今朝の出来事
あいつが死んで
生活の端々にあいつがいることに気づく
冷蔵庫にケーキ
転がるおもちゃ
床に散らばる茶色い毛
着てる服にもついている
部屋は匂いでいっぱいで
アルバムのあちこちに色んな寝顔
帰れば和室をまず探し
畳に粗相の跡を見る
父は仕事に行った
赤くなった目をこすり
深くため息をついていた
兄もその後に続いた
いつもみたいに無愛想で
頭を撫でて出ていった
母はご飯をつくっている
おかずが一品減ったと笑い
寒そうに体をさすっている
いま
隣にあいつがいる
いつもの毛布にくるまって
いつもの姿勢で目を閉じて
だけどそこにいないのがわかる
これは入れ物だったんだと
中のどこにもいないんだと
触れる度に痛くなる
あすには身体も残らない
横で泣くことすら叶わない
何をするわけでもないけど
ただただぼうっと眺めてる
あいつは家が好きだった
旅行に行っても入院しても
いつも帰りたがっていた
あいつは母が好きだった
毎日外を散歩して
家に二人でお留守番
あいつはご飯が好きだった
ふりかけかけたレトルトも
薬をごまかす甘いお菓子も
僕はどうだったんだろう
いつもべたべた触れてくる
生意気でうっとうしい
そんな弟分だったのだろうか
ああしつこいといいたげに
もう顔を背けてもくれない
ふと友人のLINEに気づく
誕生祝いにあげた酒
気もそぞろに祝いつつ
結局打ち明けられなかった
僕は向こうに戻れるのだろうか