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8-18.「レイランの家名」

 領内の警備を強化する事に決めてから半月後、魔界との交渉に向けた警備関連の問題に一段落が着いた。

 既に王都より担当者がやって来て、最善の事前準備を整えている途中でもあった。


 そんなとある日。妊娠中の妻が言った。


「レイランに家名を与えて下さる件は覚えておられますか?」

「ああ。覚えているよ」


 確か。公都行きを控えた日の夜に、王城でそんな願いを受け入れた気がする。


「私が決めて良いと仰っていらした彼女の家名ですけれど、ようやく決めることができましたので聞いて下さいますか?」

「ええ。確かに覚えています。聞かせて下さい」


 そして確か。俺が家名を持たないレイランに一代限りの貴族位と家名を持つことを認めて、彼女の主人である妻がその家名をプレゼントするって話だった筈だ。


「『レベッカ』です」


 当人であるレイランの居ない部屋で妻は、端的に言った。


 しかしその名前は確か、ガーベラ本人の名前であるはずだ。

 儀式用の幼名でもあった筈の「ガーベラ」と云う名前とは別にあった、本来なら今現在彼女が名乗っているはずの名前である。


「『レベッカ』ですか」

「えぇ。この名前の経緯を知っている彼女なら喜んでくれるでしょうし、なにより『レイラン・レベッカ』と云う言葉の響きが似合っている気もしますから」


 かなり長い時間をかけているし、幾度も悩んだ末に決めたのだろう。

 彼女の表情を見ればそれは明らかだ。


 であれば俺は、この妻の決定に賛同しよう。

 我が国で使える家名なのか。と云った行程を経て、彼女に贈られることとなるだろう。


「よろしいでしょうか?」

「ああ。もちろん構わないよ、後日時間を用意して彼女に贈るといい」


 可愛らしい良い名前なのだから女の子の子供が産まれた時の為に残しておいたら良いとも思うけど、子供の名前はまた産まれてから考えれば良いか。





 という訳で、数日後に魔界との交渉が迫った今日。


「ジークエンス様。私にお話とは、なんでしょうか?」


 妻の専属メイドであるレイランに、爵位や家名などの話を伝える為に呼び出した。こういった話はできるだけ早い方が良いのである。


「緊張せずともいいですよ。いえ、緊張感はあった方がいいのかしら」

「ガーベラ様。いらしていたのですね」

「ええ」


 俺に勧められるがまま部屋の中央にある椅子に座るレイランと、隣の別室から入ってきた妻。

 妻は長年仕えている従者に朗報を伝えられるからなのか、凄く嬉しそうにしている。


 ちなみに彼女たちの他には、俺と護衛のメルティを除いて室内には誰もいない。


「レイラン」

「はい」


 彼女の名を呼び、一度仕切り直す。


「私や妻に仕える者として家名がない現状だと色々と不都合もあるだろう。

 故にガーベラ・イルシックスに仕える専属メイドのレイランに、爵位と家名を名乗る権利を与える」


 彼女からしたら予想外の話題だったのだろう。

 黙ったまま目を見開いて、驚きの様子が表情に出ている。


「この経緯に至ったのはお前の主人であるガーベラが私に働きかけたからだ。また妻は、お前の為に家名を考えてくれている。感謝を忘れるなよ」


 彼女が驚いているのか。感動しているのか。

 俺には分からないけれど、ともかくレイランは正面の俺から視線を動かして自らが主人に向けた。


「私にそこまで……本当にありがとうございます、ガーベラ様。ジークエンス様」

「貴方に喜んでもらえて嬉しいわ」


 そう言って妻は、感動のあまり泣いてしまった従者の涙を指で拭う。


 俺は『レイラン』と云うメイドのことを妻の専属筆頭メイド、以外には何も知らないけれど少し嬉しい気持ちになった。

 今のいままで王女様に仕えていた彼女が家名を持っていない理由は知らない。けれど、何かしらの背景ストーリーがあるのだろう。


 しかし俺の王権、また我が国の王権下に属する事となる以上は些細な問題だ。


「取り乱しました」

「別に気にしていないから、お前も気にするな」


 それも些細な問題だ。


「では。妻が考えた家名を伝えよう」


 発表は考案者本人から!

 と云うことで視線を妻に向けると、彼女は嬉しそうに頷いた。


「貴方に贈る名はレベッカ。レイラン・レベッカが貴方の新しい名前ですね」


 これから自身が名乗ることになる名前を聞いて、レイランは表情を真面目モードに戻すと頷く。


「『レベッカ』ですか」

「ええ、私が名乗る筈だった名前と同じものね。それを貴方に贈ります、これからも私とジーク様のことを守ってくださいね」


 彼女のガーベラと云う名前は元々儀式用の幼名で、本来名乗る筈だった名前『レベッカ』を従者に与えた形だ。

 この話を専属メイドとして仕えていた彼女は当然知っており、だからこそ思うところがあるのだろう。


「よろしいのですか?」

「もちろんです。私の厚意、受け取って下さいね」

「は、はい! ありがたく頂戴致します」


 恐縮の念から受け取りに戸惑っていた彼女だけど、厚意の品と気付いたなら受け取らないわけはない。


「ジークさまへの感謝も忘れずにね?」

「はい。感謝致します、ジークエンス様!」


 俺が二人の引き立て役みたいなポジションになっているけれど、まぁ。感謝されて嫌な気はしない。


 むしろ、嬉しいくらいだ。

※次回更新は、11/1(日)です。



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