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時風高校探偵倶楽部の活動報告  作者: 也麻田麻也
第一章 94盗難事件
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体育の時間

「後ろから前に回してね」

 三校時終了のチャイムが鳴るとルーム長が呼び掛けた。


「もうちょい待って。あと五秒。嘘、やっぱり二十秒」

 木ノ実は残像が見えるんじゃないかと言うほどの速度で手を動かす。プリントは自力で解くことが出来なかったようで、いち速く終わらせていた金井のプリントを書き写していた。

「ふー。頑張った」


 書き写し終わったのか、金井と自分のプリントを前に流す。達成感満載のコメントではあるが、自力ではやってないじゃないか。そう俺が冷めた目を向けていると、木ノ実は立ち上がり、ジャケットを脱ぐと、シャツのボタンを開けだした。


「何してんの!」


「うん?」

 と、俺を向いた。ボタンの上半分は開けられており、白のスポーティーなブラと小振りな胸が目に飛び込んでくる。

 

 俺は慌てて横を向く。


「次体育だから着替えしてるだけだけど?」

 何か問題あると言った感じで小首を傾げてくる。


「えっ……」

 木ノ実の答えに唖然としていた俺に月城が早口で言ってくる。


「ジャージは持ってきているか?」


「持ってきているけど……」

 ジャージを入れてきたリュックを手にし言う。


「こっちに来い」

 と、月城は下を向き俺の手を引いてベランダに連れ出す。もちろん教室からはその行為に対してキャーと黄色い声が上がるが、俺は気にする余裕もなく引っ張られた。


 俺達の教室は一階にあり、ベランダに出ると少しばかりのコンクリートの地面の先に、グラウンドの土の地面が広がっていた。


 教室の窓を背に、グラウンド方向を見つめ月城は口を開いた。


「体育の時はなるべく早くベランダに出るようにしろよ。みんなほぼ女子高気分で着替えるからさ」


「女子高気分って、教室には俺とお前がいるじゃん」


「一年の一学期は僕と翔が外に出るまでは着替えたりしなかったけど、今じゃもう待たずに脱ぎす始末だよ」


 そう言うと月城はしゃがみバックからジャージを取り出し着替えだした。

「全員着替え終わったら誰かしら教えてくれるから、それまでには着替えておけよ」


「了解」

 と、俺は即答した。


「あと、カーテン閉めてないからって覗くなよ」


「覗くか」

 さっきの倍は早く答えると俺も着替えはじめる。


 五月だと言うのに陽射しは強かったので、俺は上下ともに半袖に着替えた。

 着替えも終わり、制服も皺がよらないようたたみ終え、やることもなくなった俺がじっと空を見つめていると、月城がボソッと呟いた。

「今日は遅いな」


 女子の着替えほど遅いものはないな。


 暫くすると校庭にクラスメイトが集まりだした。サッカーボールの入ったカゴを押しているので、今日はサッカーをするようだ。


「サッカーか……」

 月城がぼそりと呟くと、窓がガラッと開けられた。


「お待たせしました」

 声を掛けてきたのは金井だった。やっとかと思い振り返ると、教室の中は空になっていた。


 教室にリュックを置き、玄関で靴を履き替え校庭に出る。


 校庭に出ると、黒のタンクトップを着た上腕二頭筋が逞しい女教師が、腰に手を当て俺達を待っていた。


「今日はサッカーをするから、三班に別れなさい。男子が揃うとフェアじゃないから、男子は同じ班にならないように」


 教師の指示に従いクラスは三つの班に別れた。

 

 俺は体育の授業は好きだった。

 自慢のようになるが、元来運動神経も良い方で体格も良いので、体育の成績は今まで五段階評価で五しか取ったことがない。

 特に球技は得意で、サッカーでもバスケでも部活に入ってるやつにも比毛を取らないプレーが出来ていたと思う。


 運動神経抜群の転校生はモテると相場は決まっているのだろうが、ここではそんな経歴は通用しなかった。


 いや、必要なかったと言った方がいいかな。


 同じチームになった日向からキーパーをやるように言われた。


 男子がフィールドに出てぶつかるのは危険だろうから渋々了承した。

 そして試合が始まります、ここがほぼ女子高だと言うことを再認識した。


 どうやら時風高校には女子サッカー部はないようで、はっきりいってみんな下手だった。中には運動神経の良さそうな子もちらほらいたが、ボールを追いかけてちょっと蹴ると言った感じで、白熱した展開とはほど遠いものだった。


 日向なんてボールを空振りする、ボールを追いかけて転ぶ、飛んできたボールが顔面に当たるなど、目も当てられない始末だった。


 たまに俺の近くまでボールをドリブルしてくるやつもいるたが、シュートは遅く楽々止めることができた。相手チームには月城がいるので、せめてあいつがフィールドプレーヤーならキーパーをしていても多少は楽しめたかもしれないが、体格は女子並みでも男は男。月城もキーパーをしていた。


 この学校じゃあ、どんな授業よりも体育がつまらない可能性があるな。


「はー」

 つまらなさから思わずため息をつくと一試合目が終わった。


 試合結果は一対零で俺の班が勝ったようだが、こんなにも結果が気にならない試合はなかった。

 次は木ノ実と金井のいる班との試合だが、またわいわいきゃっきゃっ言いながらボールを蹴るサッカーをするのかと思うと泣けてくるよ。


「水澤君何してるですか。勝って気を抜かないでください。次は茜の班なんですから」

 しゃがんで試合開始を待っていた俺に日向が話しかけてきた。膝には二枚絆創膏が貼ってある。


「良いですか、さっきの激闘は辛くも勝利を掴み取るとことが出来たですが、次は更に気合いをいれなければ勝つこと何て出来ないです。勝てるかどうかは、守備の要のキーパーである水澤君にかかってるですよ」


「はいはい」

 俺が返事をすると、ピーとホイッスルが吹かれ、試合開始が知らされる。

「頑張って零に抑えるから、お前は転ばないようにしろーー」


 もはや小学生にしか見えない体操着姿の日向に注意していると、キャッと言う女子の悲鳴と共に、何かが猛烈な勢いで迫ってきた。


「えっ?」

 と、声を漏らすと、その何かはゴールポストに辺りガンと言う大きな音を奏でゴールポストの裏に飛んでいった。

 俺は転がるサッカーボールを目で追ったあと、まさかと思いセンターライン付近に目を凝らす。


「あっちゃー。狙いすぎたなー」

 そこには悔しがる木ノ実の姿があった。

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