マットレスは怒った
マットレスは復讐を考えていた。そう、マットレスは不快感を覚えていた。その元凶は言うまでもなく、自分の上に乗っかっている人間、カイヌーシだ。このカイヌーシのもっとも気に入らない点は自分の上で踊狂い、跳ねまくり、遊びまわるのだ。その衝撃ゆえにマットレスの布はもうボロボロになっていた。その激痛はもういてもたってもいられないのだ。まだ、日干しされずに繁殖したダニに闊歩されるほうがよっぽどましというもの。だが、マットレスは耐えていた。寝具として生まれたプライドがあったからだ。寝具たるもの、静かに黙すること。そして、速やかに人間の睡眠を促すこと。だからこそ、今日まで怒りを堪えていたのだ。だが、今日、それも限界だ。今日、カイヌーシは恋人のシーツにココアをこぼしたのだ。シーツの泣きじゃくる声が聞こえた瞬間、綿が燃える音がした。マットレスは復讐を決意した。
マットレスはベットに相談することにした。ベッドは偉い、マットレスや、シーツ、枕、掛布団という一つではなんら役に立ちそうもにもない布袋集団を統括し寝具として昇華させる我らがリーダー、トップオブザ・寝具ことベッドなのだ。そんな偉いベッドにマットレスは相談をした。すると、ベッドはこう答えた。
「沈んで寝心地を悪くすればいいのではないのだろうか?」
なるほど、とマットレスは感心した。
今晩、またカイヌーシがベッドにダイブしてきた。激しい衝撃にも耐えてマットレスは極力反発を起こさすのように努めた。すると、いつもなら、跳ねまわり、動き回るカイヌーシが一瞬にしてはスヤスヤと寝だしたではないか。
彼こそが後に、低反発ウレタンマットレスと呼ばれるのだったが、それはまだ大分さきの話になる。