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時風高校探偵倶楽部の活動報告  作者: 也麻田麻也
第一章 94盗難事件
3/40

隣の席はボーイッシュ

 時風高校は文武両道を売りとする進学校であり、元は女子高であったが、十五年前に共学に代わった学校の筈だ。

 女子高の名残か生徒比は六対四で女子が多いとも聞いてはいたが、眼前に広がる光景は誰がどう見てもそんな計算が成り立たないと分かる男女比だった。


「あっ……水澤……攻です。……えっと……」


 パターン4。女子しかいないクラスに転入してきた場合の男子の挨拶等用意していなかった俺は、はじめてのお使いに来た人見知りの子供のように言葉を詰まらせた。

 転入生の挨拶としては零点で、薔薇色ならぬどぶ色の学校生活のスタートを切りそうな挨拶を続けていると、救いの船なのか終焉を知らせる鐘なのかは分からないが、キーンコーンとチャイムが鳴った。


「はい水澤君ありがとうございます」


 ホームルーム終了のチャイムだったようで、坂上先生は俺の挨拶を打ち切った。

「席は一番奥の空いているところになります」

 教室には空席が二つあり、そのうちの右奥、窓際の席を手で示した。


 するとまた女子達がまたキャーッと黄色い声をあげた。

 その席が、座ったものが不幸になる席であるためにどよめきが起こるならまだ理解できたが、黄色い声が上がる理由が見つからずにいると静かにしなさいと坂上先生が声を張った。


 注意をすると、黄色い声はやんだが、代わりにヒソヒソと皆喋りだし、騒がしさのレベルが少し落ちる程度の結果となった。坂上先生はそこで諦めたのか、はーっとため息をつき、俺の肩にポンと手を置いた。

「頑張ってね」

 

 自己紹介の失敗と女子しかいない教室に気持ちを沈ませながら、黄色い声が上がる謎の席に向かうと、すれ違う女子達がどこか輝かせるような瞳を向けてきていた。なんだろう。挨拶は零点であると思っていたが、そんなに悪い印象は与えなかったのだろうか。


 そんな事を思い席に向かっていると、謎の席の隣に座る女ーーつまりは俺の隣の席の女ーーと目があった。

 ショートカットのボーイッシュな女で、座高の高さから小柄だと言うことが分かる。目鼻立ちは恐ろしく整っていて、前の学校のクラスメイトの誰よりも綺麗であった。


 普通ならば可愛い子の隣の席に座れ、ラッキーと喜ぶシーンなんだろうが、俺の心に喜びなんてものは浮かんでこなかった。ボーイッシュな女子は他の女子のような輝かせるような瞳ではなく、親の敵を見るような険しい瞳を向けてきていた。


 名前以外ろくに語れなかった挨拶がそんなにも気に入らなかったのだろうか。いや、それならば不愉快そうな目を向ける位で済みそうだが、ボーイッシュな女子の目は、明らかな敵意を宿していた。


 女は目があったと気づくと、視線をスッと反らし廊下側に向けた。クラスの大半からは輝いた瞳を、隣の席の女からは敵意を露にした瞳を向けられる。思い描いていた薔薇色のスタートとは違う現実が椅子を引く手を重くさせた。

 

 中学時代も前の学校でも色々あり俺は女子と話した経験が少ない。何をどう話せばいいのかも分からないレベルだ。

 そんな俺が、この女子しかいないクラスでどう過ごしていけばいいのだろうか。転校から五分で元の学校に戻りたいと、ホームシック的なものにかかっていると、坂上先生がこのまま授業に入るので教科書を出すよう言ってきた。


 どうやら一限目の担当は坂上先生のようで、日誌を横にどけると古典と書かれた教科書を教卓の上に出す。


「えー。休憩なしかー」

 俺の二つ前の席に座る女ーー頭の上で拍手していたやつーーが不満そうな声を漏らした。


「授業も遅れているんだから文句を言わない」

 不満を一言で払い除ける。

「ルーム長よろしく」


「はい」

 ルーム長と呼ばれた、いかにも真面目そうな子ーー眼鏡にみつあみと言う昭和感のある女ーーは返事をすると、起立と号令をかけた。

 その言葉に従い立ち上がると隣の席の女も同時に立った。背は俺の肩くらいで、小柄に思えたが女子としては平均的な身長はありそうだった。俺の背が180だから、160近くはありそうだ。

 ちらりと横目でボーイッシュな女を見ていると、礼と号令が鳴った。

 お辞儀をしていると、俺の視界にちらりと隣の席の名も知らない女が写り込み、俺はとある重大なことに気づいた。


「……えっ?」

 思わず声が出てしまうほど重大だった。


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