第9話 作戦会議
翌日、お兄様の隣にいたのは岩のようにゴツい男だった――。
「確かに強そうよ!体格も良いし、腕もいいってロッカルも言っていたわ!!ご挨拶したときもとても礼儀正しくて、良い方だった。でもね!!違うでしょ!?乙女ゲームの王子様の隣には美麗な騎士様でしょ!?これは由々しき事態よ!!!」
私は両手でテーブルをダン!!と叩いてガーネットを睨み見た。
ガーネットも怖い顔で大きく頷くと
「大問題よ!!美麗な騎士様が出てこない乙女ゲームなんて乙女ゲームではないわ!!ユハルテットとカルロスの主従関係は尊いのよ!!」
「その通り!!そこで、私考えたの!カルロスが元通りガーネットの事を好きになれば問題はないわけよ。」
「そ、そうなのかしら?」
ガーネットは少し頬を染めた。
「ええ。だから毒味係イベントをやりましょう!!」
毒味係イベントそれは――
ガーネットの事が気になるアルベルト、ユハルテットが視察という名目で下町を訪れる。もちろんカルロスもお兄様付きの騎士なので一緒だ。
そして花屋の前の食堂で足を止めた3人は
「ここで昼食を食べたい。」と言い出す。
意訳としてはここでガーネットを眺めたい!だろう。
しかし、ここはお付きで来ていたロッカルが黙っていない。
「こんな庶民の食堂でユハルテット王子とアルベルト王子が食事をするなど言語道断です!それに毒味係もいないではないですか!!」と止めるのだが
「私が毒味係を引き受けましょうか?」とガーネットが割って入るのだ。
「それはダメだ!」と二人の王子とカルロスが反対するが
「ここ二日ほどマトモな食事をとっていないので是非やらせてほしい。」というガーネットに渋々承諾する。
皆まさかこんな庶民食堂で毒が盛られているなんて思いもよらず……。
「では、頂きます。」
テーブルの上に用意された食事を少しずつお皿に取り、まずはトマトベースのスープを一口食べるガーネット。
口に入れた瞬間、微妙な顔になり
「……ん?」
という言葉と共に大量の汗が吹き出て真っ赤になる顔……。
そのまま喉を押さえて咳が止まらなくなる。
実はここの食堂の店主、以前、王宮の料理人を募集している際に応募したことがあるのだが、料理の審査で店主の料理を一口食べた審査員の一人が「これは王宮の味ではないな……。」と言った言葉が非常に腹立たしかったらしく王宮の者を恨んでいた。
もう完全な逆恨みで毒を……いや、激辛香辛料を盛ったのだった。
そして、また王宮へ療養の為に運ばれるガーネット。
「いえ。もう、口の中の辛さも良くなりましたから大丈夫です。」
と言うのだが、ユハルテットとアルベルトに却下されてそのまま王宮へ連れていかれるのだった。
「そ、それはイヤ!!」
私が毒味係イベントの話をすると物凄い勢いで拒否するガーネット。
「どうして?お兄様もカルロスもアルベルトもみんなの好感度が一気に上がる重要イベントじゃない!」
すると視線を逸らしすごくイヤそうにガーネットは呟いた。
「……私、辛いの苦手なのよ……。」
「あら。そうなの?でも大丈夫よ!私がクッキーを作るんだから!ガーネットが食べるクッキーには激辛香辛料は入れないわ!その代わり他のモノは全部激辛クッキーよ!」
私が得意気に言うとすごくげんなりした顔になるガーネット。
「私がクッキーを作ったからってみんなをお茶に誘うの。そして、何かあってはいけないから毒味係を呼んでいるのだけれど毒味係が遅れていてなかなか来ないのよ!だって本当は呼んでいないから!!そこでガーネット、あなたが代わりに毒味するわって言ってクッキーを食べるのよ!それで苦しんで倒れる!私が作ったクッキーだからまさかとみんな思うわよね!まあ、私がお砂糖と香辛料を間違えたっていうオチになるんだけど、良い考えでしょ?」
「ダ、ダメよ!!間違えて激辛のクッキーを、食べてしまったらどうするの!?」
「事前に打ち合わせしておけば大丈夫よ!だってこれ程、今に適したイベントはないと思うわない!?」
「そ、そうだけど……。」
と言いつつ、それでも浮かない顔のガーネット。
「どうしてそんなに嫌なの?」
「……前世で……やられたことあるのよ。クラスの女の子が作ったクッキーを初めてお裾分けしてくれたの。すごく嬉しかったわ。でも……私の食べたクッキーだけ激辛ハバネロ入りだった……。」
つ、辛い!ガーネット!前世でも辛い思いして今世でもこんなに身体張って頑張って……。絶対、幸せになってほしい!!
「本当に上手くいくと思う?」
と不安そうに見てくるガーネットに
「もちろん!大丈夫よ!!私に任せて!!」
と私は自分の胸をドンと叩いた。