1-15.「ガーベラ王女との出逢い(2)」
ガーベラ王女の手を取りながら、兄に続いて城に戻った。
ある一室にモナーク兄とベルベット王女が入り、俺たちもその部屋に入る様に婆やに促される。
中には、モナーク兄とベルベット王女が対面で座っており。
扉の脇に騎士と執事が数人、部屋の右手には紅茶を用意したメイドと執事と、たくさんの使用人達がいる。
窓の閉められており、明かりも含めたインテリアは、俺の部屋の物並みに豪華だ。
いつも見るメイド服とは『違うメイド服のメイド』もいるが、あれは王女達が連れてきたメイドなのかな?
俺は、ガーベラ王女をベルベット王女の横に促してモナーク兄の横に座る。
「ベルベット王女殿下、ガーベラ王女殿下。私はこの国の第1王子のモナーク・リート。今日は会えて嬉しく思う。ベルベット殿下とは3年前以来ですね」
「はい、久しぶりです殿下。ベルベット・イルシックス。今日を楽しみにしておりました」
兄が起立して自己紹介をすると、ベルベット王女も立ち上がって自己紹介。
お互いに固い名乗りだ。
「ジークもだ」
「はい。第3王子のジークエンス・リート。私も楽しみにしていました」
「ガーベラも、殿下たちに名乗りなさい」
「……ガーベラ・イルシックスともうします」
俺も起立して自己紹介。
全員が名乗り終わると、兄が紅茶をもう1度啜り、立ち上がって言った。
「ベルベット殿下、今日あなたに中庭を見せる約束をしていました。立ち上がって窓のところまで来てくれ」
「3年前に初めて会った時の約束でしたわね」
「あぁ、そうだ」
兄はベルベット王女殿下と『中庭を見せると約束した』って言ってたっけ。
兄が執事に窓の扉を開けさせると、そこから1階の中庭が見えた。
1つの窓に4人は狭いので、俺とガーベラ王女は隣の窓から中庭を見る。
中庭には草花が植えられており、静かに川も流れている。
「ベルベット殿下は、花が好きだと以前聞きました。この国の美しい花々があるこの庭を見れば嬉しいのではと、思っていた」
「私も見たことのない花ばかりです。あの花も、この花も、美しい」
「それはよかった」
ベルベット王女とモナーク兄が談笑している隣の窓で、俺とガーベラ王女も中庭を見ている。
ガーベラ王女も、たくさんの花々を楽しそうに見ていた。
◇
窓を開けると入ってこなかった日光が入る様になり、部屋も明るくなった。
不思議な窓だが、誰も気にしていなかったので放っておいた。
モナーク兄とベルベット王女はさっきから宝石の話を続けている。
「イルシックスは、良い鉱石が多いとよく聞く。エルフやドワーフにまで鉱石を売るくらいだ。そのネックレスもイルシックスの物ですか?」
「ありがとうございます。モナーク殿下も宝石が好きなんですね。手の指輪も、その首飾りも。素晴らしい品と一目で分かりました」
「ええ、我が国の宝石も負けてはいないですから」
兄と王女がお互いの装飾品を褒め合う。
モナーク兄が宝石を付けていたなんて分からなかったが、良い品らしい。
ちなみに俺には、服にそれらしい飾りがついてあるくらいだ。
まあ、重いだろうし今は要らないけど。
この宝石の話は数十分続き、兄の『将来、我が国最高の宝石を渡す』の言葉で話が締まる。
◇
その後も兄は、
『ジークハイルとイルシックスの魔法の違い』やら、
『迷宮都市で功績を挙げた騎士と探索者と、近衛騎士の試合』やら、
『アシュレイ姉と共に開発した新魔法』やらと、俺的にはかなり気になる話を振っているだが、ベルベット王女はその話には食いつかずにすぐに話が終わる。
どの話も、興味が湧く面白そうな話だったので間接的にでも聞いてみたかった。
また今度、聞いてみることにしよう。
俺は、ガーベラ王女と何か話をしたかった。だが、ガーベラ王女も同い年の3歳児。
兄の話に乗ろうにもその話は続かず、
この世界の知識がない俺には話す話題がないし、そもそも俺もガーベラ王女も3歳相応。
当たり前だが、特に何も話せなかった。
それから結局なにも話は始まらず、部屋にいたメイドから時間終了の合図が入る。
「では、今日はここまでということで」
「は、はい。今日は楽しかったです!」
「そうですか? それならよかった」
城の外で王と話していたオリンポス公爵と、城から出てきた王女たちと、そこでまた別れの挨拶をした。
モナーク兄はベルベット王女と会ったのは3年ぶりみたいだったから、俺もまた彼女とまた会うのは、そのくらい先の話なのかな。
「では、次にまあ会える時を、楽しみにしております」
「また、数年後になるかもしれないがな」
「私もです」
「私も、楽しみにしております」
モナーク兄とベルベット王女の言葉を真似して、ガーベラ王女と別れた。
◇
王女たちが乗った馬車が城から離れていく。
それを見ながら、モナーク兄が、俺に話しかけてきた。
モナーク兄から、『なぜ話が続かなかったか分からない』だそうだ。
それは俺も同感だった。