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プロローグ

 転入生が初登校の前日に必ず行うことと言えば、自己紹介の練習だろう。

 その自己紹介のでき次第で今後の学校生活が変わると言っても過言ではない。だから、鏡の前で笑顔の練習をしながら、暗記した自己紹介を読み上げる何てのは、転校したことがあるやつなら誰もがやったことがあるだろうな。

 勿論、昨日の夜に俺も何度も何度も鏡に向かい練習をしたよ。


 俺が転校する学校は私立時風高校っていう文武両道を売りとする進学校なんだけど、転校することが決まったのが急で、学校見学も、詳しく調べることが出来ず、学校の雰囲気ってものが分からなかったら、色々な挨拶のパターンを考えて練習をした。

 

 転入生の挨拶で大切なのは噛まずに読むことよりも、このパターンを合わせるってことだと俺は考えているよ。


 例えばクラスの大半が真面目な生徒だったら、ウケを狙いに行っても滑るだけだろうから、名前と出身地プラス真面目な趣味を言うくらいがちょうどいいかな。趣味は読書で好きな作家は太宰治ですとかかな。

 自己紹介の時に姿勢よく静まり返っていたらこれに限る。


 逆に明るいクラスなら真面目で地味なやつと思われると友達作りに苦労するから、少し砕けた感じがいいね。

 名前と趣味プラス星座を言って、朝の占いでラッキーカラーが青と言っていたので青いハンカチを持ってきました。青い小物を持っている人は今日はよろしく……何て挨拶がいいね。

 ちなみに今朝の蟹座のラッキーカラーは青だったから、青いハンカチは忍ばせてきている。

 自己紹介の時に、回りとこそこそ話しているやつが多い時や囃し立てるようなやつがいたらこのパターンだな。


 あとはこの進学校では使うことはないだろうが、生徒の大半が不良だったら、無言で睨みつけると言うパターンがあるな。ひよったり受け身になったら絡まれたりパシりになるのが落ちだから。


 俺は昨日の夜、この三パターンの練習を噛まずにすらすら言えるようになるまでやったし、どのパターンが来ても薔薇色の学校生活を送れる自信があった。

 希望としてはパターン2が来てくれ。そして3は来ないでくれ。

 

 そんな事を神に祈りながら、三十代くらいの生真面目そうな眼鏡をかけた女の担任ーー確か坂上だったかなーーに案内され教室に入り、どのパターンなのかと緊張を顔に出さないようにクラスメイトを見渡した。


「……」

 女子が背が高いねやちょっとカッコいいかなとこそこそ話している。頭の上で拍手して転校生だと喜んでいる女子もいる。


 クラスの雰囲気は明るく、用意していたパターンで言えば2なんだろう。しかし……。



 騒ぐクラスメイトに背を向け、坂上先生がリズミカルな音を奏でながら黒板に俺の名前を書いた。


「今日からクラスの一員になる水澤攻(みずさわこう)君です」

 指についたチョークの粉を払いながら名前を読み上げると、クラスからキャーッと黄色い歓声が上がる。

 俺を含めて三十人のクラスと聞いていたので、黄色い歓声をあげているのは最大二十九人の筈なのに、まるで数百人規模のライブに来たんじゃないかと錯覚するほどのボリュームが教室に響き渡る。


「静かに」

 坂上先生が手をパンパンと叩き沈めようとするがライブは終わる様子も見せない。諦めたのかはーっとため息を着くと自己紹介をお願いねと俺に耳打ちをしてきた。


「……えっ……あっ……」

 昨日さんざん練習してきた自己紹介をすることになったが、俺の思考は真っ白になり口からは戸惑いの声だけが出た。

 俺が喋ろうとしたのに気付いたのか、女子達はピタリと静まり、俺をじっと見つめてきた。


 クラスの雰囲気は明るい。けれどこのクラスに使うパターンは間違いなく2ではない。 

 時風高校二年七組の二十九人の女子生徒の瞳が俺にその事を教えてくれた。


 緊急事態。クラスの生徒が全員女子だった時のパターンなんて用意してきてないよ。


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