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時風高校探偵倶楽部の活動報告  作者: 也麻田麻也
第一章 94盗難事件
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クラスで唯一の補講女

 古典の授業も終わりルーム長が起立礼着席と通る声で号令をかけると、転校生が待ちに待った休み時間が訪れた。


 これから起きることと言えば、俺の席をクラスメイトが囲んでの質問攻めだ。どこから来たの? 部活はしていた? 彼女とかいるの? とひっきりなしに質問をぶつけられるだろう。


 俺は昨日の予習の答えを思い出しながら、囲まれるのは今か今かとうずうずさせながら席に座っていたが、クラスメイト達は誰一人席を立つことなく、カリカリカリとペンを動かしていた。


「……あれ?」

 予想していた状況が訪れ無いことに戸惑いの声を漏らす。

 どうしたのだろうと辺りをキョロキョロ見回すと、皆教科書を開き、一心不乱に勉強をしていた。


「無理だー」

 突如頭の上で拍手していた拍手女が声をあげると机の上に突っ伏した。

 何事かと思い見ると、拍手女はぐるりと向き直り俺の前の席の、月神よりも明らかに座高の低い、ウルトラの母のような髪型ーーツインテールと言う髪型ーーをした女に助けを求めた。

「彩香ちゃんお助けをー」


「無理です。私もいっぱいいっぱいですから、祥子に頼むです」


 彩香と呼ばれたウルトラの母女は、やけにですと言う単語を口にし、隣に座る祥子と呼ばれた女をバスガイドのように手で示した。


 拍手女は、直ぐに狼狽した顔を祥子に向けると助けを求めた。

 祥子は長い黒髪の穏やかな表情をした女で、大和撫子を絵にかいたらこうなるんじゃないのかと言う、美しい容姿をしていた。


 授業中も見るたびに思ったが、このクラスの女子は全体的にレベルが高い。祥子はその中でも群を抜いた美人で、学園のマドンナと呼ばれていても不思議ではないレベルだった。


「祥子ちゃん、私に救いの手をー」


「はいはい。教科書とノートを用意してね」

 容姿にあったおっとりとした声で祥子は言った。


 それにしてもみんな何をしているんだろうか。


「なあ」


 俺は月城に話し掛けると、月城はむすっとした顔を俺に向ける。


「話し掛けるなって言っただろ」


「そう言うなって。みんな何焦って勉強してるんだ?」


「……次の数学が小テストなんだよ」


「小テストあるのか」

 そう答えながらも、クラスの雰囲気としては小テストと言うよりは、これから中間テストが始まりますと言った感じの緊迫感があったので、俺は不思議そうな顔をして答えた。


「……小テストとは言え、点数が低いと放課後補講が入るから、みんな真剣なんだよ」


「マジかよ」

 進学校はそんな事するのかと俺は素直に驚いた。転入初日で補講など受けたら、俺のイメージが馬鹿で固まるんじゃないか。ヤバイ、勉強しないと。顔を青くし教科書を開くと月城がぼそりと言った。


「……十五ページから二十ページの公式を使った問題が出るよ」


「マジか。サンキュー」


「……隣でうるさくされたら僕の勉強の邪魔になるからね」


 そう答えると、静かに教科書に顔を落とした。馴れ合う気はないと言った月城であったが、根はいいやつなのかもしれないな。


 そんな事を考えつつ俺は一心不乱に教科書を読み込んだ。


 進学校の授業スピードは前の学校より遥かに早く、習ったことのない範囲ではあったが、編入に辺り勉強をしていたこともあり、小テストの結果は補講になる成績のやや上の結果となり、放課後の拘束は免れた。


「うっ、うっ、うっ。サヨナラ青春」

 どうやら補講が確定したのか、拍手女は机に突っ伏して泣いていた。


「二点も取れたんだから、茜にしては頑張ったわ」


 拍手女の名前は茜と言うようだ。


 ちなみにテストは二十五問の二十五点満点で、補講は十点からだ。俺は十二点で、月城と祥子の二人は満点だったようで数学の教師から誉められていた。


「今回の赤点は木ノ実一人だけだな。放課後補講を行う。次の小テストの時はクラス全員合格できるよう、しっかりと勉強しておくように」

 白髪が目立ち始めた四十代くらいの男の数学教師はそう言うと授業に戻った。

 数学の授業のスピードは今まで経験したこともないほど早く、俺は次の小テストで補講を受けないようにと必死についていった。


「うっ、うっ、うっ」

 補講の悲しみか授業に着いていけない苦しみかは分からないが、木ノ実茜の泣き声が俺にこの進学校の厳しさを教えてくれた。


「それじゃあ今日の授業はここまでとします」

 数学教師はそう言うと黒板の隣に貼られた時間割りに視線を送る。

「次の授業は日本史か」


 日本史と聞き俺の体はびくんと揺れた。

 別に日本史が苦手なわけではない。どちらかと言えば日本史は得意な方である。俺が日本史と聞き体を揺らしたわけは、この学校の日本史教師の存在からだった。


 俺がこの学校に編入した理由は日本史教師の天川楪(あまかわゆずりは)が大きく関わっていたからだ。


「三校時目に職員会議をする事になったので自習になります。天川先生から指示がない場合も遊ばずに自習するように」


 楪に会わずに済むかもしれない事に俺は胸を撫で下ろした。


 数学教師は木ノ実に放課後残っているように言うと挨拶をし出ていった。

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