1-11.「1日目の終わり」
食卓の部屋の扉が開かれて、俺ら子供たちは椅子に座る。
「でも良かったわね。私たちは成人するまで、貰えないかと思ってたわ」
「でも兄さまが王権を使っているところを見たことがないですね」
朝食と同じ席にそれぞれ座り、さっき与えられた王権の話をしている。
「ああ。誰も、私の言うことに反対しないからな。使う機会がないんだ」
「あ……私もそうですわ」
「まあ、どっちにしろ成人まで使う機会はそう無いだろうさ」
モナーク兄がそう言い、この話は終わる。
◇
部屋にいた使用人が扉を開け、父と母が入ってくる。
母はさっきと同じドレス姿なのだが、父は上着を脱いで、さっきいた神殿よりも軽い格好になっている。
2人が椅子に座る。
ちなみに場所は、父が長い食卓の一番奥で、父から見た左側にモナーク兄、ハルト兄、自分。右側に母、アシュレイ姉となっている。
そういえば父は、セシリアとステイシアって2人の名前を出していた。
モナーク兄よりも立場が上な人物。恐らく母だろうけど、2人目の母親には会ったことがない。母親じゃなくて兄弟とかなのかな?
朝と同じように執事が、皆の前に食事を運ぶ。夜ご飯はステーキにスープ、パンと全員が同じ食事だ。
「それでは頂こうか」
父がそう言い、皆が食事をとり始める。
朝と同じで俺の食事は、他の兄弟よりも量が少なめだ。まあ全部食べ切れる気はしないが。
「ジーク、ステーキの食べ方はわかるか?」
「フォークで抑えながら、そのナイフで切るのよ。ジークのは薄いから切りやすいわよ」
兄と姉の通りにステーキを切り、食べてみる。
まあ、すごく美味しい。何の肉で、何のタレでなんて分からないけど、やはり一流の料理人が作ったんだろう。さっき分かった自分の地位と、コレの美味しいからそう判断する。
スープはコーンスープだった。スプーン1つで食べるには少ない量だけどお腹はいっぱいだ。
ちなみに、ハルト兄は1口しか食べていない。このスープは嫌いなんだろう。
ついでにパンも美味しかった。
「美味しかった」
父が食器を置き、そう言った。
父の言葉に反応して執事が食器を片付けだす。
食事終了の合図みたいだ。
◇
食器が片付けられ、皆紅茶を飲みながら寛いでいる。
「モナーク、ジークエンス。明日、お前達に来客の予定だ」
「はい。覚えています」
「イルシックス王国の王女達が来る。私も話がある、お前達は王女と話をしておけ」
メリアスが言っていた『明日来る予定の客』って、他国の王女の話だったのか。
てっきり、新しい先生とか、偉い役職の人かと思ってたよ。
「2人は同い年のお前達の許嫁だ。仲良くしているんだぞ」
ま、まさかの許嫁。この歳でいるだなんて。
ということで明日、許嫁と出逢うことになった。
◇
明日の予定を話した後、父親は立ち上がる。
同じように椅子を引かれ全員が立ち上がり、部屋を出る。
「私は仕事をしてから戻る」
「はい。ステイシアさんの所にも、顔を見せに行かれるのですか?」
「そのつもりだが」
父は、部屋に戻る皆と別れて歩いて行った。
ステイシアさんは誰か分からないが、母はセシリアと言う名前なのだろう。父と話した後の母は少し嬉しそうだった。
◇
部屋に戻ると疲れていたのか、急に頭がふらふらしてきた。幼児の頭で色々考えすぎたのかな。それとも初めての環境だからか。
もう今日はそのまま布団で寝よう。
そう、ふらふらしながらベッドに向かう俺の手を、誰かが取る。
「大丈夫ですか、殿下!」
「ん、つかれた……」
手を取ったのは婆やだった。後ろからついて部屋に入った婆やが俺の手を取ったのか。
「そうでしたか。初日でしたからね。ですがまずは寝間着に着替えていただかないと」
着替えると言っても、着替えを行うのはメイドたちだけだ。入って来たメイドが俺の服を脱がせて寝間着に着替えさせる。
着替えが完了した俺を婆やがベッドに上げて、布団をかける。
「おやすみなさいませ」
着替えをさせたメイドは部屋から出ていき、婆やはベットの傍らに置かれた椅子に座りながら、……明かりは消えた。