第7話 ドキドキイベント2
翌日すっかり元気になった私は庭を散歩しながら次のドキドキイベントについて考えていた。
再会を果たした二人の次なるドキドキイベント。それは……毒味係り!!
しかもこのイベントはユハルテットとアルベルトとカルロスの3人から一定以上の好感度をゲットしていなければ発生しないイベントなのよね!
それに3人の好感度を一斉に上げられるお得イベントだった。
でも、お兄様との好感度しか上がっていなかったガーネットはこのドキドキイベントを発生させていなかったハズ!!
私が次のイベントをどうやって発生させるか考えてニヤニヤしながら歩いていると私服のカルロスが木陰で腰を下ろしてネックレスを切なそうに眺めていた。
カ、カルロス!!なぜそんな所でセンチメンタルにネックレスを眺めているの!?
実は私にはカルロスについて1つの疑念が生まれていた。
あの、お兄様の執務室に呼ばれて、カルロスの事が好きだと言った後からいつも勤務中は顔色ひとつかえないカルロスが私をみて少し頬を染めるのだ……。
そして私が視線を感じてカルロスを見るとすぐに逸らす。
うん。カルロス完全に私を意識している……。
私が好きだって言った事で気になり始めたのかな……。
ということは、あれはゲーム内にも出てきた母親の形見のネックレスということか!?
そして、センチメンタルに思っている相手は私なのか!?いや、しかし未だガーネットの事を思っているという可能性もある。
私はキョロキョロと周りを見渡し野良猫が居ないか確認したがそれらしきものは見当たらなかった。
よ、よし!私がカルロスのドキドキイベントに関わる事は無さそうだ!!
「あら、カルロス。今日はお休みなの?」
「アリッサ姫様!はい。今日は午後から休暇を頂いております。」
私の呼び掛けにスクっと立ち上り少年のように頬を染めてはにかむカルロス。
私も自然と笑みが溢れる。
あー!良いよ!カルロス!!
勤務中の鋭い視線からのギャップたまらん!!
あーもう、アルベルト王子と結婚できないならカルロスに私の事お嫁に貰ってくれないか頼んでみようかな!?
ガーネットもカルロスは対象外みたいだし!
私がそんな事を考えているとカルロスは小さな巾着袋の中にネックレスをしまってポケットに入れた。
私はその様子を見て、ドキドキイベントは起こらないと確信する。
「そう午後からお休みだったのね。あ、そういえばお兄様っていつからあんなに腹ぐ……厳しい感じになったのかしら?」
カルロスは私の質問に苦笑いした後、ニコリと笑って答えてくれた。
「ユハルテット様は昔から王子としての振る舞いやいずれ国王になる為に様々な事を学ばれて、そして、自分がどう行動すればいいか考え、実行されてきました。こと国の事になりますと、とても厳しく対応される事もございましたよ。アリッサ様にはいつもお優しいお兄様でいらしたので少し驚かれたと思いますが……。」
「……そうなの。」
私はゲームの中でヒロイン、ガーネットに優しいユハルテット。今世で妹の私に優しいお兄様しか見えていなかったんだな。
でもいずれは一国の王になるのだから人知れず努力や苦労、辛い思いをしてきたんだろう。
――そして、腹黒くなったと……。
完璧な裏キャラ設定ね!!もっとお兄様を掘り下げた番外編とかあったらお兄様の人気がもっと高かったんじゃないかしら。
そして、本編の裏表のあるキャラと言えばアルベルトなのだ。同じく王子として生まれて国王になるべく色々な苦労があったアルベルト。
公式設定ではアルベルトには下に自分と母親の違う弟が二人おり第一王子のアルベルトと第二王子のルドベルト、第三王子のロベルトは常に後継者争いを繰り広げていた。
父親でもあるマクベルト・シュトラスト国王は第一王子であるアルベルトを次の国王にと思っているのだが、それが面白くない後妻のモベリアは第二王子もしくは第三王子を国王にさせる為、周りの大臣達も巻き込んで対立していたのだ。
確か、アルベルトの母親が亡くなったのがアルベルトが10歳の時……。ミシューラットでのパーティーから帰ってすぐ後の事だったわ。
そしてその後すぐにシュトラストの王宮で侍女をしていたモベリアが後妻になった。
前世ではこのアルベルトの母親の死はモベリアによるものではないのかと言う予想がネット上で盛んに言われていた。
そして、母親の死とその後の継母との関係がアルベルトを陰の王子へと引き込んだのだ。
そう、本編のイメージで言えば陽の王子がユハルテットお兄様だとすれば陰の王子がアルベルト様なのだ。
私がアルベルト様とお兄様について思いにふけっていると
「あ!こら!!」
と言うカルロスの焦った声が聞こえて慌てて意識をカルロスへ向ける。
見ると野良猫がカルロスのポケットの中をワザワザ探り巾着袋を取り出したのだ。
ええ!!もしかしてドキドキイベント発生!?
いや、私は絶対に木になんて登らないから!!
その前に捕まえる!!
私は巾着袋を咥えて逃げる猫を必死で追った。
その後をカルロスが物凄いスピードで私を追い抜かして猫を追うが猫も逃げ足が速くなかなか捕まえられない。
よし私は先回りして挟み撃ちで捕まえる!
私は猫が来そうな木の近くに先回りしてカルロスと猫を挟み撃ちにした。猫の後ろは木で私とカルロスがジリジリ追い詰める。
そして、私は木に跳び登りそうな猫にスライディングの要領で身を乗りだし猫に突っ込んだ!
「フニャーー!!」ゴン!!!「痛ーー!!」
私は猫を抱き抱えながら木にスライディングしてオデコを強烈にぶつけてしまった。
「カルロス!見て!!捕まえたわよ!!」
私は木にオデコから突っ込んでいたが木に登る前に猫を捕まえられたことに興奮してカルロスの方を猫と一緒に向いた。
「ア!アリッサ姫ーーー!!!!」
カルロスは目を剥き出して大絶叫をした後、有無を言わさず私をお姫様抱っこして王宮内の診察部屋に向かった。
「シュガラク殿!!急患だ!!急いで見てくれ!!!姫様があ!!!」
私を見た白髪白髭の王宮医師のシュガラクは
「ん?ああ少し擦りむいておるの。」と言って私のオデコに傷薬を塗ってくれた。
「おい!こんな簡単な処置だけで良いのか!?オデコを切っているんだぞ!!」
「赤みは大きいが傷は擦りむいてるだけだからこれで充分だとも。赤みはしばらくすれば消えるし傷も残らぬよ。」
とのんびりとした口調で言った。
もうカルロス大袈裟なんだから!
私は一緒に連れてこられた猫の口から巾着袋を取って外に通じる扉から猫を逃がした。
そして、私の髪を括るのに使っていた紐を髪から取るとカルロスの巾着袋に縛り着けて
「首に掛けておけばもう猫に持っていかれないわよ。」
と紐を丸く広げて見せて
「屈んで。」とカルロスに言った。
カルロスが片膝を床につけ頭を下げると首に紐を付けた巾着袋を掛けてあげた。
カルロスは巾着袋を掛けて貰うとゆっくりと顔をあげて潤んだ瞳で私をじっと見つめる。顔を真っ赤にして……。
あ……。これ、またやってしまった……?