表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、元は邪竜でした  作者: 瀬野 或
二章 邪竜と英雄 〜中央大陸 首都レイバーテイン 人攫いと鎌鼬編〜
24/66

〖第二十二話〗私達と二将、心理戦を始めました


 すっかりと陽が落ち、夜の月が少し輝きを増すしていく頃、ディレザリサとフローラはロブソンが作ってくれた料理に舌鼓を打っていた。その料理を作った本人のロブソンは料理を作り終えると、「それでは、私もやる事がありますのでこれにて失礼致します」と、自分が仕える主人がいる屋敷へと帰って行った。ディレザリサはロブソンがいない事を良い事に、豪華絢爛な料理の数々を口の中にどんどん詰め込んでいく。


「はんへほほは…ひんへんほほふはほふひほふふへふほは…(なんて事だ…人間の雄は料理も作れるのか…)」


 確かにロブソンが作り出した料理の数々は、シェフが作ったかと見間違える程に綺麗で、味も素晴らしい。だが、こういう料理はガツガツと食べるよりも、丁寧に食べるべきではないのだろうか?と、フローラは目の前が貪るようにがっつくディレザリサを見て思う。


「ディレ…行儀悪いからちゃんと飲み込んでから話そう?…でも、この料理本当に美味しい…流石はグラーフィン家の執事ってだけはあるね…うぅ…悔しい」


 料理の腕には些か自信があった。サバイバル経験で得た知識もあり、食材を見抜く目も備わった。無いなら無いなりに工夫して、出来る限りを尽くしてきた…はずなのに、目の前にある『料理』が、圧倒的に『料理』なのである。一口、口に入れる度に食材が『料理とは何か』を物語ってくるようで、今まで自分が作ってきた料理が陳腐に感じてしまえるほど、この料理は料理足らしめる力があったのだ。

 踏まえて、ディレザリサもディレザリサで、自分が作った料理にいつも感動していたのに、ロブソンが作った料理をこんなにも嬉しそうに食べているのを見ると、何だか裏切られたような気持ちになり、あまり心穏やかではいられなかった。


(私だってこれくらい…出来ないなぁ…)


 次第に手が止まる。そして、フローラの口からは自然に溜め息が零れた。


「どうしたの?食べないの?」


「た、食べるけど…食べるけども!!ディレがそんなに美味しそうに食べるから…悔しくて」


(悔しい…?何が悔しいのだろうか…)


 ディレザリサは考えてみる。こんなに素晴らしい料理を目の前にして『悔しい』という感情がどうして沸き起こるのか…と。例えば、この料理が他の誰か…第三者によって全て食われるとしよう。それなら分かる。私は悔しいと思う…と、一人で納得するが、フローラを見ていると、どうやらそういう事でもないらしい。ならば、違う理由で悔しがっているのだ…と、もう一度ディレザリサは頭を捻った。悔しい…悔しい…自分が悔しいと感じる時はあっただろうか?


(あったな…ハイゼルが力を使ったあの時、私は奴に勝てないと確信して逃げた…そうか…!!)


 つまり、フローラは自分がこの料理に勝てないと思って悔しがっているのだと推測する。それなら、先程の発言にも合点がいく。悔しさに手を止めてしまう理由も、それなら分かる。


「フローラの料理だって美味しい!」


「───どっちが美味しい?」


「あ…え、え…っと…」


「ディレは正直だからなぁ…言わなくても分かるよ。この料理の方が美味しいのは私にも分かる。だから、悔しくて…でも美味しいから食べるッ!!」


「・・・・・・」


 フローラは何かが吹っ切れたのだろうか。再び手を動かし始めた。


 全ての料理が無くなる頃には、フローラも元のフローラに戻り、「美味しかったねー♪」と互いに感想を述べる程度には機嫌も良くなったようだ。


「ディレ、お茶飲む?」


「うん。貰おうかな」


「はーい!ちょっと待っててね」


 そう言うと、フローラは奥にあるキッチンへと向かって行った。

 ディレザリサは使用済みの食器を重ね、キッチンへと運ぼうとしていた。その時、『トントン』と誰かが扉を叩いた。


「夜分にすみません。少しだけよろしいでしょうか?」


(こ、この声は…!!)


 その声には聞き覚えがある。そう、あの時すれ違う際に耳元で囁いたあの声の主。確か、レウター…とかハイゼルが呼んでいた奴だ。


 どうする…?と、頭の中でこの状況を整理する。あの男は、ディレザリサが『竜』である事に気付いたのだろうか?いや、もしそうでないのなら、ここに訪ねて来る理由が無い。つまり、何か『確信を得てこの家に来た』という他に理由は見つからない。


「はーい!今出ます!ディレー?お願ーい!」


 自分が躊躇っていううちに、ディレザリサが行動しないので、フローラが返事をしてしまった。


(フローラ!?…仕方ないか…)


 ディレザリサはゆっくりと、自分は何も怪しくないと自己暗示を掛けながら、扉を開いた。


「夜中の訪問。失礼をお許し下さい」


 やはり、訪ねて来たのはあの男、レウターだった。だが、その背後にもう一人…顔は見えないが誰かがいる。


(魔族か…?)


 だが、ここで後ろの魔族に反応しては、余計に怪しまれてしまう。ここは気付いていない体を装うしかないと判断し、ディレザリサは作り笑いを浮かべる。


「こんな時間に、何の御用ですか?」


 あたかも『私は警戒してません』を装う。


「その前に自己紹介をさせて頂きます。私はグラハンド・ザン・ディザルト国王陛下に仕える五人の将の総括を承っているレウター・ローディロイと申します。そしてこちらが同じく、五将の……」


「───ゼルだ」


(どうやら、確定のようだな…)


 国王直属の部下で、しかもそれを束ねる者と、その者の部下がこの家にやって来るという事は、即ち、ディレザリサを『特殊な存在』だと確信しての行動だろう。


「私はディレ・ザリサ。ディレとお呼び下さい。フローラ、お客様が来たから、お茶を四つお願い」


「はーい!」


 奥からは呑気な返事が返って来る。だが、フローラも気になったのか、こちらの様子を見に来て、そして理解したようだ。今、自分達がかなり危険な状態にある事を。

 ディレザリサはフローラに目配せをする。それを感じ取ったフローラは軽く頷いて、またキッチンへと戻って行った。


「どうぞ、お座り下さい」


 ディレザリサは二人分の椅子を引いて、レウターとゼルを招き入れようとしたが、ゼルだけは「俺はここでいい」と、玄関から動こうとしない。


(なるほど…退路を断つつもりか…)


 その言葉を聞いて、レウターが弁護をする。


「彼は〝シャイ〟なんですよ。すみません。落ち着かないとは思いますが、私だけ座らせて頂きます」


 別にゼルという魔族が『シャイかどうか』は、差して重要な事ではないが、レウターは「どうもすみません」と、敢えて腰の低い物腰をする。


「では、お茶はこちらに置いておきますので、喉が渇いたらお飲み下さい」


 フローラは淹れたてのスリータを人数分テーブルの上に用意した。


「───そうさせて貰う」


 一応、感謝のつもりなのだろう。ぶっきらぼうな物言いだが、そこまで悪い者ではないようだ。然し、ディレザリサの前に座るこの男は違う。底の見えない、強大な力を秘めているに違いないのだが、レウターから感じるものは、一般人と同等な力しか感じない。


「長いするつもりはないのですが、少しばかりこちらの質問にお答えして頂きたいのです。よろしいでしょうか?」


(よろしいも何も…この状況でそれを拒める者もそういないだろう…)


「えぇ、構いません。フローラもいい?」


「は、はい…」


 フローラは不安そうな顔をして、俯いている。無理もないだろう。身分が全く異なる相手が二人も家に押し掛けて来たのだ、萎縮しない者の方がおかしい。


(しまった…私は堂々とし過ぎたか…?)


 もしかしたら、既に心理戦は始まっているのかもしれない。そう、この男が扉を叩いた瞬間から…。


「では、質問をさせて頂きます───」


 ディレザリサは、これから始まる尋問とも呼べるレウターの質問に警戒をしながら、それでも『捩じ伏せてやる』と、心の中で闘志を燃やした。


「・・・・・・」


 レウターの後ろにいるゼルと呼ばれる魔族だけは、ただ何も語らず、二人の言動を一言も漏らさずに聞き取ろうとしているのが分かる。つまり、レウターだけ警戒していては、後ろのゼルに確信を突かれてしまうという事だ。


(なるほど…これが五将を束ねる男の策か…隙だらけと見せかけて、死角から刃を突き立てようとするその目だけは誤魔化せないがな…)


 こうして、四人の思惑が交差する心理戦が幕を開けた……。


 【続】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ