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7-25.「元女盗賊への質問と回答」

 翌日の朝。朝支度を済ませた夫婦のうち妻は魔術による精密検査、夫はとある人物が訪ねてくるのを待ちながら自室で手紙を書いていた。

 手紙というのは滞在予定の屋敷宛のものだ。


「失礼致します、殿下」


 扉をノックした後、一言告げて入室したのは執事のミゲル。そして彼に連れられて来た元女盗賊だ。

 ただ彼女は女性使用人の服装をしており、そのうえ入浴と少しの化粧で小綺麗に纏まっている。故にその外見から盗人家業をしていた女とは分からないだろう。


「連れて参りました」

「御苦労」


 俺は全ての手紙を書き終えるまで彼女を待機させる。

 そして二人の入室から数分後、サインし終えた手紙をローザに手渡し、座ったまま彼女と向かい合った。


「これから幾つか質問するからそれに答えなさい。そして一応、王権は使わない」

「はい」


 即答した後で、彼女は驚いたような表情を見せる。きっと王権を使って強制してこないことが意外なのだろう。

 でも彼女も自身の立場は理解しているだろうし、明日にでも同じ質問を王権を使ってするから関係ないか。


「まずは、お前の名前を教えてくれるか?」

「アリアといいます」


 思ったより可愛らしい名前だ。

 それと下の名前はないのだろう、盗賊だったことを考慮すると当然ではある。


「年齢は?」

「今年で21歳です」


「夫はいるか?」

「いいえ。おりません」


 もしいたら引き離すのも可愛そうだ、と思って聞いたが、杞憂だったようだ。


「では家族はいるのか?」

「はい。父、姉、弟がおりました」


 きっと、その家族は公都に残っているのだろう。


 ーーここまでの質問は彼女の基本的な個人情報や身の上話だ。そして、ここからが彼女のこれからを決める質問となる。



「魔法は何が使える?」

「炎魔法、のみです」


「魔術を使用可能か? それと自己評価て構わないから、自信の戦闘技術について話してみなさい」

「夜間行動で必要だった魔術ならいくつか使えます。ただ戦闘経験は少ないので、逃げるのは得意ですが、逃げずに戦うのは苦手です」


 なるほど、戦闘要員には使えないか。

 別に期待はしていなかったし、最初から彼女に戦ってもらうつもりはなかったので構わないけど。聞いた感じだと、諜報が得意っぽいね。


「では、お前は何を得意としている?」

「諜報活動に窃盗に、セルバータ王国の言葉が分かりますので通約もできます」


 大雑把な質問だったが、なるほど。

 俺に取り入ろうと必死なのか、彼女より自己アピールの売り込みはスラスラと詰まることなく語られる。きっと聞かれる質問だと思って練習していたのだろう。


 肝心の内容は、盗賊っぽい技術とセルバータ王国の翻訳能力。


「翻訳は口頭だけか? それとも文字の読み書きもできるのか?」

「はい。表現が拙いかもしれませんが簡単な読み書きならできます」


 なるほど。セルバータ王国の言葉なら俺も分かるので、具体的にいつ必要になるかは分からない。が、有用そうな能力だ。

 それに彼女が『個人の特技』として厳選した三つのうちの一つ。そのうち二つは本業だったのだ、期待するだけの価値はあるだろう。


「使用人の経験は?」

「偽名で何度か、新人として潜入したことはあります」


 つまり経験はないってことか。まぁ女性使用人の服装だったから聞いただけなんだけどね。それに王族に相応しいものを要求する気はない。

 それでも使用人のなんたるかを少しでも分かっているのなら、その服装のまま使用人のフリもできるだろう。


「最後に、お前の望みを言ってみろ」


 と、最後に聞いた。

 望みの人生、望みの役職。それは今彼女が志している夢だったり、そんなものはないからもっと他の何かを求めるのか。

 こうやって話しているのだし、聞かせてもらおう。


「望み……私の、願いは……」


 少し待ってやり、思考時間を与えてやる。


「ーーすみません。今はまだ、思い付きません」


 捕らえられてまだ一ヶ月程だもんな。それに自身の身の上すらよく分からない状況っぽいし、また今度改めて聞いてやろう。

 捕らえられる以前の彼女個人に望みや願いなんかがあったかは知らないけど、とりあえず彼女にも与えてやろう。


「明日にも同様の質問を行う。それが済み次第明日と明後日の二日間、お前にも休暇を与えよう」

「ーーありがとうございます、殿下」


 従者や使用人全員に加えて理沙にまで休みを与えたのに、彼女だけ待機したままだと変に目立つかな。と考えて、休みを与えることとした。

 これには彼女も、室内で待機していた従者たちも驚いている。


 ただ、その際は王権でガチガチに制限を掛けて、誰かしら見張りに付けることになるだろう。これでもし悪巧みしてもすぐにバレる。

 一人きりで実行するとは思えないが。


「話は終わりだ。下がっていいぞ」


 こうしてミゲル同伴で彼女を下がらせる。そんな、滞在四日目の朝。



 ◇



 その翌日、今朝も検査を受けている妻を待っている俺は元盗賊のアリアを呼び出した。再質問だ。

 この部屋には昨日から二日間休暇中のはずのミゲルとサーシャ、今日明日の二日間休暇を取ることとなるローザとメルティ、この四名に三日間の休みを押し付けられた婆や。そして俺とアリアがいる。


「ジークエンス・リートが代行する。以下の質問に正しく答えよ」


 今度は王権付きだ。そして宣言通り、昨日と同じ質問を投げかける。


「お前の名前は?」

「アリアです」


「年齢は幾つだ?」

「今年で21歳です。」


「家族は?」

「父と姉と弟がおります」


 その答えは全て昨日の回答と同じで、彼女に少し罪悪感を覚えてしまう。それと一つ一つ質問するのは面倒だ。

 なので、面倒だったので「昨日の回答に誤りや抜けていた部分はあるか?」と、一括りに質問した。


「回答に誤りはありません」


 つまり昨日の回答に嘘はなかったということか。信頼というより従順な感じで、まあ短期間の付き合いにしては上等。


「ただ……」


 アリアは、王権の効果で強制的ではあるが話の続き語ろうとする。ただ彼女は「誤りはない」と言ったので、否定する文言が続くわけではないないだろう。

 彼女は少し慌てているようだけども。


「一通りの家事の素養があります」


 その事実に何とも言えない、いや実際には一言「そう」と答えたけれど、どちらにしても想像通り大した内容ではなかった。

 しかし彼女が悶えている。そんな様子から察するに、他人には知られたくなかったのだろう。盗賊をやっていた女が実は家事万能。そんな事実を。


 そして結局、彼女は今日昨日と嘘を付いていなかったと分かった。なので彼女には今日と明日の二日間、王権の縛りと監視付きではあるが休暇が与えられるのであった。

※次回更新は、8/22(土)です。

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