第3話 ヒロインの主張
私はアルベルトが待っている食事室へ向かった。
「お待たせ致しました。アルベルト様。」
「いえ、こちらこそ急な申し出にも関わらずお越し頂き嬉しいです。」
「あの、お兄様は?」
「今日はユハルテットはおりませんよ。私達二人だけです。なかなか二人きりで話す機会がなかったのでお誘いしてしまいました。」
私はみるみる頬が赤く染まり俯いてしまう。
「そう……ですか。私も二人でお話ししたいと思っておりました。」
チラリとアルベルト様を見上げれば満面の笑みを浮かべて「ではこちらへどうぞ。」と手を差し出してくれた。
あーヤバい!くそかっこいいぞ!!
それに手!手はマズイんだよ!今までは画面越しでしか会えなかったから体温を感じるともう!現実感が増して……。こんなの惚れるに決まってる!!
向い合わせで食事をしながらアルベルトはニコやかに色々な話をしてくれる。自国のシュトラスト王国の事を特に詳細に……。
私は王女として近隣諸国の事も学んでおりましたので、アルベルト様のお話もとても興味深く聞くのは楽しかったのですが、シュトラスト王国の政治や外交、今後の展望などをそれはそれはご立派に考えていらっしゃるアルベルト様のお話はいくら友好国である隣国の王女だからといって話しても良いのか?という内容まで話されておりました。
食後のお茶を頂いている時、アルベルト様は私を甘い眼差しで見つめながら話し始めました。
「初めてお会いした時は8年前ですか……。あの時もとても可愛らしかったなぁ。今、思い出してもあの時のアリッサ姫の可愛さは衝撃的でした。」
「い、いえそんなことは……。」
うわぁ!そんな甘い目をして可愛いとか言わないでー!!
いや本当、今世は綺麗に生まれて良かった!!こんなにアルベルト様に誉めていただけるなんて、お父様とお母様に感謝だわ。
「ずっとずっとあなたの事が忘れられなかったのです。お可愛らしいアリッサ姫ですからいつ、どこであなたを拐っていく王子が現れるのではないかと気がきではありませんでした。こうして、再びお目にかかる事が出来て長らく交渉してきたかいがありました。」
「交渉?」
「ええ、あなたと婚約させてほしいと。」
え!!エエエエエエ!!!!
私は内心驚いて叫んでいたが声には出さなかった。しかし、顔は目を見開いて止まってしまった。
「驚くのも無理はありません。突然の申し出ですから。しかし、私は本気であなたを我が国の妃として迎えるつもりです。」
マジで!?マジか!!マジだったー!!!
「あの、それでここにいらっしゃると言うことはお父様達を説得できたと言うことでしょうか?」
「ええ。」
「そうですか……。それでしたら私から言うことはございませんわ。アルベルト様の元へ嫁ぎます。」
よっしゃあ!!まさかアルベルト様から婚約を持ちかけられるなんて!!今世の私、神がかってる!!
「待って……。ちゃんと君の気持ちを聞かせてほしい。というか結婚したい気持ちは変わらないのだが、もし、どうしてもあなたが嫌だと言うのであれば、無理強いはしたくない。その場合、非常に残念ではあるが、身を引こうと思っている。」
「そんな、嫌だなんて……。私もアルベルト様の事をその……ずっと想っておりました。」
「え?ずっと!?」
驚いた顔のアルベルト様に慌てて訂正する。
「あ!ですから、再会してからずっとと言うことですわ。」
危ない危ない。前世からずっと想ってるとか重たすぎていくら好かれててもアルベルトに引かれかねない。
こうして私達の婚約は上手く行くと思われていたのだか……。
「アリッサ姫!!アルベルト様と婚約されたというのは本当ですか!?」
翌朝、血相を変えてガーネットが私の部屋に現れた。
「ええ、そうよ。」
私が答えるとガーネットはみるみる顔の形相が鬼のように変化していく。
「どうして!どうして!?私は10歳の時にちゃんと出会いのイベントを果たしたのに!?セリフだって一字一句間違っていなかったハズよ!!なのにどうして再会イベントが起こらなかったのよぉぉぉ!?」
「へ!?」
イベント!?イベントって言ったこの人!
しかも再会イベントがあることまで知ってる!!
この人、絶対前世であの乙女ゲームプレイしてるよー!てか私以外に前世持ちで転生した人がいたのか……。
「アリッサ様。あなたまさか何かしたんじゃ!?」
私を鬼の形相で睨むガーネット。
「い、いえ。私もこの前再会したばかりですし。初めて出会ったのも8年も前ですわ。しかも私、昔出会っていた事も覚えてもおりませんでした。」
嘘じゃない。嘘じゃないぞ!!
「なら、どうして、私ではなくあなたと婚約してしまうのよ!?」
詰め寄ってくるガーネット。しかし、あなたは……
「ガーネット様はお兄様の事がお好きなのでは??」
私の質問にガーネットはハッと我にかえり
「そ、そうよ。私が好きなのはユハルテット様よ。」と取り繕った笑顔で答える。
その時、開け放っていた窓から風が吹いて机に置いておいた紙が舞った――。
――ヤバい!!日本語で書いた前世の紙がぁ!!!