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時風高校探偵倶楽部の活動報告  作者: 也麻田麻也
西根優人浮気事件
28/40

無駄な時間

「なあ。中学が分かれば高校も調べられるのか?」


「……はい。うちのクラスに同じ中学の人がいればその人から聞けますし、クラスにいなくても校内で同じ中学を卒業した生徒を探せばいいだけです。大人数なら口止めは難しいですが、一人くらいの口止めは容易いですからね……何か策があるですか?」


「ああ」

 そう答えると、俺に視線が集められる。

「中学の名前は分かると思う」

 百パーセントの自信はないけれど、それでもかなりの確率で見つけられる筈だ。


「中学の時バレーで選抜に選ばれたのなら、ネットに選抜のメンバー表が残っているんじゃないのか?」


「メンバー表?」

 月城が聞き返してくる。どうやらピント来ていないようだった。


「県選抜に選ばれると、学校名と学年の名簿が県の協会のホームページに乗ったりするんだよ」

 気づいたことにより、テンションが徐々に上がっていき、自然と早口になっていく。

「ちょっとパソコン貸して」


 ノートパソコンを受けとり、俺は検索ワードを打ち込む。

「えっと、バレー、中学、M県選抜っと……ほら出てきただろ」


 日向は席を立ち俺の横に来ると、画面を覗き込む。画面にはM県バレー協会のホームページと年度別の選手一覧が、PDF データで載せられていた。

 俺は一昨年のデータを開くと、中には俺と中学の学校名が載せられていた。


「これは……PDF データとは盲点でした。ちょっと貸すです」

 俺の不馴れなタイピングの五倍速の速さで打ち出す。検索ワードは、バレー、中学、F県選抜。すると直ぐに県のバレーボール協会のホームページが現れる。

 俺達は顔を近づけながら、その画面を食い入るように見る。日向が一昨年の選抜のデータを見つける。これもPDF データだ。


 良かった。

 県は違うがデータは同じようにあった。


「開くです」

 日向は俺達の顔を見回し言う。俺達三人が同時に頷くと日向はクリックした。


 そこには一昨年の選抜のデータが乗っていた。十五人程名前が羅列してあり、その中には西根優人の名も載っていた。そして、その横には保川中学校としっかり学校名が載せられている。

「水澤くんお手柄ですよ」


 誉められたことと西根の手がかりを掴んだことで俺の心の芯が熱く加熱する。

「これで高校が調べられるのか?」


「ハイです。保川中学校の出身者ならうちのクラスにいるですから、高校も分かる筈です」

 ニヤリと悪戯な笑みを浮かべる。

「それにしても保川中とは……無駄な時間を費やしてしまったですね」


「無駄?」


「そうです。本当なら調べるまでもなく、西根さんの情報を仕入れられたです」


 金井と月城もうんうんと賛同する。


「どう言うことだ?」

 俺にはその意味が分からずに聞く。


「直ぐに分かるですよ」

 と言うと、携帯に手を伸ばし操作するとテーブルの上に置いた。

 すると携帯からは軽快な音楽が流れた。しばし音に耳を傾けていると、携帯から『はいはーい』と、馬鹿みたいに明るい声が流れた。この声は……。

「まさか……」


「そのまさかです」

 日向はニヤリと笑う。

「茜、今大丈夫ですか?」

 テーブルに置いた携帯に話し掛ける。電話の相手はクラスで唯一補習を受けている、部室に顔を出していない探偵倶楽部のメンバー、木ノ実茜だった。


『大丈夫だよー。先生も少し前に、私の教え方が悪いのか。どうして分かってくれないんだって、プリントやって出来たら職員室に持ってくるようにって言って涙を流して教室出ていったから、今一人だよ』


「……」

 無言で携帯を見つめる俺と日向と月城。


「あらあら」

 金井だけは、一人愉快そうに笑みを浮かべている。


 教師を泣かせる馬鹿さってどんなレベルなんだ。

 そもそもここは進学校の筈だし、火乃のせいで倍率が上がり入学するのも至難の学校なんじゃないのか? 

 西根の存在よりも木ノ実が入学したことの方が謎な気がする。


「茜……同じ中学だった西根優人君の事について聞きたいのですが、彼の事、覚えているですか」


 日向が無駄な時間といったのも頷けることだ。

 探偵部のメンバーの中に同じ中学出身の者がいたと言うのに、ネットで必死に探っていたのだから。

 そして同じ中学ならば進学先も知っている可能性は高いだろう。


 これでグッと進展するな。


 俺達はそう思い胸を撫で下ろしかけたとき、木ノ実は予想外の言葉を返した。いや、木ノ実の事を考えれば予想通りなのかもしれないな。


『西根……優人……? 聞いたことあるようなないような。うーん。それって私が知っている人?』


「……聞いたことある筈です! 同じ中学ですよ。同級生ですよ!」

 日向が携帯に向かい叫ぶ。


『わっ』

 大声に驚く。

『だって同級生って言ってもいっぱいいるんだよ!』


 確かにそうだな。俺の中学は三クラスと比較的生徒数は少なかったから覚えてはいるが、中には十クラスを越えるようなマンモス学校もある。交流が全くない生徒を覚えていないのも仕方のないことかもしれない。


「何言ってるですか。保川中は二クラスしかないじゃないですか」


 二クラスかよ。それで覚えていないって相手が可愛そうだぞ。訂正。全く仕方なくなどない。覚えてないお前が悪いぞ。


「脳細胞をフル回転させ思い出すです」


『フル回転って無理だよ。だって今プリントやって、頭から煙が上がりそうなんだもん』


「うー」

 木ノ実のギブアップ宣言に日向が頭を抱えると金井が携帯に向かい話しかけた。

「因みに西根さんはイケメンの男子ですよ」


『イケメンですと! どのくらいのイケメン度?』

 イケメンという言葉にブラックバス並みに勢いよく食い付く。


「そうですね……」

 金井はイケメン度を考えているのかーーそもそもイケメンとは度数で表すものかは不明だがーー俺と月城に交互に視線を送る。

「水澤さん以上、月城さん未満のイケメン度です」


『水澤?』

 ダブルでショックを受ける俺。月城に勝てるとは思っていないが、はっきりと月城、西根以下と言われたショックと、木ノ実に名前を覚えられていなかったことだ。会って一日とは言え、俺は木ノ実と結構仲良くなった筈なんだけどな……。


「水澤攻さんですよ」

 丁寧に金井は説明する。


『こう……こう……あっ、せめちんか!』

 思い出してくれたようだが、せめちん以外で覚え直して貰いたいものだ。

『ふむふむ。せめちん以上うけちん未満と言うと、かなりのイケメン君だね。待ってね、同じ中学でイケメンの西根君……あー、思い出してきた。思い出してきたけど……えっと……ここまでは出てきてるんだけど……あー、えっと……』


 電話越しでも木ノ実が思い出そうとしているのは伝わってきたが、どこまで出てきているかは謎だった。電話じゃ分からねえよ。 


「茜ファイトです。あと一息です!」


『ひっ、ヒントをお願いします』

 ヒントって、いつからクイズゲームになったんだよ。


「ヒントですと……そうですね。お顔を拝見したところ、攻めに見えますね」


『攻めだって! イケメン……攻め……西根優人……攻め……攻め……攻め』

 ぶつぶつと呟き必死に思いだそう手している。


 と言うよりヒントを出すならバレー部とか身長は高そうとかの情報がいいんじゃないのか? そもそも画像を見せれば一発じゃないか? 俺がそう思い口を開こうとした瞬間、木ノ実は答えにたどり着いた。


『あっ、思い出した。西根優人君! 同じクラスにいたよ!』


 思い出してくれたのは有難い事だが、同じクラスの生徒の事を忘れるなよ。西根が知ったら泣くぞ。


『バレー部だったヤンキー君だね。確かに攻め系イケメンなのは間違いない。ただ、私は彼の目の奥にある優しさから、受けの可能性もあると睨んでいるよ』


 後半は要らない情報だったが、しっかりと思い出したようだった。


「その西根君ですけど、今どこの高校に行ったかは分かるですか?」


『保川中のヤンキーは大抵は近くの保川高校に行くから、西根優人も保川高校の筈だよ』


「……なっ」

 横で月城が保川高校と言う名前に反応した。


 肩がピクリと揺れ、あと十センチ離れていたら聞き逃しそうな程小さな声をあげた。


「新しい依頼が入ったから、茜には部室に来て貰いたいんだけど、プリント終わらせるのにどれくらいかかりそう?」

 金井が身を乗りだし、電話に向かい静かに話し掛ける。


 日向は神妙な面持ちをしている。部室の中を流れる空気が変わったのが分かった。


『うーん。あと一時間はかかりそうかなー』

 

 さすがに一時間は待てないと判断したのか、日向は直ぐに来るように伝えた。

「……分かったです。今回は緊急事態なので、プリントは私達が手伝うですから、急いできてくださいです」


『手伝ってくれるの。やったー』

 弾むような声がスピーカーから流れると、早速向かう準備をしているのか、ガサガサと物音がした。


「それでは待っているです」


『らじゃー』


 返事が流れると、日向は電話を切り、ぼそりとため息混じりにいった。

「これは厄介な展開になってきたですね」


「そうですね。保川高校が絡んでいるとなると、対応は気を付けなければなりませんね」

 

 神妙な空気の中、一人事態を把握できずにいた俺は口を開く。

「なあ、何が厄介なんだ?」


「外から来た水澤くんには分からないと思いますが、保川高校はちょっと厄介な学校なのです」

 苦笑ぎみな笑みを浮かべる。

「保川高校……正確には県立保川高校は県内有数の不良生徒が集まった学校。早い話がヤンキー校です」


「ヤンキー校ね。まあどこの県にも不良が集まってくるような学校はあるけどさ、保川高校はそんなにヤバイ学校なのか?」


「ヤバイです。生徒の二人に一人は不良です」

 漫画の世界でならクラス全員が不良の学校も登場はするが、現実世界ではまず有り得ないだろうな。入試制度がある以上学校側もより成績がよく、真面目な子をとりたいと思うのが通常だろう。そう考えると、クラスの半数は不良と言うのは相当なことなんだろうな。


「保川高校のような不良校の生徒が高校名を偽って近付いてきた。なにか裏がありそうですね」

 と、金井。 


「単純にヤンキー校だから隠したかったとかじゃないのか?」


「それなら話が早いですが、そうだとすれば説明ができないことがありますね」


「どう言うことだ?」

 わからず聞くと、すっと金井が手をあげ話そうとする日向を止めた。

 

「それは……茜が来てから話しましょうか。今回の依頼の謎についても一緒に」


 いい終えると同時に部室の戸が開いた。

「お待たせー。約束通りすぐ来たから、プリントお願いね」

 バックからプリントを取り出すが、雑にしまっていたのか、紙はよれていた。こう言うところから性格が伺えるな。よく言うと豪放磊落。悪く言うと、大雑把、ずぼら、ずさんだな。


「プリントの解き方はあとで教えるから、まずは話をしましょうか」

 そう言うと金井は木ノ実に席に座るよう促す。座るのを確認すると金井は柔和な笑みを浮かべる。

「探偵倶楽部が解かなくてはならない謎の話を。依頼者の心の悩みと渦巻く謎の話を」

 

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