1-31.「旅団剣舞(2)」
「いけないのですか? モナーク兄さま」
「あぁ、ジークは男だ。長く付き添える男を騎士候補として選ぶべきだ。アシュレイとは少し話が違う」
アシュレイ姉とモナーク兄の会話にで
団長さんが連れてきた娘は分かっていないみたいだが、団長さんは少し苦い顔だ。
許可されると思っていたみたいだ。
「いいではないですか、剣技を見るだけでも。女でも強い剣士はいますよ」
「剣技はみる。だが、ジークとの間に何かあってはどうすると言うのだ。
それにこれまでの女の剣士も、衰えるのが男と比べて早い。一生守り続ける騎士が最後戦えないのでは意味がない」
「それはご安心下さい殿下。娘には剣技の魔法がございますので、老いても使いものになるでしょう」
「……まあいい。お前が相手でいい、その剣技を見せてみろ」
「はい。ありがとうございます」
剣技の魔法って、アシュレイ姉の抜刀術みたいなものかな?
だったらこの子も、生まれつきそんな剣を振るえるのか。
一礼した団長と娘は、階段を使い下の階層に降りていく。
俺たちが下の階を見る部屋の端に、下に降りる曲線の階段があり、2人はそこから上がっても来たようだ。
下に降りた2人は、幼い子供の剣技を監督する男性に指示して子供の拙い剣技をやめさせて場所をあける。
広い部屋の真ん中で対峙した父親と3歳ほどの娘の身長差や凄いが、お互いに剣を抜き、構える。
「早速、私にあの魔法を発動しなさい。それを私が防ぎきり、剣舞の開始とします」
「はい!」
黒髪少女は緊張からか、声が裏返っているようだった。
モナーク兄が下の団長に目線で指示。
それを確認し、モナーク兄が右手を挙げて、剣舞が始まった。
◇
右手が挙げられたのを確認した団長は娘に頷き、娘は剣を正面に構える。
足元は肩幅よりも小さく、剣は顔のすぐ前に構えられた。
少し倒れ込むようにして、娘が父親との間合いを詰める。
その際に正面に構えた剣を右から下にゆっくり回し、間合いに入ったところで足を小刻みにに動かしながら、右斜め上に構えられていた剣で斬り込む。
勿論、幼い子供の歩幅で足を小刻みにに動かしたって大して意味もないのだが、団長は娘が映えるように派手に受ける。
そのまま黒髪少女は追撃を続ける。
下に構えた剣を右回りで正面上方向に回しながら、父の攻撃を防ぎつつ、どの角度からでも攻撃を入れる。
団長も団長で、剣士としても体格。がたいがいいのだが、飛んだり跳ねたりして立体的な剣技の撃ち合いを見せてくれる。
これが剣舞か。
見世物として、確かに面白いな。
剣技はもう十分と、モナークは下にいた他の男性剣士に視線を送る。
それは監督していた剣士に伝えられて剣舞は止められる。
団長の受け方が上手ったのか、金属音が大して響かず、現在は静寂。
結構満足したのだが、ハルト兄は少し残念そうだった。
まだ剣舞を観たかったのかな?
モナークは兄は2人を上に招く。
息切れを直し、汗を拭いて水分を含むと2人は下から上がってくる。
そして遠くから一礼してこちらへ来る。
「流石だった、流石は団長の娘だ。他の子供とは全てが別物だった。大人の剣士と比べても遜色ない程にだ」
「ありがとうございます」
確かに。さっき剣技を見せていた子供たちは基礎がなってなく、『こんな程度で俺たちに披露したのか?』なんて思っていたが
この子の振るった剣技は1つの形になっていた。
それは魔法による先天性のものとは言え、始めるまでの、立ち方や構えなどの色々な動きは魔法とは関係はない。
技も技名もカッコよかったし、言うことなしかな。
「娘の体では、完全に『上弦の月』を振る得るほどの大きさがないのでこれですが、失伝していたこの技を使用可能です」
「確かに、下の誰よりもいい動きをする。将来の期待も見せた。どうだ? ジークは気に入ったか?」
「はい。凄く気に入りました」
剣技を見てから、モナーク兄の評価は変わった。
一応観るとは言ったものの、将来のことを考えれば、『長く現役でいれない』という結果があるからダメかと思っていたが、許してくれた。
「分かった。お前を私の弟、ジークエンス・リートの騎士候補に選んだ。まずは誰か騎士の下について学ぶだろう。将来ジークエンスに騎士に選んでもらえるよう、励めよ」
「はっ! ありがとうございます」
娘が俺の騎士候補になり、父親の団長はモナーク兄と俺たちに向かって、右手を胸に当てて礼をする。
そんな訳で、この黒髪少女は俺の騎士候補になった。
汗と、まだ続く息切れと、顔の火照りから凄く可愛く思える。いや、元々可愛いんだけどね。
他に候補を選ぶのも面倒だし、将来は騎士にしてあげると思う。
相当酷く、なっていなければだけどね。