第4話 身を引きます
ヒラヒラとガーネットの足元に落ちた紙……。
「ひ、拾わないで!!」
私の願いも虚しくガーネットは足元に落ちた紙を拾いそして止まった。
暫くの沈黙の後……ブルブルと手元が震え始める。
「あ、あなたも前世持ちの転生者?」
聞いたこともない地を這った低い声……
あの紙をみられてはもう言い訳出来ない。
「……そうよ。」
私は認めた。
「ズルい!ズルいよ!!同じ転生者なのにどうしてあなたは王女様で私は町娘なの!?」
なんですと!?
「いや、それは良いのよ!私はヒロインなんだから!貧乏で大変だからって!家族に対してもっと割りのいい仕事しろよ!とかお人好し過ぎて騙され過ぎだろ!とか内心思っていても私が花屋の娘でなければ攻略キャラとのイベントが始まらないんだから!イベントを発生させるためにどんなに痛い思いをしようとも耐えていたのよ!!」
ここで少しヒロインについて説明させて頂くと、ヒロインであるガーネットは下町の花屋の娘として生まれる。
しかし花屋はそんなに儲かっていなくてガーネットはとても貧しい暮らしをしていた。それに人の良い両親はよく騙される事も多く多額の借金を抱えていたハズだ。
きっと超極貧生活だったのだろう。
それでも健気に花を売り続けるガーネット。そんなガーネットはある日、馬車の前に飛び出した子供を助けようとして代わりに轢かれて、怪我をしてしまう。その馬車は私の兄であるユハルテット王子が乗った馬車で、ユハルテットはすぐに馬車から降りてガーネットを助け起こした。
責任を感じたユハルテットが暫くお城で療養するように言うのだが、お城で療養するガーネットをお見舞いに行ったユハルテットが身綺麗にした彼女を見て一目惚れするのだ。
そう。このヒロイン結構な苦労人な上に攻略対象者とのイベントを発生させるためにかなり身体を張るのだ!
ゲームをプレイしている時は感じなかったが、実際のイベントを起こすために馬車の前に出て怪我を負うなんて痛かっただろうなと同情する。
確か10歳の時のアルベルト王子とのイベントも発生させたっていっていたな……。
あれは確か――――
借金の取り立てに来ていた男達が両親に凄んでいるところに助けようとして間に入り「お父さんとお母さんを苛めないで!!」と涙ながらに言うのだが、借金取りの男が強烈な平手打ちを10歳の少女に食らわせるんだよな……。
そこをたまたまお忍びで来ていたアルベルト王子が助けるのだ。
そして「私の国へ来なさい。」と言ってくれるのだがここで「はい。」を選択してしまうとシュトラスト国に移り住み、ただの平民としてその後の人生を歩む事になる。アルベルト王子とのイベントはおろか他の攻略対象者とも接点がなくなり平民スローライフで一生を終えるのだ。
アルベルト王子から国へ来るように誘われた時の正解の答えは「いいえ。私はこの国が好きで、この町が好きなのです。大好きなお花に囲まれていれば貧しさなんて気になりませんわ!」という現実だったら絶対言わないだろうセリフを選ばなければならない。
つまり、彼女は10歳の時に借金取りに平手打ちをくらった上にこのセリフを言ったのだろう。
彼女の境遇を思うとなんだかこんなに簡単にアルベルト王子と婚約までこぎ着けてしまった自分が居たたまれない。
「アルベルトを返して!!私がヒロインなのよ!!」
「………そ、そうよね。私は所詮モブでしかないのだから、でしゃばってはいけないわよね……。」
私は1つ深呼吸をすると
「アルベルト王子との婚約は解消するわ。」
「本当に!?」
ガーネットはパッと明るい表情になった。
「ええ、ただ私が言うのもおかしいかもしれないけれど、お兄様のルートも残しておいた方がいいんじゃない?」
私の発言にガーネットは顔が曇った。
「どういうこと?」
「この時点でもうゲームはエンディングの結婚式を残すのみでしょ?上手くアルベルト王子ルートに変更できれば良いけれど、上手くいかなかったら?お兄様ルートもダメになったらガーネットはまた貧乏な花屋に逆戻りよ。」
「そ、そうね。」
「ね?だから、お兄様の事も上手くやりつつアルベルト王子の事も頑張って!」
「ありがとう!あなた良い人ね!!」
だって、私はアルベルトと婚約解消したからってきっとどこかの有力貴族に嫁ぐんだろうし、どう考えてもガーネットの方が苦労しているのにこれ以上私が何かを望んではバチが当たりそうなんだもの……。