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8-8.「夜に夜会を控えた、午前中」

 昨日の夕方頃、旧都領の村や俺たちを襲撃した悪魔が捕縛された。

 性別は男性だと思わしき、襲撃者の彼はライル・ミエル・ハウンズの街から少し離れた近隣の都市で安置されており、厳重な警備の元で、俺の命令通り尋問が行われているのだとか。


 何を喋ってくれるのか楽しみだ。


 しかし、その後はどうするべきだろう。

 魔界とは国交がある訳でもなし、王族を数度にも渡って襲った犯罪者として殺して仕舞えばいいのか。それとも彼を交渉材料とし、魔界へ「安全を誓え」と呼び掛ければいいのか。

 まぁ。そのどちらの選択肢を選ぶとしても国王の判断が必要そうな案件なので、王都へ報告の手紙を送り、取り敢えず保留としておこう。





 朝食まで含めた全ての朝支度を終えて、俺は今現在執務作業前のリラックスタイムを味わっている。

 腰を下ろしている場所は執務机の前ながらも、ゆっくりと読書に耽っているのだ。


 そういえば俺は結婚する以前の、更に眠り続けた三年より前は毎日のように日がな読書に耽っていたなぁ、なんて思い出した。

 いや別に、何か特別なものが訳でもない。ただ思い出しただけだ。


「さて。そろそろ始めるとするか」


 何を始めるのか、ーー執務作業だ。




 執務机の前に座って、初めに机の上にある書類資料を流し読みする。内容は領地に関連するものだ。


 人口や収穫予定にある農作物の数、更地が多い関係で幾つか計画されている開拓村や税率制度など。

 この資料には領主として必要な基礎知識が記されており、既に暗記してあるのだが、その暗記した内容から少しだけ変動した最新の情報を更新する。


「おはようございます。ジークエンス殿下」

「あぁ。おはよう」


 資料の読み込みを終えたところに、仕事を持って来たエンヴォーク伯爵が入室した。

 俺は未だ「殿下」呼びを続ける彼から書類を受け取り、彼の口頭での説明を聞きながらそれに目を通した。


 説明の、話題の一つ目は、拘束捕縛中の悪魔から聞き出した情報と尋問の進捗について。

 二つ目はガラッと雰囲気を変えて、今夜行われる予定にある夜会に参加すべく集まった領内の貴族について。


 俺はこうした更新されたばかりの情報を彼から仕入れることにより、脳内に於ける情報の更新を行う。


 そして更新中に思うことがあった。

 夜会とはつまり舞踏会であり、舞踏会といえば、そういえば……。


「今夜の夜会では、伯爵やその血縁は参加するのか?」


 数える程度しか参加したことのない舞踏会とエンヴォークの名前。


「はい。妻や娘と参加しようと考えております」

「そうか」


 『血縁』と言ったが、これは回りくどい言い回しだ。俺は顔見知りの仲である彼の娘、プレンスプリズム・エンヴォークについて聞いたのだ。


 それは過去に一度だけ踊ったことのある彼女が参加するかの是非を問うただけの、まぁ世間話の枠を出ない話だ。




 俺は執務作業の傍ら、思考の半分程度を今夜の夜会に割いて考える。

 そして時刻が正午を過ぎると執務作業を切り上げて、そろそろ夜会の準備を始めるのだった。





 ーーガーベラの自室の中の一室にて。


「こちらなどいかがでしょうか?」


 くるりっ。と一回転。


 ガーベラは、ドレスを纏ってみせるとその綺麗な姿を俺に見せてくれた。

 また楽しそうな彼女の姿に魅せられる。




 ところで俺が妻の部屋で彼女のドレス姿を眺めている理由だが。

 一言で言うと、それは『俺の提案だから』だ。


 詳細に説明すると……俺が必要な支度を終えたあたりはまだ夜会までの時間があり、特に理由もなく妻の部屋に赴いた俺は、今夜のドレスで悩んでいた彼女に提案したという訳だ。

 そして現在、選んでいる真っ最中である。


「そのドレスも素敵だよ。ただ舞踏会には向かないかな」

「でしたら、こちらはいかがでしょう?」


 そう言って彼女が選んだドレスの色は一つ前のものと同色。

 彼女はやっぱり、好みの赤色のドレスを選んだ。


 女性は妊娠すると好みが変わったりすると聞くが、その変化は未だ表れていないようだ。

 もしかしたら彼女の色の好みは変わらないのかもしれない。


「では、こちらに致します」


 半日ほど悩んだ果てに、ついに今夜のドレスが決まった。

 大人の女性らしい直線的な赤いドレスだ。


 近頃、少しずつ目立ってきたお腹の膨らみを自然と隠しつつも違和感を感じさせないデザイン。

 それを纏ったガーベラは、やはり美しかった。





 今夜の舞踏会は城の大広間で行われる。


 そのため今夜の為に集結した領内の貴族たちはハウンズの城へ登城し、控え室で身支度を済ませたのちに大広間へ集っていた。

 また貴族たちと同様に、俺とガーベラは大広間へ向かっていた。


「これは殿下」


 その道中に俺を呼ぶ声が聞こえた。エンヴォーク伯爵だ。


「広間へ向かわれるのですね。同行してよろしいでしょうか?」

「あぁ。構わない」


 彼は午前中に話していた通り、奥さんと娘のプレンスプリズムを連れている。

 奥さんは低身長で外見年齢がかなり若く、娘の方は同年齢のガーベラと比較すると仕種が幼く見える。


 その奥さんとは初対面で、プレンスプリズムとは王都での舞踏会以来二度目の対面だ。


「こちらは妻のソフィア・リィスと娘のプレンスプリズムです。確か娘とは、王都で一度会っておられるのでしたね」

「あぁ。舞踏会以来になるな」


 伯爵が、彼の妻と娘の紹介をしたので礼儀として挨拶して返す。


「はじめまして夫人。私が言うのもおかしな気がするが、是非とも夜会を楽しんでくれ」

「感謝致します殿下」


 『俺を歓迎する為の夜会』なことを考えると可笑しな言い草だが、まぁ楽しんで欲しい。


 次はプレンスプリズムの番だ。


「王城での舞踏会以来だな」

「はい。その節では、私と踊って下さり感謝しておりました」

「今夜も、機会が有れば相手をしよう」


 俺は、約半年前と比べたら感情の起伏がかなり穏やかになっている彼女とそんな口約束を交わした。




 そして俺たち夫婦は伯爵たちとたわいもない会話しつつ、共に会場である大広間へ向かうのだった。

※次回更新は、9/27(日)です。

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