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4-31.「結婚式当日の朝」

 意識が覚醒して全身が軽くなったのを感じる。

 両眼を開いた俺は、自身の起床を確認した。


 窓に差し込む光の加減や、時計が示す現在時刻から今朝はいつもより1時間程早く目覚めてしまったらしい。

 恐らく楽しみすぎて早く起きてしまったのだろうけど、こんな早い時間からメルティを含め側近が全員揃っている。


 そういえば以前セシリア母様が「結婚式の朝は早い」って言っていた、と半分夢現な思考から目覚めて思い出す。


ーー今日は結婚式が行われるのだ。


「おはようございます殿下。」


「おはよう2人とも」


 息の合った挨拶に答え2人にベッドから起こされると、寝間着を抜いでいつもと変わらない服装に着替える。

 結婚式で纏う司祭服は食後に着替える予定なのだ。

 つまりこの服は朝食の間だけ着る服。なので装飾品の類は一切付けない。


「殿下。本日の朝食はいつもより早い時間からとなりますので、今から食卓へ向かいましょう」


「そうしよう」


 婆やの話に頷いた。


 そして身軽な服装の俺は結婚相手のガーベラ王女を迎えに行く為、部屋を出て彼女の部屋まで歩いた。

 しかし3部屋隣の彼女の部屋の前には既に、昨日の朝と同じドレスを纏い待っているガーベラ王女とその側近達が居る。

 彼女たちは俺が部屋を出てきたのを確認すると各々、カーテシーや礼を取り俺を迎えた。


「おはようございます、ガーベラ様。」


「は、はい。おはようございますジークエンス様」


 王都は温暖な気候だけど早朝は冷える、なのに俺とガーベラ王女の顔が赤くなる理由は単純に恥ずかしさからだろう。

 互いに互いの事を意識し合っているから顔が紅潮するのかな……って今朝の俺は変に冷静だよな。


「早速朝食へ向かいましょう。」


「はい」


 話しずらい雰囲気なので早速朝食へ向かうべく彼女の手を取り、引いて一緒に歩き始める。


 しかし話す話題が無いーーというより脳が回らない。


 普段なら食卓の部屋までの道中は彼女のドレスについて話すけど、そのドレスの概要は既に何回か聞いたので話題にしても続かずこの空気感が強まるだろう。

 あと『結婚式』という核心をついた話となると、今度は俺も話せない。


「殿下、本日の朝食は城の料理人達がこの日の為に思考を凝らし調理した特別な品となっております」


 自分でも『どうしようかな』と考えていたところで、ローザの言葉でこの空気感がリセットされた気がした。

 結婚式当日くらい緊張するのも初々しい感じがして悪くないけど、緊張しっぱなしだと逆に感動したい場面で感動もできなくなる。


「そうか……それはどのような料理か楽しみですね」


「はい。『この日の為の特別な料理』とは少し照れてしまいますけど、嬉しいですね」


 だから切り替えられて良かった。

 俺やガーベラ王女の話す言葉も流暢になってきた。

 こうして俺とガーベラ王女は少しだけ言葉を交わしつつ、数分後に食卓の部屋に到着した。





 部屋には既にアシュレイ姉様とリズとセシリア母様とステイシア母様、そして父様と全員が揃っており俺たちが一番最後だったみたいだ。


「遅れて申し訳ございません」


 予想外の景色に一瞬驚いたが、その後すぐに謝る。


「構わない私たちがお前達を迎えただけの事だ、だから早く席に着きなさい。」


 その言葉に従い席に着く。

 そしてふと皆の顔を見てみると父様以外の全員、特にリズは眠たそうだった。もしかしたら俺も眠そうな顔になってるのかもしれない。


 こうして全員が着席して一息ついたところで、本日の朝食が執事により運ばれて来る。


 メニューは色鮮やかな数種類の果物が添えられたフレンチトースト、澄んだコーンスープと飲み慣れている紅茶。

 などと、フレンチトースト以外は見た目も味も変わらずステーキがなくて量が少しずつ少ない程度。


 全体的に優しい朝食だが『特別な料理』とはこの程度なのか、と思いながら食べていたが違った。

 いつもより少量のそれを食べ終わると同時に、食後のデザートとしてケーキが出された。


 その他にも金属製食器に入ったプリンやゼリーといった、今世ではそもそもあまり作られないし食べていない品も出される。


 皆も、そして俺も一応デザートは全種類食べたけどプルプルしているプリンや甘いゼリーよりも、いつも食べているチョコレートケーキの方が美味しかったのは誰にも言わない。

 珍しいからかリズとガーベラ王女が驚きながら、そして美味しそうに食べているからね。


 恐らく『特別な品』とはあのデザートの事だろう。

 何故か前世知識にあるデザートだったから驚きは無かったが、皆が美味しそうに食べてくれているならそれで良いや。


 ちなみに、味や見た目が前世のそれとそっくりそのままなのは気にしない。なんたって王城に住んでいればそういう体験もよくある事だから。


 そうしてデザートまで全て食べ終わる頃には皆も、ガーベラ王女も俺も十分満足していた。

 ケーキの食感やスープの少なさなどから水分でお腹がタプタプになる事もなく、本当に計算されたちょうど良さだった。


 父様は皆が食事を終えた事を確認すると、最後に紅茶を飲み俺たちを向いて話を始める。


「ジークエンスは司祭服に着替えた後、ガーベラと共に王家の神殿へ向かいなさい。そこで結婚式を行う」


 思ったよりも楽しみながらデザートを食べていたがこれから本題の、結婚式が行われる。


「神殿へは2人で向かいなさい」 


「分かりました。着替えた後すぐに向かいます」


 最後にこれを伝えた父様は席を立ち自身の側近を連れて部屋を出た。


「私たちも神殿で祝いますからね」


「素敵な晴れ姿に身を包んだあなた達を待っているわ」


 父様が部屋を出た後立ち上がった母様達も、言葉を贈った後2人一緒に部屋を出る。


「私たちも楽しみにしていますね」


「はい、私も早くお兄様とガーベラ様を祝いたいです」


 その後にはアシュレイ姉様とリズが部屋を出て、部屋には今日も俺たちだけが残った。

 お母様もお姉様も妹も俺たちの結婚式を楽しみにしてくれているようで、本当に嬉しい。

 彼女達は皆笑顔のままそういってくれて、その言葉が本心からのものだとよく分かった。


「では私達も部屋に戻りましょう」


「はい。」


 こうして俺たちは部屋を出た。


 廊下を歩きながら、お互いまた緊張していると分かるのだけど一旦部屋に戻るまでだから支障はない。

 だからエスコートする今この瞬間だけはお互いに緊張した、自分でも初々しいとこの思う時間を堪能したい。

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