3-55.「家名と領地の名前」
数秒の沈黙の後父は話し出す。
「まずは領地の、お前が治める領土の話をしよう」
広げられた1枚の紙は、ジークハイル神仰国及びその周辺国が記された地図だ。
俺も何度も未来の領地『アテン・ザ・ミステル』の資料に目を通しているから、位置はほとんど覚えている。
我がジークハイル神仰国を中心に、南方にはガーベラ王女の出身国であるイルシックス王国があり。
北東方向には俺やアシュレイ姉様が使用する『刀』の作製が行われているセルバータ王国があり。
後地図には書かれていないが、大海を渡った向こうには昨日のオークションでも話題になった東方のラグスティス王国やセキ・セイル神帝国などが存在する。
そして『アテン・ザ・ミステル』を超えた更に奥には魔界が。
俺が寝ていた3年間の間に遠征も行われた魔界が、領土を少しも変えずに残っている。
「王都より西側に位置する我が国で3番目の広さを有する領地、そこがお前が治める領土となる」
先代の王の時代に起きた魔人騒動で、魔界から王都までの領土は一直線で荒らされた。
そして国王が父に変わった後色々あって、当時の『アテン・ザ・ミステル』に荒らされた領土がくっ付いて今のアテン・ザ・ミステルの広さになったと資料で読んだ事がある。
その資料を読めば当時のアテン・ザ・ミステルは既に迷宮都市を要する重要領地だったらしい。
「今は暫定的に『アテン・ザ・ミステル』と呼ばれているが今後の正式名にはお前の家名を入れる。お前の決めた家名を言いなさい、爵位は侯爵だ」
「フラムガルルーツです」
考えて考えた結果『家名に特別な意味はなくていい、ただそれに愛着が湧くならばそれでいい』の家名の定義で決めた名前だ。
「フラムガル? フラムガル王の名前から戴いたのか。
ーー良いだろう、ルーツは何を指す言葉かは知らないが良い名前だ。お前は成人したその時より『ジークエンス・リート=フラムガルルーツ』となる」
「分かりました」
意図して建国の王の名前からとった訳ではないが、俺が考えた家名『フラムガルルーツ』は認可された。
考えればこの家名に危険性が無いこともないが、父は子供に甘い。
いざとなれば王権の使用でどうとでもなる程度の事は、気にしないだけかも知らないが。というかこの国において王権は万能過ぎるなあ。
という事で3日後の成人式より、俺の名前が『ジークエンス・リート=フラムガルルーツ』となり、侯爵の爵位を戴く事も確定した。