1-13.「許嫁が来る前に」
あの後、ハルト兄が来てすぐに食事を始めた。
今はみんな食べ終わり、紅茶を飲んでいる頃だ。
ちなみに出てきたメニューは昨日と同じ。変わりばえのない。
「モナークとジークは、姫さま達が来る前にお体を洗ってきたらどう?」
「私はもう入ってますよ。ジークだけで行ってきたらどうだ?」
「モナークは準備万端ね。さっきの姫の話も、聞けて良かったわ」
昨日は、疲れからかそのままベットで寝てしまった。
何があって何がないのか、俺にはまだよく分からないのが、体を洗い流せる風呂があってよかったよ。
モナーク兄は準備万端だった。
「いいかジーク。エマの婆やにも言っているが、時間になったら外に出て来い。門の前で陛下と一緒に王女殿下たちを待つ予定だ」
「はい」
そんな訳で、体を洗ってからモナーク兄と一緒に、城の門で姫2人を待つことになった。
「アシュレイもハルトも、勿論門の前ね。2人が城に入るまででいいから」
「はい。母上もですか?」
「えぇ。でも、今日はその後やる事がなくて暇でしょう? 今日2人の剣技と魔法を見せてもらう事にするわ」
「「分かりました!」」
姉も兄も、母に見てもらいたかったのか、返事の威勢がいい。
俺も2人の剣技と魔法は見てみたいから、またお願いして見せてもらおう。
「美味しかったわ」
母の食事終了の言葉で、俺たちは部屋を出て部屋に戻る。
◇
「では殿下、あまり時間もありませんし体を洗いに行きましょう」
部屋の前まで戻ってきて早速、婆やがそう言った。
そして早速、婆やと一緒にお風呂に向かう。部屋まで来た道とは反対方向を進み、階段を降りる。
あれ? 一階にあるなら食卓の部屋から直接向かえばよかったじゃないか。
まあ、道が覚えられてよかったよ。
◇
浴室の扉の前で、メイドと執事に服を脱がされる。
「入りましょう、殿下」
そう言った婆やと、一緒に風呂に入る。
婆やはメイド服を脱いでおり、黒の柄のない服を着ている状態だ。
入ったのは4人で、俺と婆やとメイド服を着たままのメイドと、執事。
メイドと執事は、扉の前で起立したまま何もしない。
婆やが、俺の体を洗う。
まあ、子供の体は小さいので体を洗うのも、すぐ終わる。
洗うと言っても、上部から降ってくる水で流しながら婆やが手で優しく洗う。だけ。
そして『下に水を出している機械』が見た目シャワーだ。
長方形に開けられた、小さな穴から水が出でくる。
「終わりましたよ」
全身くまなく洗ってもらった。
婆やは慣れているらしく、全然痛くなかった。
俺のような子供の肌は、柔らかくて、すべすべ敏感肌だから、婆やの洗い方が上手いんだろう。
子供用の用意されている小さい風呂に、婆やにお姫様抱っこで入れてもらう。
ぬるま湯くらいの暖かさだけど、久しぶりだったのか気持ちがいい。
あ俺が入っているのは、幼児でも足がつく子供用だけど、浴室にはこれの何倍も大きい風呂がある。
こんなに大きいのは沸かすのが大変だろう。
でも、シャワーもあったけど何で動くんだろう。手動か、それとも何か便利な魔法なのか。
魔法がよく分からないから、なんでも便利に魔法で解決できるのか気になる。
「なあ、アレなに?」
「アレは、シャワーです。何代も前の王配様が作られた品の一部とされています。かなり凄い魔法の道具ですね」
「王配って?」
「女王陛下の旦那さまのことですね」
シャワーだった。
それを、昔の女王の旦那さんが作ったのか。
便利な道具だな。
◇
「では、上がりましょうか」
肌が柔らかいからか、子供の肌はすぐにふやける。
そして婆やに風呂から出してもらった。
扉の前にいたメイドが大きなタオルで俺の体を拭いていく。
ちなみに、扉の前は全然暖かくない。
これも魔法の品か、メリアスが使っていた様な魔法な気がする。
風呂を上がり、またメイドに服を着せられる。
さっきと同じ服だが、綺麗で真新しい。
新しい服を用意した様だ。
◇
風呂から上がった後、部屋の椅子に座って時間が経つのを待っていると、執事から『城の門の前まで来る様に』伝えられた。
2階から、中庭と反対方向に進み、照明が不必要な朝が明るい廊下を抜ける。
すると、横にも縦にも広い階段が中央にあり、今までで1番綺麗な飾りがされている玄関広間に出た。
階段の途中には踊り場があり、階段を降りた広間には沢山の執事とメイドがいる。
そして、大人数人分サイズの扉が開かれる。
外には、王である父とモナーク兄。 そして沢山の商人たちが立っていた。
モナーク兄の近くには、小さなくらいのメイド、執事、剣を下げた子がいた。
大人ばかりだと萎縮するからか、専属の部下か。
俺も将来できるのかな。それなら欲しいな。
ちなみに階段は、怖かったので婆やの手を取った。
身長が低くて下が見えないから怖いんだ。しょうがないよね。
玄関前の白い階段をおり、婆やと一緒に王とモナーク兄の元に向かう。
俺の許嫁か。
兄も会うのを楽しみにしていたけど、
俺も、出逢うのが楽しみだ。