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4-1.「崇める神の神前に」

 一瞬前まで夢を見ていたのだろうけど俺は目覚めた。

 不意に冴えた頭に酸素が行き渡り、ここ最近では1.2を争う目覚めの良さだ。


「おはようございます殿下」


「おはよう。」


 目を開けて視界をクリアにすると、ベッド脇の右にローザが左にサーシャが居た。

 彼女らからの朝の挨拶に答えた後に俺は起き上がってベッドから出る、室内には婆やとミゲルも居るようだ。


 体感・窓に差す光・時計の時刻から朝食まで、約30分くらい時間がある事が確認出来る。

 用意された椅子に座った俺は寝間着からいつもと同じ服に着替え、装飾品は手に取ったが身に付けずにソファーに座る。


 朝食まで少し時間があるんだけど、生憎今の俺はやるべき事が無くて暇なのだ。

 なので昨日の朝と同じ、ローザが注いだ紅茶を飲みながら朝食までの時間を潰した。


 朝食の15分前くらいだろうか。

 本当に、今やっておくべき事は無いかと思い返していたら『悪魔との契約』を思い出した。

 2度目の採血を式前には終わらせて送って、この事を結婚式までに頭から消しておきたいと思った。


 そしてそろそろ朝食に向かっても良い時間だろう。

 黒色の上着を着て部屋を出て3つ隣の婚約者、ガーベラ王女の部屋を訪ねる。


「おはようございますガーベラ様。手を取り下さい、早速朝食へ向かいましょう」


「はい分かりました。おはようございますジークエンス様」


 彼女は俺の手を取り、このまま一階の食卓の部屋までエスコートをする。

 俺とガーベラ王女の後ろをローザ達と

 毎朝部屋の前で俺を待っている執事のダン・クランク。メイドのレイランに、中々剣を振るう機会と時間がない騎士のフルマルン・ライトロードが続く。


 食卓の部屋までの道中の話題はここ最近ガーベラ王女のドレスの話が多く、今朝も彼女の衣装を確認する。

ーーこれは、一度見た事のある衣装だ。


「私が今着ているこのドレスは、祖国イルシックス王国より着てきた物なんです」


 王城で俺がガーベラ王女と出逢った前日の夜。城下で馬車ごと盗賊集団に襲われていたところを俺が救けた、その時着ていた服だ。


「あの夜のドレスですね。どうりで私が知っていたはずです、似合っておりますよガーベラ様」


「ありがとうございますジークエンス様。私、式の前日は祖国から持ち込んだドレスを着ようと考えておりましたから、今日はこのドレスを着ています」


 ガーベラ王女が纏う赤を基調にしたドレスは彼女のお気に入りで、最近はセシリア母様と父様から贈られたドレスの中から同じ赤を基調色にしたドレスばかり着ていた。

 赤髪と言えなくもないその黒髪には赤いドレスが良く似合うから、彼女はいつも違和感なく美しい。


 話していると食卓の部屋へ到着した。

 開かれる扉を進み、珍しく1番乗りで席に着いた。


 そして待つこと1分程度。

 いつも1番乗りで俺たちを待っているアシュレイ姉様。いつも俺達と同じくらいの時間に来る妹のリズが、続いて入室して自分の席に座る。


「今朝は貴方達が早かったわね。でもジークは『今日の予定に緊張して早く目覚めた』という訳でもなく、ただ昨日のズレで早く目覚めたのでしょう」


「そうなのですね」


 隠す気はないけど、アシュレイ姉様は俺が『今日ジークハイル神と交信』を行う事も『昨日の朝、早く目覚めた事』も知っている。

 ジークハイル神との交信は経験から。昨日の朝の事は様子から察しただけかもしれないけど、そうでないなら姉様の魔法『神通力の他心通』の効果だ。


 そして、母様が来るまで互いのドレスを話題に話したり。

 俺の服はあまり代わり映えしないけど、王族女性のドレスの数は多くて家族の俺でもその数を把握できていない。


「昨日私とリズで、ガーベラ様が翌朝着るだろうドレスを予測して似たドレスを着ようと話し合っていたのですよ。私達の予測は当たっておりましたね」


 そして偶然なのか姉様は赤を基調に白色の模様があるドレスを。リズは赤の明暗で美しさを表現したドレスを纏っていた。

 いや。アシュレイ姉様とリズの2人が、ガーベラ王女の服を予測して故意に合わせたとと言ったので偶然ではない。


 偶然じゃなくて故意だから、俺が知らないうちに仲良くなっていた3人がなんだか微笑ましい。


 しかしそんな話題もセシリア母様とステイシア母様の入室で、父様を待つ為に区切りが良いところで終わり。

 そしてそのすぐ後に入室した、国王リート・モルガン父様に立ち上がり挨拶する。

 父様が自身専用の席に座ると今朝の朝食が運ばれて来る。



 朝食は、各々が好きな料理を我々の栄養のバランスを考えた形で出される、そんな形式となっている。


 基本1日2食なので朝からお腹が空いてるんだけど、皆それぞれに適度な量の食事をとる。

 俺は丸パンが2つと切り分けられたステーキに、コンソメスープに少量のサラダだ。


 前世ではステーキ肉は白いご飯と一緒に食べていたけど、転生してからはパンとステーキを一緒に食べるようになった。

 違和感がないのは恐らく慣れからだろう。


 そして皆が朝食を終えて、静かに食後のティータイムを楽しんでいる時間。


「ジークエンス、食事を終えたら司祭服を纏い神殿へ向かいなさい」


 一番最後に食事を終えて紅茶を一口含んだ父は、俺に伝える。


「そして今日の食事も美味しかった」


 これは食事終了の言葉だ。この宣言で俺達は起立して父様から順に部屋を出て行くのだ。


「ジークエンスは今日あの日なのね、懐かしいわ。少し気負いしてもいいですから頑張りなさい」

「私からも、頑張って下さいお兄様!」


「ありがとうございますお姉様、リズもありがとう。まだ何をするかしか分かりませんが、私もそう努力します」


 部屋を出るアシュレイ姉様とリズから「頑張って」と応援を貰う。

 『神との交信』は完全に父様頼りだけど、俺がそう努力しないといけない場面は頑張ろう。


「私達も戻りましょう」


「はい」


 ガーベラ王女の手をとった俺は彼女の部屋まで戻って来た。

 そして部屋に戻る俺との別れ際に……


「今日も夕食前までには迎えに行けると思いますので、予定が終了しましたら部屋に伺います」


「分かりましたジークエンス様。……本日ジークエンス様が何をなさるか分かりませんが頑張って下さい。そして、もしよろしければ何をなさっていたのかをお聞かせ下さい」


 姉様とリズに続いて婚約者にも応援された。

 そして結婚した後にもし暇があれば、今日起こる出来事は話すかもしれない。


「分かりました。後日また2人だけの時間にお話ししましょう」


 その後ガーベラ王女の部屋から立ち去った俺は、父から指定された『司祭服』を取りにセシリア母様の部屋まで向かった。



 セシリア母様の部屋の隣には、数日前にセシリア母様と父様から戴いた俺の司祭服やガーベラ王女のドレスがある。

 そこで式本番で着る物とは別の司祭服を一着だけ選んで、ローザに預けて部屋まで戻った。


 父様を待たしてはいけないので部屋に戻ると早速着替えだ。

 先程までの服を抜かされて下着の上から着る、司祭服専用の下着を着てから件の司祭服を纏う。


 黒色が貴重色の物が多くあったのだが、今回は『神との交信』との事なので白を基調色にした物を選んだ。

 肩や首元に描かれた線は赤色のみと、丈が長いこの服はどうあがいても2色コーデになる。



 部屋を出て神殿に向かう俺は、ガーベラ王女の部屋の前で王城付きのメイド達が本日も配置されている事を確認した。


 そして王城にある『王家の神殿』の前。


 部屋の両脇には騎士がおり王子として顔が知られている俺は、それらが無言で空けた道を通過する。

 神殿の中は既に居た国王である父様と、離れた位置から見守る父の側近達だけ。


 父の姿も俺と同じ司祭服であり、それ以外の装飾が全て外された比較的身軽な格好だ。

 そんな神殿の奥にある机の、更に奥に立つ父様に近付いて話を聞く。


「今から私達の精神はジークハイル神の神前へ向かう、分かっていると思うが不敬のないようにしなさい」


 父様がそれだけの説明を終えると突如立っていた場所が白く光り輝き、朝からこのかた途切れた事がなかった意識が途切れた。





 途切れた意識が回復すると、一瞬の浮遊感とその後唐突に感じた床の感触から体勢を崩しそうになる。

 隣には同じく体勢を崩しそうになりながら踏み止まった父様がいるのだが、その向こう側は見えない。


 同じく俺の存在を確認した父は正面を向いて、語る。


「ジークエンス、正面を見上げなさい」


 それに従い正面を見上げた俺は、巨大なソレを目にする。

 俺がこれを見るのは実に2度目だろうか、更に言えばこの場所に来るのはこれで3回目だ。


「ジークハイル神の、神前だ」


 1度目は、ジークエンス・リートとなる前に記憶を失っていながらここに居た。

 2度目は、前世で2度目の死を迎えた後に訪れた。

 今回で3度目となるこの空間への訪問。

 俺の精神の向かった先は神と天使達のいる空間だった。

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