4-15.「舞踏会 ~ドレスアップ~」
登城する馬車の数が徐々に減ってゆき話す話題も締められた頃。時間的にもそろそろ戻らないといけないとの事で俺達は自室に戻り、舞踏会の準備をする事となった。
アシュレイ姉様とガーベラ王女は立ち上がり、俺も膝上に乗っけてたリズと一緒に立ち上がる。
「この度はありがとうございました。アシュレイ姉様の説明のおかげで、今夜の為の知識を多く知る事ができました。大変感謝しております」
アシュレイ姉様とリズも俺の言葉に続く。
「どういたしまして。ーーでも実はこれね? 私が成人した日はモナーク兄様が話して下さったのよ。私の為に家名や名前などを調べて教えてくれた、私はそれを引き継いであなた達やハルト達に話したの」
「そうだったのですね」
俺の相打ちに頷く姉様。
その姉様は「ジークは知り得ない理由でしたから、どうしても伝えたくてね」と付け加える。
「そして私があなた達に説明したのはモナーク兄様の後を継げた事が嬉しかったから。ふふ、リズの成人式の日にも話しますからね」
そう、ガーベラ王女が自ら説明役をかってでて下さった理由を話す。
そのエピソードに眠っていた3年間の重さを感じながら俺は、感謝の意を伝える。
そのあと俺達は自室に戻る為側近のメイド達を連れて部屋を出た。レイランとフルマルンも婆やも既に戻っている。
時刻は現在午後5時くらいだろうか。俺達は一度各々の部屋に向かう。
来た時と同じ道を通ってそれぞれの自室を目指す。
「あっ、ジークは少し待って頂戴」
アシュレイ姉様と俺やガーベラ王女の部屋へ向かう分かれ道で、お姉様から声がかかる。
「今夜の舞踏会は彼女達も楽しみにしています。ですからあなたが心配していた杞憂はありません、皆で今夜を楽しみなさい」
『今夜の舞踏会を楽しみにしている彼女達』……ローザ達の事だ。
先程は話の流れから直接伺えなかったので、俺やローザ達両名の心を読んで考えてくれたんだろう。
「ありがとうございます。私も舞踏会で皆に楽しんで貰えるよう頑張ろう思います」
「ふふ。それは大変そうね」
そのままお姉様と一緒にリズも、俺達とは別れて部屋に戻っていった。
◇
俺達は今ガーベラ王女の部屋の前にいる。
「では、支度が終わりましたら私の部屋を訪ねて下さい。そしてレイランとフルマルンに別の部屋を用意させようと考えておりますが、その場合婆やを部屋に寄越しましょうか?」
レイランの代わりとして婆やにガーベラ王女の着替えを頼もうという話だ。
「いえ、支度は全てレイランに任せますので問題ありません。御気遣いありがとうございます」
「分かりました」
まあ、彼女も着替えを任せるならば慣れた相手がよいのだろう。
そして俺達は互いに部屋に戻った。
自室に帰って来た俺はこの後の事を考える。
ーー俺の着替えは婆やに任せるとしてローザ達には早速着替えて来てもらおう、勿論ミゲルは別の部屋でだ。そして彼女達のドレス姿は俺が一番に見たいので、直接帰還するように命じようーーよし。
「ローザ、サーシャ、メルティももうドレスに着替えてきなさい。ミゲルはローザ達とは違う部屋でだ。そしてそれを終えたらすぐにこの部屋に戻りなさい」
『分かったな?』と問いかけると、4人は頷き了解の旨を伝えて退室した。
部屋に残ったのは俺と婆やだけ。
「では私達も支度を済ませてしまおう」
「はい。」
返事をした後婆やは俺の今夜の正装を取り出して、丁寧に着付けてゆく。
下着の上から白シャツと黒一色のズボンを履いて、シャツの上から黒色の上着を着る。アクセサリーの類を付けようか悩んだけどダンス中に傷付くのも嫌なのでやめておこう。
これで完成だ。
普段着と色合いや着こなし方は同じだけど、比べると着用者からするとどこか特別感が感じられる。
「お似合いでございます」
「そうか」
自らの服装を確認する俺に婆やは感想を話す。
この部屋にない鏡や魔術で確認するのも面倒だし、婆やの評価の受け入れておこう。
「婆やにはもう一つ任せたい事がある。レイランとフルマルンが着替える部屋まで、2人を案内してあげてくれ」
ガーベラ王女の支度が終わったら彼女達が着替える番だ。
「しかしジークエンス様を1人にする訳にはまいりません。彼女達の支度はローザ達が戻って来てからでよいでしょう」
「気にするな。気になるというなら素早く戻って来れば良い」
婆やが退室したらこの部屋には俺一人だけ。そしてその間に支度を終えたガーベラ王女が俺の部屋を訪ねるのだ。
そこまで思考が一致したかは分からないけど、婆やは「はい」と頷くと部屋を出た。
◇
部屋には俺一人。
思えば目醒めてから……転生してから少なかった一人だけの静かな時間。やる事もないので10分間くらいソファーでぼけーと時間経過を待っていた。
すると数人分の足音が通り過ぎるのが聞こえるーー婆やたちだろう。
その後、聞こえる1人分の足音は部屋の前で止まり扉が3回ノックされたーーガーベラ王女だろう。
久々に自ら扉を開くと一歩下がり、俺の視界が彼女の姿を捉えるのを少しでも部屋の中の方でと……、彼女を見据える。
美しい。が第一印象だった。
変わらず赤を基調にしたドレスだが所々に黒や白のアクセントがあり、彼女らしさと大人らしさと明るさを感じる良いデザインのドレスだ。
そう思うのは彼女自身が美しく綺麗で、ドレスデザインが本当に彼女に合っているから。
俺がまじまじと観察していた事に気付いだガーベラ王女。
彼女は顔を俯かせて赤らめていた。
「そちらのドレスも大変似合っております。本当に美しいですガーベラ様」
俺は『俺が初めにかけるべき言葉』をかけて、彼女を部屋に迎えた。
俺の正直な感想に照れている様子のガーベラ王女に微笑みながら、同じ参加者でもあるローザ達の入室を待っている。




