1-37.「モナーク対ジークエンスの試合」
「兄様は基本、先制攻撃は魔法で防がれてから反撃します。今回は剣技だけなので、私の剣技魔法の特徴である剣の速さとさ、技の種類の豊富さで攻めました」
起き上がるモナーク兄まで近付き、手を貸しながらそう言った。
ここで観戦してる俺たちも、被害が出ないように周りに等間隔で立っている騎士達も、アシュレイ姉が。
しかも一瞬で勝つなんて思っていなかったので口をあんぐりと開けて俯瞰している。
俺も、一瞬前まで注目していたドレスのような服装には目がいっていなかった。
姉の持っている刀は無傷剣で作られているようで、防御が中途半端だったけど打ち身くらいで済んでいる。
兄が自身に回復を施しながら、2人は俺たちの元に戻ってきた。
「流石でした兄様、姉様」
「ありがとうハルト。私の手の内を知らせなかった故の勝利ですけどね」
「あぁ、少し舐めていたよ。まさか刀を武器として使うなんて。事前準備は必要だな」
モナーク兄が用意させた外套をアシュレイ姉にはおわせる。
椅子に座ったモナーク兄の怪我を、自らと姉とベルベットさんで回復魔法などを施して、回復させていく。
姉は自らのメイドと執事に、腰の刀を1本ずつ外して預ける。
姉の体で、刀3本は結構重いのだ。
「では、次はジークか?」
「はい。お願いします」
先は、アシュレイ姉が行くと言ったが、序列で言うと次は俺だ。
最後は、ハルト兄に締めてもらおう。
モナーク兄が背を向けて、先に戦いに向かう。
俺の武器は、左の腰につけた長剣が1本。だけ。だが俺は思い返す。
「今の今まで、この剣一本でモナーク兄に勝とうとしていたが、今日で気楽に剣で勝負なんて最後になるかもしれない。なら、もっと何か。対抗策を」と。
兄は俺が王宮剣術だけで戦うなら、同じようにそれだけで戦う。
だが、それだけでは勝てない。最後は勝ちたい。
俺は、専属メイドが予備に用意していた中から、今下げている長剣と同じ剣を右に下げて、兄に続いて進んでいく。
◇
対峙した時、兄は少し驚いていたが、微笑みながら構える。
さっきのアシュレイ姉との戦いからか、右足を出して左手で鞘を押さえ、右手は力を入れれば剣を握れる。
恐らく、体内の魔力も循環させているので、即座に魔法『軍神の右腕』は発動可能。止める気は無いが、止める手立てはない。
兄は剣を抜いた瞬間に突撃して来て、そのまま勝負を決める事が出来る。
俺も、右腰の剣は無視してモナーク兄と同じ構えを取る。
自覚している。俺は最初に決めた『王宮剣術で兄を倒す』を破らない。王宮剣術には二刀流派はあるし、俺は扱える。
間合いは、姉より遠い長剣8本分。
お互いに腰を落とし、姿勢は低く、その低さから対峙する相手だけを見る。
近付き、開始を宣言する老騎士の言葉でお互いに前に足を踏み出した。
お互いに、最初の一歩で半分の間合いを詰める。
お互いに剣を抜き、モナーク兄は『軍神の右腕』で、俺はそれに対応する為自分ルールを破り、この8年間で覚えた姉の抜刀術で振るう。
曲がりの無い剣なので真価は発揮されないが、無理矢理に発動させるのだ。
「『月並型』」
兄の剣は角度を変えて、俺の剣をへし折る気だが、この8年間で何度も戦ってきているのでやりたい事は分かっているぞ!
俺も角度を無理矢理に変えて、剣が破損するのを阻止。
1度失敗しても、何度も攻撃を続けてくる。
今度は剣でなく体に直接攻撃。それを避ける。
「モナーク兄の軍神の右腕の戦い方を知っている俺」と「俺と俺の王宮剣術の戦い方を知っているモナーク兄」とでは、剣撃はまだ続き、終わらないでいた。
数十回ほど打ち合い続け、徐々に攻撃が「俺の体に攻撃を入れる」から「俺の体勢を崩す」ものに変わっていっていた。
この軍神の右腕は少し回り道をしている。
だが、モナーク兄は俺よりも体力がない事を、分かっているのか?
右腕だけ別の生き物のように動くモナーク兄の剣技は、右腕で攻撃を決める事に重点を置いてやってきたと言っていた。
最初は、その右腕の動きに合わせて構えたり、足場を動かしたりと、右腕が十分に振るえるだけの可動域を確保していたが、それが甘くなっている。
長期戦に持ち込めれば、モナーク兄は体力を切らし、俺は勝てるだろう。
だが、徐々に徐々になんて戦い方は俺は好きじゃない。正面突破で勝ちたいさ。
ならば、今が勝機!
剣を思い切り打ち付け、少しの間合いを取る。
俺は右腰の長剣を抜いて、馳ける。
その一瞬の間に、兄は呼吸を整え、右腕の可動域が狭くなっていた事を自覚して、俺の攻撃備える。
このまま、正面切っての突進は防げるか?
踏み切って、剣の二刀で連撃を加える。
その防戦も完璧だが、兄ならあそこで攻戦に出る事が出来ただろうに。
2本の剣の片方でモナーク兄の剣を攻撃し、片方は、剣先の届くギリギリの低位置から。埒外からの攻撃を加える。
剣で攻撃を防いでいる時に、右肩に来る斬撃を止めるのは難しい。
が、兄はそれをやってのける。
だが、それは続かない。
その連続の中で明らかに生じた大きな隙。
これは誘いでも罠でもない純粋な勝機。
俺は剣を十字に交差し、モナーク兄の空いた胴にその十字を切って斬りつける。
「『サザンクロス』」
手を広げて防御も出来ずに、モナーク兄は俺の攻撃を受けて飛ばされる。
勝った。
モナーク兄に、俺の剣技は勝利した。