4-5.「ジークエンスとガーベラ王女は明日から」
王城付きの騎士が立っている扉を通り中へ入る。
そこで迎えてくれるのは婚約者であるガーベラ王女とその執事の2人だ。
「お疲れ様ですジークエンス様。今日の予定は終えられたのですね」
「えぇ。今朝の予定は先程終わったばかりです」
彼女の部屋に入りソファーに隣同士になって座る。
部屋には2人とその側近しかいない。
ティーカップに口をつけながら彼女を見ると、どこかガーベラ王女の様子が昨日までと違う。
明日が特別な日だから緊張でもしてるのかな。
「様子がいつもと違いますが、どうかされましたガーベラ様?」
「はい。明日は私もこのジークハイル神仰国で成人式を執り行います。ですから私は明日成人を迎えるのだと、そう思い感じておりました」
重ねた手をドレスに重ねて静かに語るガーベラ王女。
「今の私はまだジークハイル王国民ではありませんが祖国の成人式は知っています。
イルシックス王国にいた時にお兄様やお姉様の成人を祝い、明日のジークエンス様と私の成人式がどれほど重要な日か知っていて思ってしまうのです」
俺は兄様や姉様の成人式を観たことがないけど、ガーベラ王女は兄や姉のその姿を観たことがある。
彼女は純粋に明日の成人式に緊張しているのだろう。
「そうですか」
ジークハイル神仰国とイルシックス王国の成人式の違いはおろか、明日の詳しい話は母様から聞いた話のみ。
『王家の神殿にて成人まで守ってくれたジークハイル神の加護へ感謝』を伝えるという、今日行った交信と似通ったとも言える進行予定だ。重要な事柄なのは間違いないけどそれで俺は緊張はしないな。
だから言葉を繋げる。
「明日の成人式では緊張する必要はありません、大丈夫ですよ。セシリア母様が話された明日の予定は簡単なものでしたから。
私としては明日の成人式も特別な日ですけど、その2日後の貴方との結婚式の方が特別で、緊張しますね」
「あっ。それは私も同じですジークエンス様っ!」
俺の言葉に反射的に答えたガーベラ王女は数瞬後、見合わせていた俺の顔から少しずつ目を離して少し反対側を向いて俯く。
「すみません取り乱しました。ーーしかし私も結婚式を楽しみにしております……わ。」
頬を赤くしながらそのまま思いを話し続けるガーベラ王女。
お嬢様というよりお姫様なんだけど、婚約者がお嬢様口調をこうも恥ずかしがりながらの言葉で使ってくれる。
意図しない一連の流れで不意にそう言われたからか、ガーベラ様が可愛くて仕方ない。
楽しみで待ち遠しくて特別で、思い出すと密かに緊張だってしている結婚式。
結婚相手のガーベラ王女もそう思ってくれて、俺はないて幸せで、彼女はなんていい人なんだろう。
そう心の中で思っていた。
そして少し時間が経つと高まった思いも一旦落ち着いた。
話し声もティーカップがソーサーと触れる音もドレスの布が擦れる音も何もしない、そんなしんとした空気を感じてなんだか俺も気恥ずかしくなる。
「私も楽しみにしています」
なんで今の状況になったんだっけと思い返し、ティーカップの紅茶を啜る。
ーー俺が結婚式の話をしたからか。
「しかし私達も今日で未成年でなくなると思うと、少し感慨深いものがありますね」
「えぇ」
少しでも今の空気感を戻そうと、俺は話題を戻して話を続ける。
成人式の話だ。
でも俺が成人するという事には大きな意味を感じる。何故なら前世でも成人を迎えられず、今世のジークエンスの人生では合計6年の間俺の意識がなかったから。
俺はジークエンスとして15年間生きてきたとは言えないかもしれない、だから明日に何かを感じるのかな。
その後10分程度、少しの会話が続く静かな時間を過ごした俺とガーベラ王女の2人。
新婚生活はこのような雰囲気になるのかなとの考えは、不思議と彼女にも伝わったのかガーベラ王女は再び頬を赤くする。
そしてそのあとまた20分程度の時間が経ち、話していた「イルシックス王国の成人式」の話題が終わったところで立ち上がり部屋を出る。
悪魔の契約に必要な採血を行う為だ。
「また用が終わりましたら部屋へ伺います。今度はあまり長くならないと思いますが、少し待っていて下さい」
「はい。私は部屋でお待ちしていますジークエンス様」
父様の言った通り現在時刻は既に昼を回っており正午を過ぎていた。
それから30分以上ガーベラ王女と話した後。今は話題と空気を切り替えるという理由も含めて、俺はミゲルに案内されて採血に向かう。