3-41.「参加できない。3日目の注目商品」
この部屋に並べられている商品は本来オークション3日目である明日に競売される品。
なのだが、王族である俺に対する特別措置なのか今日先行して売ってくれるらしい。
「値段は気にしなくて構いませんから、気に入った物があれば私に教えて下さい。金貨なら容易に工面できますので」
軍資金の金貨千枚分は本日ぽんっと、母様から渡されたものだったがそれも残り金貨220枚。残金を考えれば並べられている絵画や剣盾、何かの死骸だろう太い骨や本が数冊。どれも買う事はできないだろう。
それはアシュレイ姉様やリズ。ガーベラ王女だって察している事だけど、金の心配をして買い物なんてして欲しくないので声をかけた。
そもそもこの買い物はどうせ城での後払いだろうし、もし軍資金をオーバーしてしまったら支払いまでに工面して貰えばいい。
ちなみにアシュレイ姉様は本気で吟味する態度から、元より金の心配なんてしていない様子だ。
俺がガーベラ王女とリズに『金の心配はしなくても良いよ』と伝えれば、待っていましたマグヌスが早速説明を始める。
「こちらは『アテン・ザ・ミステル』の迷宮都市の迷宮より探索者が発掘致しました品でございます。
こちらの絵画に剣と盾、迷宮竜やヘルビーゴーストの骨など芸術性の高い品から魔剣や魔道具の素材など3日目の注目商品となります」
イメージ的に迷宮は完全屋外と思うのだけど何故か今回の様に絵画や、噂によると茶器や椅子など屋内で使用する家具があるらしい。
そしてこの絵は『岩場に挟まれ、奥が灯りで照らされる洞窟』が描かれている。
更に実用性度返しの剣と盾。
持ち手と刀身がクネクネと折れ曲がっているこの剣は鞘に収められないから不便。ドラゴンが正面から描かれた盾もクネクネの剣と同じ漆黒色で、セット商品及び観賞用の飾りと分かる。
「絵画の製作者の名前は色褪せており確認は不可能でしたが、発掘された時点での状態の良さや芸術的な観点から考えますと、あまり古い物ではないのではないと考えております」
「その剣と盾も同じ場所から見つかったのか?」
「はい。更に同じ場所にティーカップにソーサー、そして首輪や鞭などが置かれていた様で、全て状態は良いままだったとの事です」
耳打ちで追加説明するマグヌス。
拷問道具をリズ達の耳に届けさせない配慮だろう。
しかし迷宮内の暗がりの中。そこにポツンと、洞窟が描かれた絵が置いてある光景は趣があって面白そう。
迷宮で物が発掘される場合それは複数個。と、俺は小説と資料の情報で知っている。
まあ拷問道具と同じ場所に置かれていた物なんて、縁起が悪いくて買い気なくなったけどさ。
更にそれぞれ迷宮竜とヘルビーゴーストの骨で、頭と腕の部分の骨格を再現している品。
迷宮竜は読んで字の如く、迷宮に住む竜種のこと。
しかし見た目が『ドラゴン』というより『図体のデカいトカゲ』寄り。だがしかしこの迷宮竜は、迷宮という狭い地下閉鎖空間の中で王者的な位置付けとされる生き物だ。
俺は戦った事はないので小説や資料の情報だが超強い(らしい)。前準備がなけりゃ精鋭ベテランパーティが半壊してしまう程度の強さ(らしい)。
ヘルビーゴースト。
又の名を骨幽霊。骨付き幽霊などと呼ばれる迷宮に出没するお化け。『倒されると、体躯に合った骨をドロップする』生態が前世にもあったゲームみたなお化け。
そんな愉快な特徴とは裏腹に、変幻自在に形を変えて浮遊し、骨以外には物理ダメージが通りにくいと対策必死のノットネタキャラとはこのお化けのこと。
迷宮を舞台にした小説でも多く登場して激闘を演出し、倒された後もその骨が剣、鎧、弓などに作り変えられるモンスター。
そして実際『骨が曲がり易く折れにくい』ので加工が簡単。『骨以外残さない』ので回収時間が短いという特徴から、強敵ながら探索者の武器の素材と舐められているモンスター。
「この迷宮竜とヘルビーゴーストの骨は、『アテン・ザ ・ミステル』で活動していますパーティ名『サーヴァク』が討伐した品となります。
ちょうど40日前に迷宮竜の骨が、10日前にヘルビーゴーストの骨が王都に届きました」
その『サーヴァク』ってなパーティが何人組か知らないけど、とにかく探索者として強いのだろう。
『サーヴァク』は記憶の片隅に留めとくとして、王都に居ては滅多に巡り会えない素材に中々心が躍る。武器作成&実験の為に買ってもいいかもしれない。
隣のアシュレイ姉様も骨の立体標本をよく観察している。
総評。
絵画及び剣&盾だけど、どちらも俺の趣味に合わないので今回はスルー。飾りの剣&盾はコレクションしても……と、一瞬思ったけど飾る未来が見えないのでやめた。
そして迷宮竜とヘルビーゴーストの骨だけど、両方とも買おうと思う。
『アテン・ザ・ミステル』は俺の領地だし、迷宮産の骨なら迷宮都市で時間をかければ、自力で手に入るだろう。
しかし俺には時間はないし、面倒だし、そもそも遭遇するかも分からないし買っちゃおう。
ヘルビーゴーストの骨から俺に。目線を移したアシュレイ姉様とも頷き合い、今日購入する商品を2つ決めた。