3-64.「ジークハイル神仰国、建国記」
父は正面に木箱を置いた。あれは先程本棚から取り出し、その説明が後回しされていた木箱だ。
父は何処からともなく金色の鍵を取り出して右手に持ち、その手を木箱にかざすと表面には鍵穴とそれに繋がった鎖の跡が現れた。
鍵を鍵穴に通し、左に90度回転させれば鍵と鎖は外れてシャラシャラと音が鳴る。
魔術や魔法なら俺が一目見た段階で分かっているはずだ。ならあの木箱には王権が付与されているのか?
魔術や魔法がかけられていない木箱の守りは相当軽く、重要な物など入っていない考えていたから中身には期待していなかったが、王権が付与されているとは相当貴重な物が納められているはずだ。
取手はビー玉の半分くらいの大きさがある。
父はその取手を摘んで木箱の蓋を持ち上げて、中に収められている比較的新しい一冊の本を取り出した。
「我が王国の建国記を話そう」
父はおもむろに本を開き最初のページから読み始めている。
この本は建国記と言うには紙質が新しすぎるから、恐らく建国当時の本ではないだろう。
更に後年に書かれた原本でなくコピーの可能性もある。
「この本が気になるか? この建国当時の詳細が記された複製本の事が。」
「複製本ですか」
『建国当時』の貴重な本がこんなに質良く、俺の目の前にある事はあり得ないから複製本というのは理解出来た。
原本、この本のオリジナルが何処にあるか知らないが複製本ですら権能の一端を用いて保存しているとは……
これは今からはかなり重大な話が語られそうだ、気を引き締めておかないと。
◇
俺から再度本に目を落とした父は2.3ページ辺りを3分程度の時間をかけて黙読して、本の内容を話し始める。
「建国の王であるモナーク・フラムガル王はジークハイル神と共にジークハイル神仰国を起こした時代。
その時代は未だ国家と呼べる国は少なく、人々は小さな村や町を作って他の村の人間や魔物、他種属などと戦いながら暮らしていた。今から話すのはそれ程昔の話だ」
「分かりました」
俺が今まで読んで来た中には我が国建国当時の詳しい資料が殆どなく、それは数百下手したら千年を以上昔の話だ。
だからこの国の歴史の説明は楽しみだ。
俺は新しいページをめくり再び黙読を始めた父の説明を待った。