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8-25.「出産」

 リズとアシュレイ姉様が王都へと帰還して、暫くの時が経った。具体的には執務作業の合間に、王城に到着した二人から届いた手紙を読んだりしている頃。

 妻の出産時期が迫っていた。


 それ故か、日々の執務にも身が入らずエンヴォーク伯爵等の部下に仕事を投げる毎日。

 それも、神の加護下にあるとはいえ日に日に疲れていく妻の姿を見ているからだろう。つまりところ心配なのだ。


「とうとう明日、か」


 明日は妻の出産予定日。その事を思いながら……、

 執務机の前に座り、両手の指は交互に絡めてリラックスしている休憩中に俺は呟いた。





 翌日。妻の出産予定日。

 今日の執務は、エンヴォーク伯爵や俺が適任だと判断した従者に丸投げ済み。妻に寄り添うこととした為だ。


 ガーベラが居るのは彼女の自室の一つ。

 また隣室には、今も出産に備えている医者が揃っている。


「手を……握ってください」

「あぁ。分かった」


 ベッド脇の椅子に座った俺は、彼女の手を取った。

 妻の様子からは疲労と緊張が見てとれる。高い確率で的中する、魔術によって導かれた出産予定日が今日なのだ。当然といえば当然だろう。


「離さない下さいね」

「ああ」


 まだ少し、余裕がある妻は言う。


「絶対ですからね。ジークさま……」

「離さないよ」


 近頃寝不足だった妻は少しばかり眠そうだ。

 ちなみに太陽は、まだまだ高く昇っている。


「あぁ……多分、もう直ぐです。医者を呼んでくださいますか、ジークさま?」

「あぁ。ローザを向かわせるよ」

「ありがとうございます」


 目線のみで、ローザに『隣室にいる医者を呼んでくるように』俺は命じた。

 いち早く扉の近くまで移動していた彼女は俺の命令に頷き、数秒で医者たちを呼んで戻って来た。


 医者は俺の計らいで優秀な女医のみを採用している。また室内には、最低限の数の従者しかいない。

 故に、男性は俺ただ一人だけだ。


 そしてこの部屋、ベッドの上で出産が行われた。


 その間も俺は妻の手を握っていた。

 俺の手を強く握り、また歯を食いしばって、出産の痛みに耐える妻が少しでも楽になるようにその手を離さない。離さなかった。


 産まれたのは可愛い女の子。

 ガーベラは生まれたばかりの我が子を腕に抱いて、元気いっぱいに泣いている娘に優しく微笑んだ。





 妻の次は俺が、娘を抱いた。


 まだ名前すら決まっていない小さな娘は、想像以上に柔らかい。特性の毛布に包まれた上からでも全身の柔らかみが感じられる。

 そして確かな重みが感じられる。それが命の重みだ。


 妻の枕元の椅子に座って、俺は娘を抱いていた。


「やはり、私の思っていた通り。この子……私たちの娘は可愛いですわ」


 出産後の恒例として大泣きする娘と、夫である俺を見てそう話す妻。


 同感だ。娘は可愛い。

 きっと将来はガーベラのように美しくて綺麗で可愛い女性になることだろう。


 そんな可愛い、俺の腕に抱かれた娘を再び妻に返す。

 するとどうだろう。産まれてから、今まで散々泣き続けていた娘が唐突に泣き止んだ。


 泣き疲れたのか。母の腕の中は父のそれよりも落ち着いたからなのか。

 理由は分からないけれど、俺と妻は驚いたというか呆気に取られかというか。


 「ふふ」と、二人は微笑んだ。


※次回更新は、11/28(土)です。



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