表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/343

3-47.「今日を、素晴らしい思い出にする為に」

 さっきからステージでは宝石のオークションが行われ、もうすぐでリズの欲しいと言っていた『漆黒の月』の競りが始まる。作品名は異端だが、その抽象的な名に合う宝石だ。


 隣で名残惜しそうにしているリズを見れば、残金がなくなって買ってやれないのが悔まれる。



「リズ、ガーベラ様。金貨なら後でいくらでも用意できますし、貴方達の欲しがっていた宝石も手に入れましょう。ーー金貨は後程届けさせよう」



 即支払いは出来ない事を部屋付きのメイドに話せば、体を強張らせたメイドは頷き「はい」と答えた。

 まあ、俺の威圧感が込められた言葉にメイドが屈しただけ。


 このまま帰ればこのオークションでリズとガーベラ王女は『俺とアシュレイ姉様の買い物に付き合っただけで、欲しかった宝石は金欠で買えない』だ。

 階下に見える(推定)参加者の奥さんのように黙って夫に付き添うのは淑女らしいと思うけど、それ関係なく、2人には俺と初めてのオークションで悪い印象を持って欲しくない。



「ジークエンス様よろしいのですか?」


「お兄様?」


「構いませんよ。メイドもああ言っていますし、貴方達には私から宝石を贈りたいですから」



 生まれてから今まであまり金貨に触れてこなかった俺だが、俺の身分からして必要な金貨くらい準備可能。

 無理だったとしても領主になれば稼げるだろうから、ない金をアテにしてもいいよね。

 そんな事を考えていると、件の『漆黒の月』のオークションが始まろうとしていた。





 さっきまで俺の威圧に晒されていた『1』番のフラッグを受け取った俺。

 アシュレイ姉様も、この俺の一瞬の行動は読んでいなかったらしく驚いている。



「続いてはマリク・パディロッサ卿が製作いたしました『漆黒の月』。金貨200枚から始めさせていただきたます。

ーー『1』番の御方は価格をお願いします」


「金貨300枚だ」



 金に余裕ができた俺は初っ端から母様の予想金貨を提示。

 この時点でこの部屋から確認できる参加者は2組。実際には一周する間の俺を含めた参加者は4組と過疎ってるが、価格は金貨360枚まで増えた。

 そして再び「『1』番の御方は価格をお願いします」と促される。



「金貨400枚」


「ーー金貨400枚以上を提示する方はおられないようなので『1』番の御方の落札となります。おめでとうございます」



 落札が決定すると会場の不特定多数から拍手が送られ、耳に配慮した適度な音量の拍手がメイド達からも贈られる。



「リズ。あの宝石は私からお前に贈ろう」


「あ、ありがとうございます。お兄様!」



 他の参加者は1つ前の食材のオークションで散財している事と、俺がアテにしている王家の財には勝てないからだろう。特にドキドキ感やドラマがある訳でもなく購入できた。

 そして……



「金貨400枚だ」


「金貨400枚以上の金額を提示される方はおられないようですので、『ストロベリーチャーチ』は1番の御方の落札となります」



 ガーベラ王女の選ぶ『ストロベリーチャーチ』を金貨400枚で購入した。

 しかしそれではリズとガーベラ王女が選んだ宝石の値段が金貨400枚なのに対し、アシュレイ姉様の選んだ宝石だけが金貨220枚。そんな金額差も頭によぎったが、姉様にだけ俺からプレゼントを買っていない。

 姉様にも、俺から宝石を買ってプレゼントしたいと思った俺は直接その思いを伝える。



「姉様にも私から宝石を貰って戴きたいのですが、先程の『スターライン』とは別に何か欲しい宝石はありませんか?」


「あら、ジークは私にも買ってくれるのね?」



 しかし何か案じている風な姉様、100%その心配は金銭面だろう。

 淡々とした作業で母様達が用意してくれた聖金貨を超える程散財してたらそりゃ、心配になって当然だろう。

 しかし先程の階下の貴族の散財っぷりから、王家の財産と領地で俺が手にする金貨を想定して思考停止ならぬ葛藤停止を決めている俺だ。後々どうにでもなる金の心配よりも、今日のオークションが納得がいく良い思い出になる方が大事なのだ。


 あまり知られたくないこの考えを、姉様は『神通力の他心通』を使ったのか察してくれた。

 そして幾つかオークションが流れた後、白と黒の2色配色の宝石『ユニゾン』が金貨200枚から紹介される。



「そうね……ならアレを買ってくれる? スターラインの宝石と同じくらい綺麗だと思っていたの」


「分かりました」



 部屋付きのメイドからフラッグを受け取った俺は先と同じように、会場とネクローマルに金貨300枚を宣言する。

 一周する間に値段は金貨355枚まで値上がり参加人数は俺を含めて5組だ。配色が2色だし、これはちょっとした注目商品なのだろう。



「金貨400枚」


「ーー金貨400枚以上を提示される方はおられないようですので、この宝石『ユニゾン』は1番の御方が落札されました」



 2色配色で御高くなっていると思っていたのだが、結局同じ400枚で落札出来てしまった。他参加者が察して譲ってくれたのだろう。

 これはもう今日のラッキーナンバーは400枚だな。



「ありがとうねジーク。貴方の気持ちが嬉しいです」


「ありがとうございます。ーーではアレらの宝石が私の手元に届きましたら、私が自ら直接贈らせていただきます」



 最早初期金額の倍以上の買い物をしてしまった俺。今日のオークションだけで金貨2200枚使ってしまった。しかも、散財中に思い出した『その聖金貨を大事に使いなさい』という母様達の言葉も破ってる。

 ーーしかし今はリズにガーベラ王女にアシュレイ姉様。特にリズが凄く喜んでくれているのが俺は凄く嬉しい。だから今考えるのはいいや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ