クルイ~三幕の予告編~ 3.運営管理室
SRO運営管理室のスタッフが、チーフの木檜に問いかけている。
「……キャラクタークリエイト時の容貌作成の自由度を下げますか?」
「しかし、キャラクリの自由度の高さはSROの売りの一つだぞ。そう簡単に下げるわけにはいかんだろう」
「第一、これは運営管理室だけで決められる問題じゃない。営業なんかは真っ向から反対するぞ?」
う~んと考え込む一同に向かって、怖ず怖ずと声をかける者がいた。最年少スタッフの中嶌である。
「あの……そのキャラクリなんですが……液体人間の申請が来ましたが……どうしましょうか……?」
「液体人間?」
「何だ? それは」
「ですから……頭部を、スライムのように……」
説明を聞いて呆れる管理スタッフたち。
「それは無理だろう」
「のっぺらぼうや髑髏の場合と違って、目も耳も最初から無いわけだろう? 何も見えない、聞こえないって事になるぞ」
「それどころか、鼻も口も無いんだ。呼吸も食事も無理だろう」
「スライムみたいに、頭部全体で呼吸と摂食をするというのか?」
「そんな面倒な事ができるか! 却下だ却下!」
騒いでいるところへ、別のスタッフが更に面倒な案件の到着を告げる。
「おぃおぃ、蝿男の申請が来ましたよ」
「蝿男……」
「頭部と片手が蝿ってやつか?」
「まぁ……ある意味でロマンだからな……こっちは解らんでもない」
「解らんでもないのは確かだが……」
このままでは早晩収拾がつかなくなると思ったか、大楽という名札を付けた男がチーフの木檜を振り向いて提案する。
「容貌の作成はホモ・サピエンス基本に限定しますか?」
しかし、この真っ当至極な提案も、他のスタッフから待ったがかかる。
「それだけじゃ駄目だ。他人の顔でアバターを申請しようとしたのがいただろう?」
「あぁ……アイドルならまだしも、知り合いと同じ顔にして悪戯しようとしていたやつがいたな。質が悪い」
「モナ・リザと大仏の申請が来た時は、法務部のやつらが荒れてたぞ。著作権と肖像権がどうとかって」
「やはり、本人の容貌をベースにするという制限を付けるしか……」
「しかし、抑容貌の変更を可としたのは、プライバシー保護のためだろう? そこのところはどうなるんだ?」
もの問いたげな一同の視線を浴びた木檜が、ややあって決断する。
「……このままでは、運営管理に支障を来しかねないのは事実だ。管理室として、容貌作成の制限を上に申し入れる。その後の判断はお偉いさんに任せよう。……対策も含めてな」
本編、近日公開予定。
具体的には七日に。