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1-34.「少年ジークエンスの剣技」

 あの後朝食は終了し、兄弟の皆はモナーク兄に勝つ為の特訓をする為に外に出て練習をする。

 それは俺も同じだ。

 各自、モナーク兄にだけ手の内がバレぬように場所を変えて、各々の練習に入る。

 「皆が俺に勝てる可能性がある」なんて言うんだから、火はつくよ。



「ジーク兄さまっ!」

「リズリーか。どうしたんだ?」

「リズって呼んで下さい。えぇ……と、モナーク兄さまに勝てるように、特訓して欲しいです……」



 尻すぼみになりながらお願いして来たのは、妹のリズだ。歳が近い俺に懐く可愛い妹なのだが、今だけはそれどころじゃない。

 構ってやれる時間はない。



「お前では兄さまに勝てないのは分かっているからな。さて、どうやって勝つか……」

「う、うぅ……」

「俺は、無理にモナーク兄さまの虚をつく戦いはしなくていいと思うんだ。お前が5年間しっかりと続けてきた、王宮剣術で兄さまと戦えばいい」

「そう、ですね」

「まず、兄さまに今から取ってつけたような剣技が通用するはずがないんだ。最後に剣技の確認をしておいたらいい」

「は、はい! そうします!」



 元気な妹はそのまま戻っていった。

 リズは剣技系の魔法も、そもそもの剣技の才能に飛び抜けた天才がある訳じゃない。

 だから勝てない。

 リズは突飛なことをせず、これまでの積み重ねをモナーク兄さまに見せてやって欲しい。





「殿下、本当に私などで大丈夫なのでしょうか?」

「ブランドー卿は怪我で動けない。その周りの騎士達では実力不足。俺の剣技に対応でき、かつ複数の剣技を使え、実力があると言えばお前になる」

「あ、ありがとうございます。殿下」

「俺の守護の為の『守護剣法』と『上弦の月』のどちらも、モナーク兄さまは使える。メルティはいい練習相手だ」

「ありがとうございます。」



 メイドと執事のセレスティア兄妹に、俺の剣技の練習相手を用意してもらった。

 そのメルティは、褒めてやると言葉を詰まらせて頬を赤くするので、からかうのは楽しい。


 だが実力はあるのだ。モナーク兄とは毎日剣を交えている訳では無かったが、恐らく俺の剣技に慣れている。

 ならば、それ相応に対応してくるだろう。

 どの剣術を使ったって、俺の出来る剣術は全てモナーク兄にだけは劣る。それぐらいに兄の魔法は強すぎるのだが、



「モナーク兄さまは恐らく、右手で持てる両手の片手長剣を使う。それならば抜刀術は光る。  

 兄さまなら、無理にでもあの真っ直ぐな剣で再現するが、それなら俺が刀で抜いた方が速く強いと分かっている」

「ならば、刀を用意します」

「俺は王宮剣術で戦う」

「え……」



 王宮剣術に抜刀術なんてものはない。

 なんでだろう、勝ちたいだろうにと想像しているメルティを軽く睨みつつ。



「俺が8年間学んできた王宮剣術だけで勝つ。

 先とは違うことを言うが、兄さまの間合いに入らないようにすれば良い。右手が回らない場所から正当に決める。これで勝つ」



 「分かりました」と言ったメルティは俺に剣を渡して今から剣技の相手になる。

 使うのは『白羽の剣』と同様の両刃の片手長剣。

 ちなみに同じ形の『白羽の剣』を使わない理由は単にそれ同士を使って王子同士が戦う事が縁起が悪いから。

 俺だって気にするし、兄だって、父も母も気にする。だから使う気はない。


 剣2本分ほどの間を空けて、俺とメルティは対峙する。

 俺は先の片手剣を、メルティはそれより軽く扱いやすい片手剣を。



「本気で攻めて来い。でないと練習にならない」

「分かりました」



 お互いに構え、剣を交える。


 メルティは俺の守護防衛用に教わった『守護剣法』ではなく、連続で攻撃を続ける『上弦の月』で攻撃を続ける。

 あの技は守護剣法とは違って魔法の剣術だ。

 それ故にかなりの強さ。

 それを王宮剣術の特徴の一つである、最小の動いでの防御で捌いていく。

 相手の連続攻撃の防御の練習。


 メルティが、その攻撃の一つに正面を狙った突きを入れる。

 それを剣で払って右にずれて

 左足を出して軸にし、右に一回転。右手に持った剣を左足から右上に振り抜き、メルティの剣を宙に飛ばす。

 反撃の隙に大袈裟な技で反撃する練習。


 回転しながら地面に突き刺さったメルティを、引き抜いて渡す。



「次は俺が攻める。全力で守るんだ、耐えられなくなったら降参すればいい」

「は、はい!」



 この後。防戦をするメルティを攻め続け、「もう、限界です……」と言わせるまで剣を振り続けた。

 へたり込むメルティの横に座って俺も息を整える。


 かなりの時間剣を振り続けていたのだろう。

 俺はすぐに回復したが、メルティはかなり消耗したようだ。

 俺の剣技をずっと捌いてたら、そりゃ疲れるよな。

 数種類の回復魔法を使って、メルティの息を整えさせる。

 汗に関しては、濡れたタオルが一番だと思っているので、タオルを魔法で湿らしてメルティに渡す。


 メルティはタオルを一度断ったが、早く練習を再開したいし、俺の使用後じゃないので無理矢理使わせる。

 遠くで汗を拭いたメルティが戻ってくる。





「ジークはここに居たのか。ここで戦おうか?」



 戻ってくるところに、モナーク兄がやって来た。勿論、1人ではない数人のメイドや騎士を引き連れて。



「私が最初ですか?」

「あぁ、そうだが」

「ならば、皆を集めてから戦いましょう。私も皆の戦いを見てみたい」

「それは良いな。なら騎士達の野外演習場を空けさせる事にするか」



 兄は騎士の1人に目配せして用意させる。



「では皆にも伝えに行きましょう」

「ああ、そうするか」



 俺たちはその後、俺と同じように秘密の特訓をしていたハルト兄、アシュレイ姉、リズ妹にその事を伝えて回った。

 そして1番広い野外演習場でお互い合流する事になる。

 俺たちは1度部屋に戻って着替えてからそこに向かう事にする。


 いつも、モナーク兄と一緒に剣技の特訓をしていたハルト兄。

 剣技は好きじゃないけど、モナーク兄の最後になるかもしれないからと練習していたアシュレイ姉。

 剣技では勝てないけど、これまでの5年間の成果を打つけるつもりの妹のリズ。

 俺は8年だ。目覚めてから流されるままに初めて、そして最後になるかもしれないモナーク兄との剣技。


 俺の才能で、モナーク兄の魔法を倒す。

 可能だろう。そんな気がする。

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