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時風高校探偵倶楽部の活動報告  作者: 也麻田麻也
第二章 探偵倶楽部勧誘事件
20/40

赤い女

 時風高校には二つの校舎がある。


 一つは一般校舎と呼ばれる、教室が連なった三階建ての校舎。学校生活の大半はこの校舎で過ごすことになるな。


 もう一つは特別校舎と呼ばれる四階建ての校舎がある。特別校舎は一、二階が職員室や校長室、それから化学室など特別室がある。俺も今朝は校長室に保護者と挨拶に行ったから、この校舎に入ったことはあった。三階と四階は文化部の部室が連なっていて、放課後の今でも賑わっている。

 俺が目指している探偵倶楽部の部室はこの特別校舎の四階の最奥に位置している。一般校舎から渡り廊下を伝い特別校舎に入り四階まで階段を上ってくると、俺は体にずっしりとした疲れを感じた。


 距離が遠かったこともあるが、俺を疲れさせた最大の原因は腕にはめられた手錠と背に当てられたスタンガンにあった。


 両サイドを月城と金井に挟まれ、後ろを日向に抑えられた俺は、この部室に向かう間すれ違う生徒達ーーもちろん女子生徒だーーに奇異の目を向けられていた。

 そりゃあ向けられるよな。

 誰が見ても、放課後を部活に勤しむ生徒の様子には見えないからな。連行される犯人か人質にしか見えなかっただろう。


 思い描いた薔薇色の学校生活では、今頃出来た友達とファストフードの店でハンバーガー片手に談笑していた筈だと言うのに……暗い気持ちで探偵倶楽部の部室の前で立ち止まっていると、日向が俺の前に出る。


「さあ、今から入るですよ。心の準備は良いですか?」

 心の準備等何も出来ていない。そう言ったところで日向は聞く気はないのだろう。


 俺の返事も待たずに戸を三度ノックした。

「失礼するです」


 戸を開け日向が入っていくと月城が俺の背を押した。

「入りな」


「分かったよ」

 中に一歩足を踏み込むと鼻腔に古書の古いインクのような臭いが飛び込んできた。

 いや、実際に古書の臭いなんだろう。探偵倶楽部の部室の広さは教室と同程度あるのだが、部屋の奥、前半分は本棚が並んでおり、部室を狭く感じさせていた。


 部屋の残り半分には校長室にありそうな木製のデスクと安っぽい長机が二つ置かれている。部屋を見回していた俺は、木製のデスクの所でピタリと首の動きを止めた。


 そこには俺の目を止めるものがあった。いや、そこにはいたか。


「君が水澤攻か。思ったよりもいい顔をしているな。馬鹿な弟に良く似ている」

 木製デスクの後ろで女は読んでいた本を閉じると視線をあげ言った。赤い髪と赤い瞳をした女が不敵な笑みを浮かべて。


 自己紹介なんかしていないと言うのに俺は、そいつが探偵倶楽部部長の火乃真夜だと言うことが分かった。部室に初めからいたからとか、放送で声を聞いていたからとかそういう理由ではない。


 火乃真夜には圧倒的な存在感があったからだ。


 この部屋の主ーー探偵倶楽部の部長ーーは彼女以外にあり得ないと、その存在感が語っていた。


「自己紹介といこうか。私の名前は火乃真夜。呼び名は真夜ちゃん、真夜様、先生、真夜姉様、女帝、紅蓮の魔女、赤眼赤髪の悪魔、真夜ぴょん、部長、鬼なんてのがあるが、好きに呼んでくれ」


 理解できるものから、誰が呼んでるんだと言う呼び名があがった。


「同じ部活の仲間になるんだ、私は(こう)と馴れ馴れしく下の名で呼ばせてもらうよ」


「……同じ部活になんかならねえよ」

 歯向かうことすら憚られるような、火乃真夜の存在感に圧されながらも、俺は声を振り絞り言い返した。


「往生際が悪いですよ。部長が直々にお声掛けしてくれたんです、水澤君には断る権利などないです」

 日向は興奮ぎみに言うと、火乃真夜の死角になるように脇腹にぐいっとスタンガンを押し当ててきた。


「彩香、降ろしな」

 火乃はスタンガンに気づいたのか下げるよう指示を出す。


「……はいです」

 不服そうにしながらもスタンガンを下げた。


「いきなり探偵部に入れって言われてもごねるのは仕方がないこと。彩香も茜も受もそうだっただろう?」


「……」

「……」

 その言葉に、この場にいた日向と月城は無言で俯き肯定を現した。


「その場で入部したのは私くらいですね」

 ふふふと笑いながら金井は言った。


「お前は特に変わっているからね」

 苦笑ぎみに笑うと火乃は席から椅子から立つ。存在感のせいか座ってる時は大きく見えたが、立ち上がると小柄な女子だと言うことが分かった。


 木ノ実と日向の間くらいの背だろうな。


「少し攻と二人で話をしたいから、席を外して貰えるか?」

 部員それぞれに目配せする。

「それから彩香。攻の錠を外してあげな。このままだと落ち着いて話もできないだろう」


「でも……」

 外したら逃げることを警戒したのか、日向はスタンガンの時とは違い、迷ったような声をあげた。


「大丈夫。攻は逃げないさ」

 そう言うと火乃は俺の側まで来ると、俺の耳をぐっと引っ張った。


「痛っう。何すんだよ」

 耳の痛みから俺が声をあげると、火乃は耳元でボソッと呟いた。「ーーーーーー」


 その言葉に俺の目はみるみる見開かれていく。なんで……なんでその事を知ってるんだ。


「どうだい。少しは私と話をする気になったかい?」

 不敵な笑みが俺の心の中のざらついた部分を撫でる。


「……ッ!」

 話をしなければどうする気だ。そんなこと聞く余裕などないほど俺の心は乱れまくった。


 荒波に呑まれた木片のように、俺の心の奥深くにしまい込んでいた過去が幾度も顔を浮かべる。


「なんなんだよ……あんたは」

 苦痛と悲しみに教われた目を向ける。


「時風高校探偵倶楽部二代目部長の火乃真夜。この学校のしがない探偵さ」

 俺の目を反らすことなく見つめ返すと、夕日よりも赤い髪と瞳を向け、火乃真夜はまた不敵に笑った。

 




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