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8-21.「魔界との交渉の末に」

 俺がほとんど何も関与しないまま、魔界との交渉は終結した。

 俺はこの事実を執務室からリアルタイムで聞き知った。現在、交渉参加者たちが我が領地を通って王都へ帰還している最中らしい。


 しかし薄情にも「王に真っ先に伝えなければならない」と、交渉参加組は王都へ直行。俺は結果を知らせられなかった。

 そして交渉の結果は、数日後に送られて来る国王からの手紙で知るわけだ。



 この二日後、国王より全領主に宛てた手紙が届いた。


「さて。」


 俺はローザ・スペンサー経由でこの手紙を受け取ると、左手でサーシャ・セレスティアから差し出されたペーパーナイフで封を切る。

 そして折り畳まれた状態で封入されていた手紙を取り出して、二枚折りのそれを広げて文面を読み進める。


 つらつらと。


 必要無い情報が一切ない要点だらけの文面を、読み終えた。


「この度の交渉結果だが、我々が捕虜とした一体の悪魔を魔界に引き渡す条件として、『我がジークハイル神仰国の人間に危害を加えない』約束と『相互不可侵』の決まりが結ばれることとなった。

 これは魔界側基準の拘束力を持った契約で交わされる。つまり今回の交渉は成功といえる」


 俺は手紙を読むために下がっていた視線を正面に向けると、この報告を聞くべく集まっていた我が領地に於ける主要な面々に手紙の内容を伝えた。

 魔界との交渉は成功に終わった、と。


「最良の結果ですね。殿下」

「ああ。魔界に隣接する土地の領主としても、個人的にも有難いことだ」


 未知に対する防衛と云う観点と。俺が悪魔に狙われっぱなしだった、といった経歴からも嬉しい結果となった。


「ただ、交渉の戦利品とも言える『契約』は施行されるまでは効力も何もない。国境近くに待機させていた騎士は暫くの間そのままにしておこう」

「はい。了解しました、殿下」


 契約が施行されるまでの間に、国境線が押し上げられでもしたら堪ったもんじゃないからね。

 だから万一に備えて待機させていた騎士や兵士は待機を継続させておこう、と思う。



 この交渉結果を聞いた者たちの反応は、皆一様に同じだった。

 統計の集計範囲を国内全土に広げてもこの結果は変わらないだろう。国内に住む誰もが安心できる、一つの成果なのだから。


 その中でもリローテッド・スペンサー伯爵の喜びは大きなもので、兵力に充てていた金や人員を別のところに割けるかもしれない。

 と、この結果に歓喜していた。

 他にもスペンサー伯爵ほどではないにしろ、防衛に多くの資源を割いてきた貴族からは喜びの声が上がっていた。


「内容は以上だ、解散」


 そう告げると、俺の報告を聞くべく集まっていた一部貴族家の当主や俺の部下たちが退室。執務室内には俺と側近、そしてエンヴォーク伯爵のみとなった。


 そうして俺は、手紙を読むために一旦ストップしていた執務作業を再開させる。

 今回の交渉結果を早速政策に反映させられるように。


 それを無言で見守っていたエンヴォーク伯爵は、いつの間にか退室していた。

 彼には悪魔引き渡し等々の重要な仕事を幾つか任せている為、その仕事に早速取り掛かるつもりなのだろう。


 頑張ってほしいと思っている。





 この日の夜、俺は手紙の内容を妻に話した。

 時間帯が夕食後のティータイムだったということもあって、少し噛み砕いたものとなったが内容は変更せずに伝えた。

 そして、この交渉結果によって得られる安全性も話した。


「では。これでジークさまが安心して暮らせるようになるのですね」


 そう、一言目に言った。

 他の王族では考えられないような「俺の人生」を鑑みて、安全とはいえなかった俺の人生がようやく安全で安心できるものに変わるのだと。


「ああ、そうだ」

「それはよかったですわ。これからジークさまは危険な目には遭わないと知れて、本当によかったですわ」


 彼女は妻として、短い期間で何回も危険に見舞われる俺のことを案じてくれる。


 誰かに自分の身を案じてもらえる、と云うことはすごく幸せなことだ。


 そのとき俺は、ふと思った。(ガーベラ)以外にも、この交渉結果で俺のことを思い浮かべる人が居るのではないかと。

 そしてその人はもれなく俺が大切に思っている人達ではないかと。


「既に知っているかもしれないが、久しぶりに手紙を送ろうかな」


 俺はアシュレイ姉様やリズ、二人のお母様を思い浮かべながらそう呟いた。

 私的な手紙を送るのはこの四人に近況報告の為に送って以来だ。


「私も妹に手紙を送ろうかしら」

「『契約』等は伏せてくれ」


 『契約』の他、公開してはならない情報等が色々とあるからね。


「では、私と一緒に手紙を書いて下さりませんか?」

「いいよ。楽しそうだ」


 期せずして、妻の妹宛てに一緒に手紙を書くことになった。

 まだ就寝時間までは少し余裕があるので、これから一緒に書き始めるとしよう。



 夕食にいただいたワインが良い方向に働いたのか、義妹にあたるカタルマ・イルシックスや他の弟妹たちへ宛てた手紙を綴る筆は進んだ。

 翌朝に読み返して、いくつか修正を加えるこたとなるのだけどね。

※次回更新は、11/14(土)です。



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