら、その攻撃に対応する。

 あの聖剣にはそういう効果があるのかな?


 ハルト兄はその追撃に対抗する為に、リズもやってみせた魔力を収縮させた光線を繰り出す。

 一直線ではない。弧を描いて放たれ、地面を抉り、結界内の空中部分をも覆い尽くすだけの光線。

 俺たちも口をあんぐりしながら眺めているが、あそこからはどう見たって大怪我じゃ済まない。

 リズはアレが怖いのだろう。

 俺の足にしがみついてきたので、膝の上に乗っけてやった。


 だがモナーク兄も終わらない。

 結界を一部破壊し、結界の外を伝わって更に結界を破ってハルト兄を上から攻める。

 結界は、モナーク兄が自ら即時に修復しており、ただ結界内の半分を戦闘不可にして、戦っているのだ。


 決まり手がない。中々終わらない。

 結界の半分は光線によって燃え盛っており、お互い息が切れ始めている。

 そして、先に息を切らしたモナーク兄の負け、ハルト兄の勝利となった。





「だが、私が結界を破壊した時点でもう私の負けか。アレはあの時は冴えていると思っていたが」

「いえ、兄様。結界を張ると決めただけでしたので、あの時はまだ決まっていませんでしたよ」

「そうか。ハルトも、強くなっていたな」

「ありがとうございます。でも私は万全の兄様と戦いたかったですがね」

「はは。そうか」



 お互いに笑いながら帰ってきた2人は、戦いを振り返っていた。

 まあ、誰も横にある城の4階と同じ高さを登るなんて考えなかったろうし、見ていて面白かった。


 そしてハルト兄が言う、万全の状態じゃないとはどう言うことだろうか。

 体力は回復していたし、もっともっと特訓していて欲しかったって事かな? まあ、もうすぐ成人なんだし仕方ないとは思うけども。

 とりあえず、それとは関係がないのだが、



「そろそろ降りれるか?」

「い、いぇ……」



 怖がって俺にくっ付いて来た妹は俺の膝から降りない。

 8歳になり、妹も大きくなった。と言うか3歳しか違わないので、俺がというより、椅子が支えている。同じ椅子に座っているって感じだ。

 1番上の兄が危うく死にそうになり、殺し合いっぽく見えたから怖がっているのだろう。



「まぁ、しばらくそのままでいいよ」


 背中をぽんぽんと叩いてあげながら、用意させたタオルで乾いた涙を拭いていく。

 ちょっと笑っている顔が見えるけど?

 まぁ、なんでも面白い年頃だし、そんなものか。

 少しの間、こうさせてやろう。

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