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クルイ~開演~ 1.顔

本作は「スキルリッチ・ワールド・オンライン」のサイドストーリー集……と言うか、曲者プレイヤーたちのやらかし行状記です。ぶっちゃけ、本編で使いにくいネタの加工場のようなものですが……。

今回はそんなやらかしプレイヤーの一人、クルイをご紹介します。

「ほんとに、ホントに、本っっっ当に、このアバターで好いんですか!?」

「何か問題でも?」



 運営側アバターの前で平然としている人物(アバター)――容貌は設定前らしく、まだ不明瞭な白いマネキンのまま――は、何の問題があるのかと言いたげに運営アバターに向かう。

 (そもそも)、この状況自体が普通ではない。


 ――キャラクターメイキングの段階で、NPCの案内人(アドバイザー)以外の運営側アバターが、プレイヤーの前に現れるなどという状況は。



・・・・・・・・



 話は数時間前に遡る。



「キョウ様~っ」

「お姉様~っ」

「「ご機嫌よう♪」」

「あぁ、気をつけてお帰り」

「ありがとうございま~す」



 きゃあ~、ご挨拶(あいさつ)しちゃった♪――という歓声を背に受けながら、一人の少女が下校の()()いている。

 身長は百八十センチ以上あるだろうか、女性にしては背が高い。背を真っ直ぐに伸ばしてキビキビと颯爽(さっそう)と歩く姿、道行く者の目を集めずにはおかない整った顔立ち、(つや)やかで癖の無い黒髪は短めに切り揃えられ……一言で云えば女性歌劇団(タ○ラヅカ)の男役を思わせる。


 篠ノ目学園高校の二年生にして生徒会副会長、()(ぎょう)(ひびき)という名の女生徒は、歩きながらこっそりと溜息を()いた。

 後輩の女子たちに慕われる事に異存は無いが、慕われる方向が違っているような気がする……今に始まった事ではないが。たかだか十七年に過ぎないとは言え、己の人生を顧みれば、ずっと同じようなポジションで歩んできたような……。いい加減、飽きが来たと言ってもおかしくはないだろう。他のポジションの人生というのは、一体どんな感じなのだろうか。今までは想像するしかできなかった。今までは(・・・・)

 しかし――


 そう思いつつ、(ひびき)は歩みを早める。今日からは、その「他のポジション」というものを体験する方法があるのだ。「スキルリッチ・ワールド・オンライン」――略称SRO(スロウ)――という方法が。


 ゲーマーの友人が教えてくれた情報――このゲームでは、現実とは違う人種や容貌でゲームの世界を体験できるという情報――は、後輩の熱い視線に辟易(へきえき)していた彼女にとっては一条の光明に思えた。

 悪い()たちではないのだが、(たま)にはお姉様以外のポジションを体験してみたい。別にフェミニンな容姿で数多(あまた)の男性プレイヤーを(たぶら)かしたり――それはそれで面白そうだが――したいわけではないし、燃えるような恋をしたいわけでもない。ただ、単純に、とにかく、今の自分とは違うポジションというものを体験したいだけである。



・・・・・・・・



 自宅に帰り着くと、ただいまの挨拶もそこそこに自室に飛び込む。

 一刻も早くゲームにログインしようと(はや)る心を()(しず)め、(ひびき)取説(とりせつ)を取り出して、キャラクターメイキングについての注意点を読み返す。

 性別や体格については――現実に戻った時に色々と誤認識や不適応を引き起こす可能性が高いとかで――変更できないようだが、それ以外の外見に関しては驚くほど自由度が高い。エディット画面でかなりな作り込みもできるようだ。

 もうお姉様キャラには飽き飽きしている。(まか)り間違っても同じようなポジションにならないようなキャラで……性別を偽る事はできなくても、一見しただけだと性別が不明なキャラにする事はできるのか。ある意味での男女平等だろうか。ソロプレイというのにも憧れるし……いっその事、こういうキャラメイクは可能なのか? ……規定には抵触しないようだが……おや? 課金すれば初期装備の服の外見も変更できるのか……破壊不能属性と装備解除不可はそのままか……よし!

 あ……名前はどうしよう。キョウ――は、後輩の女の子たちが私を呼ぶ時の愛称そのままか。まさかとは思うが、気付く者がいるかもしれない。キョウ……狂? よし、クルイにしよう。種族は……野外活動に向いている点を買ってエルフでいこう。


名前:クルイ

種族:エルフ

性別:女性

レベル:種族レベル1


 現実では後輩や他人の面倒ばかり見てきた気がする。ゲームの中でくらい一人気儘に行動したい。とにかく、無駄に見えても馬鹿馬鹿しくても、自分の好きなように行動したい――と言うか、する。

 気遣うべき相手がいないなら、自分一人が責任を負えば良いのなら、どんな馬鹿馬鹿しい選択をしても良いわけだ。他人(ひと)の面倒ばかりみて、やりたい事を我慢するのはもう嫌だ。他人との(しがらみ)は極力減らしたい。そのためには、ある程度の自給自足が可能なステータスやスキル構成にしておく必要がある。

 ソロでやると決めた以上、戦闘では確実なものに頼った方が良いだろう。祖母から薙刀(なぎなた)の手解きを受けた事があるし、合気道も護身術程度になら(たしな)んでいる。このゲームには薙刀(なぎなた)のアーツは無いようだが、祖母からは――法治国家の現状に即して――棒や杖で闘う(すべ)も教わっている。使い勝手の判らない魔法より、少なくとも序盤はパーソナルスキルに頼ろう。このゲームはそれができた筈だ。

 そう考えると、序盤でポイントを振るべきなのは防御力(DEF)・敏捷性(AGI)・生命力(VIT)だろう。しかし、極振りみたいな真似はしたくないから1~2ポイント上げる程度で……我ながら小心者だと思うが、この段階で冒険するよりは生き残る事を優先したい。何しろあの外見が受理されたら、私と組んでくれるような酔狂はいない筈だ。他人の支援無しで――ついでに他人の面倒を見る事も無しで――行動するためには、何よりも慎重であるべきだ。

 代わりに数値を下げるのは……攻撃力(STR)・器用度(DEX)・運(LUC)にする。どうせ乙女の細腕では大した打撃力は期待できないし、効果のあやふやな運に期待するのは間違っている。器用度は少し考えものだが……ここはパーソナルスキルに頼ろう。いずれは魔法も使うつもりだから、知力(INT)の値は下げたくない。

 HPとMPは……どういう展開になるか予想できないから、デフォルトどおり等分にしておこう。


HP:50

MP:50

STR(攻撃力): 9

DEF(防御力):11

INT(知 力):10

AGI(敏捷性):11

DEX(器用度): 9

VIT(生命力):12

LUC( 運 ): 8


 あとはスキルだが……ゲーム内での武術の体捌(たいさば)きや間合いの取り方が、私が習った流儀のそれと同じかどうか判らない。なので、武器スキルの(たぐい)は取らない事にする。戦闘の()(なか)、自分の動きに戸惑うような事があったら命取りだ。

 ソロプレイをする以上、ポーション等を自作するための【調薬(基礎)】は必要だろう。作ったポーションを売れば資金も稼げる。ソロでやるなら揃えるべき道具も色々とある。購入資金を稼げるアーツは不可欠だ。このゲーム、序盤から使えるアーツはあまり無いが、【調薬(基礎)】と【錬金術(基礎)】はその例外だ。序盤から需要が高くなるだろうポーションの供給安定化の他に、素材を探すためにプレイヤーが外へ出る事を促しているのではないかと言われている。

 幸い、エルフは種族特性として【調薬】にプラス補正がある。……反面、【鍛冶】にマイナス補正 、【錬金術】と【採掘】に微マイナス補正がかかるけど……。このゲームのエルフというのは、割と癖のある種族のようだ。まぁ、山野での活動にも向いているし、ソロプレイには打って付けだろう。……そう言えば、エルフで鍛冶のトップに上り詰めたβプレイヤーがいるとか……。マイナス補正については、あまり気にしなくてもいいのか? ……逆に、プラス補正も気分程度なのかもしれないが……まぁ、序盤ではその程度でも重要だろう。

 エルフは魔法に向いているという設定――魔法使用時の消費MPが微軽減――だから、魔法スキルも取っておく。魔法系のスキルは後々取る機会があるかどうか判らないので、キャラクリで取得するのが良いと書いてあった。多分序盤から使う事になるだろうし。

 それ以外のスキルは、察知系と隠密系を中心にした。……何だか暗殺者向きのステータスになった気がする……確かに今までとは違う道だが……まぁいいか。

 武器は……攻略板にエルフ用の武器について書いてあったな……棒にしておくか。


スキル:【鑑定】【警戒】【気配察知】【梟の目】【隠蔽】【防御力上昇】【回復】【ウィンドカッター】【ウォーターボール】

アーツ:【調薬(基礎)】

武器:初心者の棒


 土魔法というのにも惹かれたが、拠点作りに使えるようなスキルは、修得直後は取得できない。できるようになるのはずっと後。序盤から使えない以上、急いで取得する必要は無い。【採集の心得】や【暗器の心得】【罠】などのスキルも気になるが……いずれ機会があれば取得しよう。

 ……十個あるスキル枠が全部埋まってしまったか。まぁ、控え枠が五個空いているし、スキルを拾う事になっても大丈夫だろう。


 キャラメイク終了のボタンを押してしばらく待っていると……


《運営からの連絡があります》


 突然目の前に半透明なウィンドウが現れたかと思ったら、ほとんど直後に運営アバターと思わしき人物が目の前に姿を現した。



「突然お邪魔して申し訳ありません、クルイ様。貴女が申請したアバターについて、確認したい事がございまして……」

「承認されなかったんですか? 規約には抵触していないと思いますが」

「確かに……確かに、抵触してはおりません。しかし……これは……本当にこれで間違いございませんか?」

「ありませんけど?」

「本当に??」

「ええ」

「ほんとに、ホントに、本っっっ当に、このアバターで好いんですかぁっ!?」

「何か問題でも?」

「問題も何も……(どく)()の顔に黒衣って……大鎌を持たせたら、まるっきり死神じゃあないですかぁぁっ!」



 ()(よう)経緯(いきさつ)で、話は冒頭の場面に戻るのであった。



 巧力(くぬぎ) (しゅう)(いち)という名の――中性的な容貌の――少年がSRO(スロウ)に参戦して運営の間に大混乱を引き起こす、その半月ほど前の事である。

次話は約一時間後に公開の予定です。

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