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私、元は邪竜でした  作者: 瀬野 或
三章 邪竜と聖者 〜中央大陸 首都レイバーテイン 暴虐の牙編〜
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〖第二十九話〗無題


 例えば、小石を水に投じるように、それは波紋となって広がり、気付いたらもう、その波紋は津波のように我々の住む場所へと到達する。

 その小石を誰が投じたのか、投じられるように仕向けられていたのか…それを定かにする時間は残されていない。例え『ソレ』を無視した所で、現実というのは残酷で、無視した所で無い事にはならないのだ。


 誰かが呟く『知らなければ良かった』と。

 誰かが嘆く『気付かなければ良かった』と。


 それら全ては、もう後の祭りと言うものだ。つまり『時間を戻す事は不可能』であると同様に、『無かった事』に出来るはずも無い。現象は事象として、事象は現実となって、我々の背後からゆっくりと死神の鎌のように、喉元へ突き付けられる。その刃に気付かなければ、無意識の内に、大地に口付けをする事になるだろう。だが、気付いた所でその刃は突き付けられたままだ。


 その一歩を躊躇うか。

 その一歩を進むか。

 その一歩に賭けるか。

 その一歩を捨てるか。


 これを選べる人間というのは少ない。いや、いないと言っても過言ではないだろう。つまり、前後左右進めない絶対的な崖に立った時、人間はそのどれも選ぶ事は出来ないのだ。


 一人の女が微笑む。

 この女は、全てを愛し、全てを許し、全てに絶望した者。時に『聖母』と言われ、今は『死神』と呼ばれる女。


 この女は、無慈悲な笑みを浮かべる。

 月が怪しく照らす崖の上で、女は一つの小石を世界に投じたのだった。

 その小石がどうなるか、女には分からない。だが、それでも良かった。それが女にとって『最後の希望』と成り得るものだから、女はこの小石がどちらに転がっても、そのどちらかは自分の希望になると信じて、行く末をただ眺めた。そして、その石が落下した先を見て、女は、背負っている『死神の鎌』宜しくな鎌を両手で握り、断崖から飛び降りた。


 世界を『救済』する為に──────。

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