第11話 夢での出来事は・・・
どうしよう。アルベルト様の事、なんてガーネットに言えばいいの?
私はガーネットの部屋に向かいながらアルベルト様の事をどう伝えようか考えていた。
「………サ!」
うーん。昨日はあれだけ嫌がっていたのにドキドキイベントの為に無理もさせてしまったしなぁ。
「おい!!」
大丈夫かなあ。
「おい!!無視するな!アリッサ!!」
ドン!!
「キャア!!」
私は何かにぶつかって尻餅をついた。
「もう!!何!?」
「何じゃねーよ!何回声かけたと思ってんだよ!!」
「リッカル!!ごめーん。小さいから全然視界に入ってこなかったわ!」
リッカルは深緑の髪を撫でて整えるとこめかみに青筋を立ててとイラッとしながら丸い眼鏡を人指し指であげた。そして、怒りを含んだグリーンの瞳を私へ向けてくる。
「お前、最近落ち着き無さすぎだろ!?前はこんなにお転婆じゃなかったのに!」
「そうかしら?」
「そうだよ!だから父上からお前の監視を仰せつかった。」
リッカルは得意気に笑って言ってくる。
「は!?」
リッカルの父親は宰相のロッカル・ハンドリードの事だ。そう、カルロスの代わりの騎士を手配した男。
そして、その息子リッカルはゲームの攻略対象者……。しかし、あんたはハッキリ言って今、お呼びでない!!
「私、今からガーネット様にお話があるの。付いてこないでよ。女同士の話なんだから!」
「ダメだ!お前から目を離すなって言われてるんだ!!」
ギャアギャア言いながら付いてくるリッカルをあしらいながらやっとガーネットの部屋に到着した。しかし――。
「え?ガーネット様。いらっしゃらないのですか?」
「ええ。昨日からずっとユハルテット様のお部屋でお過ごしですよ。」
え?え??あれからずっと!?
もう、次の日ですけど?
えーっと……。
とりあえずそっとしとこ。
私はガーネット付きの侍女に言付けを頼むと今、来た道を戻り始めた。
「なあ。ユハルテット様のお部屋に行かないのか?」
「え?リッカル本気で言ってるの?」
「え?だってユハルテット様のお部屋にガーネット様はいるんだろ?」
「ふー。だからあなたはずっと対象外なのよ。」
「は?なんだよそれ!!おい!!」
リッカル・ハンドリートは私より一歳下の14歳。宰相ロッカルの息子で幼い頃から私の遊び相手として、よく一緒に過ごしていた。まあ、いわゆる幼馴染みである。だから、お互いこんなにもフランクな話し方なのだ。そして、公式設定の通りリッカルは私の事が好きなのだ。いや、前世を思い出す前から気付いていたけどね。なんとなくロッカルもあわよくば息子を私と結婚させようっていう魂胆みえてたしね。でも、この気の利かない性格と好きな子はイジめるタイプのリッカルとの結婚、ないわーと私はずっと思っていた。
ちなみにゲームでリッカルルートを選んだからって私がガーネットをイジメたりする展開があるかというとそんなものはない。
アリッサは本当にモブなので、ユハルテット王子の妹でリッカルの好きな相手として姿こそ公式ブックに載っているものの、ゲーム内にはセリフの一部としてしか出てこないしゲーム内でヒロインとの絡みもない。
あ、でも確か、ガーネットはちゃんとリッカルとのイベント発生させていたな……。
ガーネットは結構リッカルもお気に入りだったのかしら。
その辺も聞きたいし、あー早くガーネットと話したいわ。
実は私、ガーネットと話すのが楽しくて仕方がないのだ。前世ではこっそり乙女ゲームをやっていたので、友達とゲームの話をすることなんてもちろんなかった。
こうやって好きな事を共有出来る人がいるって嬉しいのよね!だからこそ、ガーネットには納得のいく今世を歩んで欲しい。だって大事な親友なんだもの!!
「はー。早くガーネット様、お兄様のお部屋から出てこないかしら。」
私は自分の部屋に戻って本を読んで暇を潰していたけれど、なかなかその知らせは来ない。
「アリッサ様もアルベルト様と過ごして仲を深めたらよろしいではないですか?」
フルーラはニコリと笑ってテーブルに新しい紅茶を置いた。
「うーん。こちらにも色々と事情があって、私からアルベルト様を気軽に誘えないのよ。」
「あら?そうなんですか?アルベルト様はとってもアリッサ様の事を大切にされている感じでしたからアリッサ様からのお誘いならとてもお喜びになりそうですのに……。昨日も寝ているアリッサ様のお顔を拭いてあげたり、お水をご自分で飲ませたり……フフフ。こちらが照れてしまうくらい熱心な看病でしたわよ。」
とフルーラは意味ありげに微笑んで私を見てきた。
「え……お水を……ご自分で?」
「ええ。」
あの夢……まさか!?夢でキスしたと思っていたけど、夢ではなかった……?口移しでアルベルト様が私にお水を……!?
私は真っ赤な顔になる……。
や、やだ!!なにそれ!?覚えてない事が悔やまれる!!前世からの私のファーストキスが!!アルベルト様とのキスが!!
俯瞰で見たい!!自分がされているところを俯瞰で見たかったわ!!
フルーラの立ち位置が羨ましい!!!
私が顔を真っ赤にして頬を押さえてアワアワしているのをフルーラはニヤニヤしながら見てくる。
私は赤い顔をしてフルーラを睨む。
「す、少し散歩してきます。」
私は火照った顔と気持ちを落ち着かせるために庭に出た。