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3.16.「なぜ好意的なのでしょう?」

※この話ははジークエンス視点ではありません。 

 ガーベラ視点です。

 就寝前のベッドの上。

 私とメイドのレイランと騎士のフルマルンの3人はネグリジェを着て、一緒に話をしています。


 イルシックス王城を出て早30日程。

 夜は両王家から用意された屋敷で眠り、天気の良い昼は貸し与えられた馬車で次の中継地点の屋敷まで進みを繰り返し、2日前の夜。隣国のジークハイル神仰国の王城に到着しました。



「ねえレイラン。ジークエンス様はなんで、こうも私に好意的なのでしょう?」



 その翌朝、私は許嫁のジークエンス様と再会しました。

 ジークエンス様に合わせて私も11年前の出逢いを憶えていると言いましたけど、私は微かに憶えている程度。


 横暴でなく我儘でもない。成長した今言葉で表せば紳士的。

 あの頃は互いに3歳の幼い子供だったけど、私を気遣う余裕のある。そんな幼いのに大人びた人だった。

 そしてこの人と私は結婚すると聞いて、今まで嫌と思わなかったくらい嬉しかった。


 それでも3歳の頃の、ほとんどが思い出せない抽象的な記憶。

 ですがジークエンス様の態度は穏やかで柔らかくて、私の記憶通りの人でした。

 私の手を取ってエスコートしたり、自ら王城の案内を始めたりと、本当に大国の王子なの? と思ってしまう人でもありましたが。



「……ガーベラ様のことが好きなのでは? そうでないとしたら、婚約者を無下にする方ではないとしか」



 ジークエンス様は良い方です。私の理想の婚約者です。

 でも、だからこそ他の女性も選べる筈なのになんで、急に現れた私に好意的なのでしょう?

 私達を結ぶのは、国の決めた政略結婚なのに。


 心ときめく事を考えているはずなのに私の心は冷静で、静かで、まるで結婚に何も感じていないかのようです。



「以前この国に来た時にもジークエンス様はは紳士的でした。でもあの方の周りは女性ばかりなのに、つい最近会った私に優しくする理由はないでしょう?」


「……」


「ジークエンス様は、私の事が好きなのかしらね?」


「ジークエンス殿下はガーベラ様の事を、かなり好意的に思われていますよ」



 今の気持ちを言葉にしようとしても全然まとまらない感覚。

 でも流石は私のメイド。幼い頃からずっと一緒にいるから、レイランは私よりも私の事をを分かっている。



「そしてガーベラ様も、ジークエンス殿下の事が好きなのではないですか?」


「えぇ、私はずっと好きでしたよ」



 私は好きでした。

 再会も結婚も怖かったけど、待ち遠しい思いだってありますから。



「その想いは恋です。10年以上想い続けてきた方が記憶通りの方で素敵だと思った。

 好きなんです。ガーベラ様が意識していて言葉にできない想いは『好き』です」


「あまり『好き』と言わないで。私はジークエンス様を好きだと自覚していますからーー」


「ーーいえ言わせて頂きます! フルマルンに勝ったジークエンス殿下の強さに感動する前に、一緒に会話を楽しんでその博識さを知る前に。ガーベラ様は11年間も想い続けたのですから、好きに決まっています!

 そしてジークエンス殿下は素晴らしい方ですから、幸せになって欲しいと優しい殿下なら考えると思います。ですが周りの女性や両国のことを考えず、二人だけの恋にして欲しいのです!」



 レイランはいつもはこんなに喋らないんだけど、今日は珍しく言葉をたくし上げる。

 好きなら他は何も考えず、ただ結婚式を待てばいいというレイランの考え方。


 でも違います。私はあの方が好意的な理由が知りたい。

 ジークエンス様も11年前に少し会っただけの私に、婚約者の私に好意的な理由が知りたいのです。



「っててッ、痛い!」


「レイランは少し黙りなさい。ーー殿下、私も一つ意見宜しいでしょうか?」


「えぇ、構いませんよ」



 私の騎士フルマルンが、珍しく長く喋っていたレイランの頭をトンっと叩いて話を止める。


 フルマルンは今日の試合で、ジークエンス様に大敗したばかりだ。

 元々彼女は女騎士の中でも成長が期待される子を選んだけど、先の試合でフルマルンが手の内に隠した技は無い。私の知る限りでは全力だった。


 でもその実力差は一昨晩の時点で分かっていたらしく、負けに落ち込んでいるというより早く強くなりたい。今後の特訓が楽しみでウズウズしている様子。



「私の許嫁は幼馴染の騎士見習いと、殿下方とは身分が違い過ぎますので参考になるか分かりませんが、似た感覚を味わった私の体験談です」


「聞かせてちょうだい」


「はい。ーー幼い頃からいつも一緒に遊んでいる。私達は10歳まではそんな関係でしたが、ある日一緒に呼び出されて許嫁になったと聞かされました。

 その頃から、私は彼の考えている事が気になり始めました。それまではどうでもよかった事でまともに試合も出来ない日々。どうにかして治したかった私はお母様に教えて貰いましたが、それでも解決法を得られなかった私は直接彼に聞いてみる事にしました」



 白い肌を赤く染め、鋭い目を閉じながら微笑む。

 そして語る話も今日初めて聞いたものだ。

 いつもキリッと真面目なフルマルンの、ここまで乙女な姿は初めて見た。


 彼女の話の途中だが、多分同じ感想のレイランは乙女な体験談に口が開いたまま塞がらないみたい。

 レイランはこの3人のうち1人だけ決まった人がいないから、同い年の可愛い話に驚いたのだろう。



「この答えに彼は、私に気持ちを……伝えてくれました。これが私の体験談ですが、ガーベラ様もジークエンス殿下の気持ちを知りた思うならば、直接聞いてみてはいかがでしょうか?」


「……え、はい。そうですね。良い考えかもしれませんね」



 頬の赤色を残し、潤んだ目を少し腫らし、自然な笑みを残して話し終えた。


 フルマルンの話は可愛い体験談だったけど、私には真似できない。

 彼女が思い出しただけで顔をああも赤くしているし、凄く恥ずかしそうだから。



「いえ、私の身はガーベラ様に捧げておりますので可能性があればジークエンス様……いえ、主人と同じ人の嫁にはなれません」


「独り言が聞こえているわよレイラン。それにジークエンス様に迫るのは本当にやめなさいよ」


「わ、分かっていますよフルマルン!」



 元々私とジークエンス様の思いの話でしたけど、レイランとフルマルンに相談すると解決しなくても面白い。

 2人に話してよかったです。



「そうですガーベラ様! ベルベット殿下は結婚式を挙げた後、モナーク殿下と共にイルシックス王国に戻って来ました。

 ですがガーベラ様の場合は先にモナーク殿下の領地に向かわれますから、その時にベルベット殿下に聞いてみてはいかがでしょうか?」


「お姉様にですか。……少し遅い気もしますが、その日までに答えが出なかったら聞いてみましょう」


「分かりました」



 最後にレイランからの提案。

 結婚式までには気持ちを知りたいから、ベル姉様には結婚の事後報告だけになるだろう。





 本来は『女主人とその使用人2人』である筈だが、その様子は仲の良い女友達のようにも思える。

 同室にて静かに資料を整理する執事のダンも、背後で聞こえる談笑に微笑む。


 ベッドの上でネグリジェを着て、就寝前の女子3人の会話はまだ少し続いた。

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